数字と戯れ、ときに弄ばれ……かつての神童、どこへ行く?
どんな人にも得手不得手があるが、できない人ができる人を手放しで尊敬してしまうもののひとつが数学だろう。本作は両者の違いや、わかり合えないもどかしさをコミカルに描いているのだが、絹田村子さんも本人いわく、できない側なのだとか。
「次の作品をどうしようか考えていたとき、たまたま数学好きの人と知り合いました。話してみると文系の自分とは違う考え方や価値観を持っていて、面白いなと思ったんです」
京都の名門・吉田大学理学部に現役合格した横辺建己(たてき)は、神童と呼ばれて育ち、物理学者を目指していた。しかしながら初日の数学の授業がまったく理解できず、人生初の挫折を経験。ショックのあまり、引きこもって2年も留年したのち、気を取り直して再び大学に通い始める。
「せっかくなら主人公は、数学に向いていないタイプがいいと思い、記憶力だけで入試を乗り切ってしまったような人にしてみました」
数学が苦手な人の多くは、おそらく建己と同じように公式の意味を考えたことなどないだろう。しかし数学は、理解して積み重ねていく学問だと、変わり者揃いの理学部の友人たちは言う。次々と立ちはだかる難問に建己は混乱しまくりなのだが、たとえば銭湯で床のタイルを座標に見立てて、常連相手に説明が始まったり、花見会場で消えたお酒の犯人捜しをすべく、数学脳に突如スイッチが入ったりなど、解説パートがいちいち面白いうえにわかりやすい。
「大抵はシチュエーションを先に考えて、数学ネタをどう絡められるか、数学科出身の方などの意見を伺いながら組み立てています。数学が好きな方も苦手な方も読んでくださるので、匙加減がいつも悩ましいのですが、とりあえず私が聞いてもさっぱり理解できないことは入れないというのが基準になっています」
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絹田さん自身も、数学のイメージが徐々に変わってきている様子。
「たとえば面積の公式は、面積を出すときしか使わないと思いがちですが、本質を理解すればいろいろ応用できるらしいんです。だからもっと柔らかく考えないといけないとは思うんですけど、数学ができる人には公式がどういうふうに見えているのか、いまだに不思議ですね(笑)」
できる人もできない人も、必死な主人公を応援せずにはいられない。
絹田村子『数字であそぼ。』3 留年分の単位をなんとか取得して、数学専攻に進もうと腹をくくった建己。今まで以上に数学漬けの日々に耐えられるのか…。最新刊は京都ネタも満載です。小学館 454円 ©絹田村子/小学館
きぬた・むらこ 2008年『月刊flowers』に掲載された「道行き」でデビュー。代表作は宗教法人ジュニアコメディ『さんすくみ』や『重要参考人探偵』。
※『anan』2020年2月19日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)