西麻布に誕生した『AC HOUSE』。その店は、異質と異質が混ざり合って新たな色を生み出す生命力に満ちている。
扉を開ければ真っ白で前衛的な空間、だけど2階へ続く吹き抜けの先には改築前の古民家の姿が覗く。カトラリーは箸とスッカラ(韓国のスプーン)のみ。国内陶芸家の美しき器で供されるコースは、一番出汁にスイカのジュースを合わせたり(ミラクルな相性!)、ラビオリでは、ブールブランソース(バターに白ワインを効かせた酸味のあるフランスの古典的ソース)と見せかけて発酵きゅうりのジュース(実に北欧的)が酸味を担っていたりと、あらゆる食文化が衝突しては新しい味覚をきらきら表出させる。そこにタブーはない。刺激的な魅力だけがある。そのうえどの一皿にも「おいしさ」の約束が背骨のように貫かれているのだから、あとはこちらも未知なる冒険を楽しみ尽くすのみ。
20代からオスロの三つ星店『Maaemo』でスーシェフを務め、日本橋『caveman』のヘッドシェフを経て『AC HOUSE』を開いた黒田敦喜さん。ライブ感溢れるカウンターキッチンで、料理に合わせた音楽が鳴り響くなか怒涛のコースに没入すれば、食体験ってなんて楽しいのか! と思わずにいられない。ちなみに「AC」は「ACCHAN」の略なのだとか。あっちゃん=黒田さんのあだ名。その脱力感もたまらない(笑)。
左下から時計回りに、スイートコーンとしらすとブルーチーズのスープ、ブッラータとンドゥイヤのラビオリ、煮穴子のリゾット。1か月半に一度ほどのペースで変わるディナーコース約10品(¥13,200)の一部。グラスワイン¥1,650~。
AC HOUSE 東京都港区西麻布2‐7‐7 TEL:03・6419・7566 12:00~14:30(土曜のみ、12:00一斉スタート)、19:00~22:00(19:00 一斉スタート) 日・月曜休 要予約 1日10席限定 詳細はインスタグラム(@ac_house_jp)で。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)など。
※『anan』2022年7月20日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)