なぜ夏は“辛いもの”が食べたくなる? 中医学的“理想の一品”とは

2020.7.4
憂鬱な時期を、体質別養生で快適に。中医学や養生法に詳しい櫻井大典さんによる「Daily(デイリー)養生」。今回のテーマは「辛いもの」です。
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暑いときほど、なぜかカレーやタイ料理など辛いものが無性に食べたくなる。そんな声をよく聞きます。これはある意味、理に適った行動なのですが、ちょっとした注意点もあります。今回は、夏の気候と辛い食べ物のお話を。

中医学では、味わいは「酸(さん)・苦(く)・甘(かん)・辛(しん)・鹹(かん)」の、五味(ごみ)と呼ばれる5つのカテゴリーに分けられ、それぞれに働きが異なると考えられています。例えば甘には緊張をゆるめたり痛みを和らげる作用があり、酸とともに摂ると潤いを生んでくれるものでもあります。また、苦みは熱を冷ます効果を持っています。

辛の働きはおもに、「発散させる」こと。温度も湿度も高いときは体に水分が停滞しやすく、だるさや下痢などの原因になりますが、その余分な水分を発汗で追い出してくれるのが唐辛子などの香辛料です。ピリ辛料理は、夏の体が自然と求めるものといえます。

ただし、だからといって辛いものをむやみに摂るのは考えもの。中国には激辛で有名な四川料理がありますが、四川省は亜熱帯地域に属する盆地で、高温多湿な土地です。夏の過酷な気候を乗り切るために、昔から唐辛子をたっぷり使った料理が欠かせなかったのです。日本、とりわけ都市部で同じように食べるのは、少々ゆきすぎ。辛は過剰になると体に熱をこもらせ、ほてりを生じたり、潤いを消耗して乾燥体質を招いてしまいます。五味は本来、バランスを考えながら摂ることが大切です。顔の上気がなかなかおさまらない、肌がかさつく…。辛いもの好きでそんな不調がある人は、頻繁に食べすぎていないか見直しを。

香辛料+補陰(ほいん)食材が◎。麻婆豆腐は理想の一品。

辛い料理を上手に楽しむには量の加減ともうひとつ、熱を冷ましつつ陰(いん)=潤いを補給する食材を組み合わせることがコツです。代表的なのがトマトや、きゅうりなどの瓜類。豆腐などの白いものにも、補陰効果があります。そう考えると四川料理の代表格である麻婆豆腐は、実は理想的な料理。唐辛子に豆腐を合わせているうえ、豚肉も陰を補う食材です。麻婆茄子に使われる茄子も、同じく体を冷まして潤いをもたらすので、おすすめです。

水分を発散させる利点を生かしつつ、ブレーキをかけてくれる食材も上手に取り入れる。そんな食べ方が、夏の辛い料理のポイントです。

さくらい・だいすけ 漢方専門家、国際中医専門員。完全予約制の漢方相談処「成城漢方たまり」で相談を行う。『体をおいしくととのえる! 食べる漢方』(小社刊)ほか、監修書、著書多数。https://yurukampo.jp/

※『anan』2020年7月8日号より。イラスト・原田桃子 文・新田草子

(by anan編集部)