オズワルドの転機はあの“敗退” 「負けて学ぶことのほうが多い」

2021.9.21
2年連続『M‐1グランプリ』決勝進出、『ABCお笑いグランプリ』優勝と、着実にスターへの階段を上っているオズワルドの二人。天職ともいえるお笑いとの向き合い方を伺いました。

2019年から2年連続で『M-1グランプリ』のファイナリストに選出、さらに今年『ABCお笑いグランプリ』で優勝し、いま熱い視線を集めているお笑いコンビ、オズワルド。二人がお笑い芸人を目指したのは、「自分の好きなことを仕事にしたい」という、共通の思いからだった。

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畠中悠:中学生の頃、『爆笑オンエアバトル』を見たことがきっかけで、お笑いが好きになりました。高校卒業後に就職して3年くらい経った時に、さくらももこさんの『ひとりずもう』というエッセイ漫画を読んで、好きなことを仕事にするというのはなんて素晴らしいことなんだ、自分もそうしようと思ってNSCに入りました。

伊藤俊介:僕が最初に影響を受けたのは、『ダウンタウンのごっつええ感じ』ですが、一番の理由としては、「面白い」と言われることくらいしか褒められることがなかったから。あと、もともとは教員を目指していたけど、朝起きられない俺なんかが、子どもに教えていいワケがないと思ったんです。一般社会で働くのは不可能だから面白おかしく生きようと思って、同じくNSCに入りました。

畠中:仕事を辞めて芸人になることへの不安は一切、なかったです。チョコレート工場に勤務していた時、1t分の溶けたチョコを床にこぼしたことがあって。くるぶしくらいまでチョコに浸かり、パニックになってティッシュを2枚くらい手に取ったんですけど、まあ、無力で。こんな失敗をするやつは働けないと踏ん切りがついた。

伊藤:芸人の何がいいかというと、失敗しても、自分のせいになるだけなんですよね。他の仕事は、特に教員とかは責任の塊だから。

畠中:ミスさえも仕事になる、唯一の仕事だと思います。

――NSCには、それぞれ別の相方と入所。その後、畠中さんは在学中、伊藤さんは卒業後にコンビを解散することに。

畠中:それからはずっとピンで、肩書は一応、吉本の芸人でしたけど、月に1回、2分間のライブをするような生活。そんな時に伊藤が声をかけてくれたんです。

伊藤:面白いなというのはもちろんですけど、一番の理由は、こいつは辞めなそうだと思ったから。おそらく才能があるのに辞めていくやつ、めちゃくちゃいるんです。

畠中:しっかりしていて社会に適応できる人とか。

伊藤:人生を逆算して、先が見えちゃうんでしょうね。あとはシンプルに頑張れないというか、だらしなくて、面白いんだけど辞めていくやつ。その点、畠中は、良くも悪くもあまり深く考えていなかったというか、売れようが売れなかろうが辞めなそうだなと。そういうやつが強いと思います。

畠中:お金もないしどうなるかはわからないけど、幸せ指数は、就職をしていた時より、芸人になってからのほうが高いですから。

伊藤:そんな僕も、月1回だけのライブを4年近くやるような生活だったけど、なぜか「売れる」と感じていて。根拠のない自信を持っておくことは大事だと思います。

M‐1の1回戦で負けてボケとツッコミを逆に。

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――そんな二人が目指したのは、M‐1の決勝に進出すること。

伊藤:芸人が辞める理由として一番大きいのが、売れないから、だと思うんです。俺は芸人を辞めたくないからこそ売れたいと思い、世に出るにはどうすればいいかと考えて、M‐1しかないなと。それが唯一にして最大の方法だと。

畠中:ネタで売れたいという気持ちもありましたしね。

――実際、ファイナリストに選出されたことで、変化もあったという。

畠中:存在を知ってもらえたことで、劇場でネタをやった時の反応が変わりました。自分のクラスの面白いやつがやることでは笑うけど、隣のクラスのやつが同じことをしても笑わないみたいな感覚ってあると思うんですけど。隣のクラスの人も笑ってくれるように。

