映画を心の支えに生きるハルコ(緒川たまき)の前に、ある日、映画の中の登場人物が飛び出してきて――。ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)さんが敬愛するウディ・アレンの監督映画『カイロの紫のバラ』をモチーフにした舞台『キネマと恋人』。’16年に初演され、数々の演劇賞を受賞した傑作が、当時のキャスト、スタッフのまま再演に。
「前回は稽古と台本があがるのが同時進行だったので、台本を渡されたらすぐ覚えて稽古するっていう状態(笑)。しかもその合間に映画の部分の撮影もあって。めちゃくちゃ大変でしたけど、めちゃくちゃ楽しかったんです。その時から、みんなで再演も旅公演もやりたいねと話していただけに、実現できて嬉しいです」
妻夫木聡さんが扮するのは、芝居にこだわりを持つ売れない俳優の高木高助と、彼が演じる時代劇映画の人物で、気っ風のいい間坂寅蔵。
「寅蔵は悪いところが何ひとつないキャラクターで赤子のような無垢さがある。高助は、スターになりたい思いもあるけれど、それ以上に芝居を愛している。ふたりとも違う意味で純粋さが大事な役。ただ、寅蔵の決め台詞『まさかまさかの間坂寅蔵』に関しては、どう言うかすごく悩みました。ちょっと滑稽に見えたらいいなと思っていたんですが」
実際、初演は、画面から寅蔵が出ていって右往左往する映画関係者のドタバタと、寅蔵と高助から好意を寄せられるハルコとの恋が重なり、コミカルで甘く、軽妙だけどビターな上質のコメディの仕上がりに。「台本が、それだけで十分に面白いので、なるべく余計なことはしないように心がけていた」と話す。
「KERAさんは、まずは僕らの中で生まれるものを待って、それを尊重しながら軌道修正してくださる演出家。振付の小野寺修二さんを交えて、どの角度でどう動いたらいいか、映像とどう合わせていくかを全員で話し合ったり。一緒に作っている感覚でした。今回、劇場が大きくなるのでテクニカルな面で変わることもあるだろうし、前回をなぞって狙った芝居をすると面白くない気もするので、初演はいったん忘れて新しく作ろうかなと思っています」
映像でも活躍する妻夫木さんにとって、舞台は「夢みたいな場所」。
「本番が終わったら終わりじゃないですか。実際に舞台に立っていたはずなのに、この現実は本当にあったのかなって感覚になることがあって、舞台のその儚さがたまらなく好きなんです。観客の時も同じで、自分の記憶の中だけに残るから、時間を経ていくうちに作品が自分だけのものになっていくんですよ。物語がそれぞれの人の中で成長する。それがね、僕は素晴らしいなって思うんです」
『キネマと恋人』 昭和11年、東京から1年も2年も遅れて映画が上演される小さな港町。ハルコ(緒川)がいつものように映画を観ていると、銀幕から寅蔵(妻夫木)が話しかけてきて…。6月8日(土)~23日(日) 三軒茶屋・世田谷パブリックシアター 台本・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ 出演/妻夫木聡、緒川たまき、ともさかりえほか S席7800円 A席4800円(共に税込み)ほか 当日券あり。世田谷パブリックシアターチケットセンター TEL:03・5432・1515(10:00~19:00) https://setagaya-pt.jp/ 北九州、兵庫、名古屋、盛岡、新潟公演あり。撮影:西村裕介
つまぶき・さとし 1980年12月13日生まれ。福岡県出身。日台合作で製作された主演映画『パラダイス・ネクスト』が7月27日に、出演映画『決算!忠臣蔵』は11月22日に公開を控えている。
※『anan』2019年6月5日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・片貝 俊 ヘア&メイク・勇見勝彦(THYMON Inc.) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)
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