伊藤:逆に、前に同じクラスで笑ってくれていた人が笑わなくなったらどうしようという懸念もあったけど、根本が変わってないので、「あの時のお前らのままじゃん」と受け入れてくれたみたいで。全校生徒に笑ってもらえるようにならないと、優勝できませんから。

畠中:でも、M‐1の決勝に出るとすごく人気になるというイメージがあったけど、そういうことはなく(笑)。ただ、地に足がついたまま漫才ができので、逆にありがたいですけど。応援してくださっている人のこともちゃんと見えるし、大切にできるのかなと。

――決勝進出時より、1回戦で落ちた時のことのほうがターニングポイントになっていると話す。

伊藤:芸人としての何だかよくわからない自信とかを全て、粉々に砕かれました。でも、めちゃくちゃベタですけど、ピンチはチャンスというか、負けて学ぶことのほうが多いですよね。だって、勝ったら調子に乗るもの! M‐1で優勝した日には、町中を練り歩くんじゃないですか(笑)。

畠中:いろいろ変えなきゃいけないと思い、先輩であるダンビラムーチョの原田(フニャオ)さんにネタを見てもらったんです。当時は、伊藤がボケて僕がツッコむというスタイルだったけど、「普段は伊藤がツッコんでいるんだから逆だ」と言われて、ハッとしました。実際にやってみたら、ちゃんと前よりウケたんです。ネタは会話の延長線上にあるものだと思うので、普段の人柄が映し出されるほうが見ているほうも自然な感じがするし、やっているほうも楽。こうした会話劇というのが、一番いい形なのかなと。

伊藤:二人とも竹原ピストルさんが好きなんですけど、“積み上げたもので勝負しても勝てない、積み上げてきたものと勝負しなきゃ”みたいな歌詞の曲があって。それが刺さりましたよ(笑)。

――今、目指すのはM-1優勝。

伊藤:その目標が大きくドーンとあるから、その先が見えない。その先に何があるのかを知りたいから頑張っているところもあります。

畠中:優勝しなきゃ、というプレッシャーとかはないですね。僕たちはチャレンジャー側ですから。守る人のほう、つまりM-1側こそ感じていると思いますよ。若手の憧れである大きな大会でい続けないといけないですから。

伊藤:…何言ってるかわからないですけど(笑)。あと、僕はもっとテレビに出たいです。たまに“今のテレビは面白くない”と言う人もいるけど、知ったこっちゃないですよ。あの頃の自分が憧れていたものに出たい。僕は浜省スタイルというか、「ベッドでドン・ペリニヨン、純白のメルセデス」みたいなのが好きなので。とんねるずさんとか大好きなんです。

畠中:僕は劇場で本物の漫才をやりたい。お笑いが好きで、お笑いが見せたいものを見せる。手作りで生産数が少ない革靴を、本当に欲しい人に売るような感じです。

伊藤:そこは正反対なんですよ。でも、M-1優勝という目標は同じ。きっと、それが達成された時には、漫才師として別のレースがスタートすると思います。劇場で一番ウケるようになりたいし。M-1だと漫才の尺は4分くらいだけど、劇場だと10分とかありますから。その中でどれだけ笑わせられるかという勝負になると、他のコンビと話にならないくらい差をつけられているので。結婚式の余興でちゃんと滑りますし。

畠中:目の前のお客さんを見てネタを変えられるレベルには、達していないですから。あくまで今は競技漫才に力を入れているので。

伊藤:その時期を抜けた後、みなさん、めちゃくちゃ楽しそうになっているんですよ。

畠中:新しい漫才の世界が、そこにはあると思うんです。

オズワルド ボケ担当の畠中悠、ツッコミ担当の伊藤俊介からなるコンビ。2014年結成。ヨシモト∞ホール15周年のリニューアルにより誕生した、劇場看板芸人「ムゲンダイレギュラー」として活躍中。

※『anan』2021年9月22日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) ヘア&メイク・浜田あゆみ(メランジ) 取材、文・重信 綾

(by anan編集部)