
津田健次郎さん
アイドルグループのセンターを務める女性が、「恋愛禁止ルール」を破ったことで、裁判にかけられる物語『恋愛裁判』は、実際の裁判に着想を得て、深田晃司監督がメガホンを取った作品。カンヌ映画祭「カンヌ・プレミア」部門に正式出品され、高い評価を得たことでも話題になった。今作でアイドルグループの所属する事務所社長・吉田を演じた津田健次郎さんに、深田監督作品の魅力から、役との向き合い方、また、ご自身の映画原体験についてまで、たっぷりとお話を伺いました。

── 深田監督はオーディションを大切にしているそうで、今回、津田さんもオーディションを受けられてのご出演だそうですね。それまで、深田監督の作品というのは、ご覧になっていましたか?
『淵に立つ』はすごく“しんどい”映画で、でもとても印象に残りました。いろんなシーンが思い出されますね。なんとも不思議な雰囲気や人々の佇まいとか。今回の『恋愛裁判』もそうなんですけど、いろんな角度、視点が生まれる映画ですよね。監督自身が、独自の視点をたくさん持ってらっしゃるからなんでしょうね。
── 撮影中、おふたりではどんな話をされたんですか?
ジブリの映画の話をしました。監督がジブリ映画が好きというのは、最初はちょっと意外でした。特に『天空の城ラピュタ』がお好きなんだそうです。この映画ってロマンのかたまりじゃないですか、ほのかな恋心も描かれていますし、すごくロマンチストなんだなって思いました。
『恋愛裁判』にもロマンを感じる場面は多かったですね。劇中、大道芸人(倉悠貴)が出てきて、彼が主人公の山岡真衣(齊藤京子)に魔法みたいな大道芸を見せるというシーンもあります。そこに夢があって、でもそれがいつか醒めることなのかもしれないけれど、恋愛の切なさや美しさも感じられる瞬間でしたね。キラキラしているシーンがあるからこそ、その後のシビアさが際立っている。シビアさもロマンも両方あるんですよね。
── 津田さんが演じたのは、その山岡真衣たちのアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」(通称:「ハピ☆ファン」)が所属する事務所の社長であり、映画の中のシビアさを体現しているような役でしたね。
そうですね、僕が演じた吉田は、シビアさを担う役だけれど、普通の人でもあると思って演じました。世の中の社長の皆さんを見て、彼が特殊な社長というわけではなくて、ちゃんとしたビジネスマンでもあるというところも大事に演じていました。台本を一読したときに思ったのは、彼は悪くは見えるけれど、ビジネスをしていて扱っているのが人間であった、ということなんだと。それが人間ではなくて物であれば問題はないんですけど、人間だから恋愛もするというね。

劇中に登場するアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」
── 台本にはどのくらいキャラクター設定が書いてあったのでしょうか? 津田さんはそこからどのように膨らませていきましたか?
ト書きは普通の文量でしたし、そこまで難しいことが書いているわけではありませんでした。吉田が事務所内の恋愛禁止ルールを破ったメンバー・菜々香(仲村悠菜)に対して叱責するシーンがあるんですが、そのときも、彼女に強要をするわけではなく、「あなたはどうしたい?」と自分で選択させるように誘導する。その辺の吉田の狡さについて、監督はすごく考えて描いているなと思いました。
吉田には、逃げ道があるんですよね。吉田には計算高さはあると思います。それと同時に、計算しているわけではなく、無自覚に人を傷つけたり追い込んだりする部分もあって。そういう意味で、彼は普通の人でもあると思います。自分にだって、無自覚なところはありますからね。

津田さんが演じた、「ハッピー☆ファンファーレ」の所属事務所の社長・吉田光一。
── 「ハピ☆ファン」のメンバーの考え方が様々なところも面白かったです。津田さんは誰の考え方に共感できる部分がありましたか?
梨紗(小川未祐)の強さがかっこいいなと思いました。自由な空気があって、アイドルらしからぬ部分も持っています。自分で曲も作りますし、実績を積んで、アイドルから更に次のステップを目指しているんでしょうね。映画としても、彼女の存在が救いになる感覚もありました。アイドルは大人の手のひらの上で踊らされるものでも、ファンの要望に応えるだけの存在でもないんだ、自分で人生を拓いていこうと考えているという意味で、救いがありました。主人公の真衣とは、自分の人生は自分で決めようとしているという意味で似ていますね。
── 監督もおっしゃっていましたが、メンバーや登場人物の誰かが悪いというのではなく、構造の問題を描いた映画なんですよね。津田さん自身も、声優、俳優として誰かに応援される立場だと思います。津田さんにとって、応援されるということは、どんな意味を持つのでしょうか?
応援してくださることはすごくうれしいしありがたいんですけど、僕自身はごくごく普通の人で、特別なことをしているつもりはないんです。だから、ときどき「僕でいいんでしょうか?」みたいな気持ちもあったりします(笑)。
── ファンの方と面と向かってお会いされる機会というのもありますか?
今年は特殊なことをやりました。歌わないディナーショーをしたんです。それ以前は、イベントであったり舞台挨拶などでもお会いする機会はありました。でも、本当にうれしいんですけど、本当に「僕でいいの?」って。だからこそ、応援してくれる方の人生がほんの少しでも豊かになるようなものを表現で届けられたらいいなとも思っています。僕自身が、映画というものに若い頃から救われてきたからこそ、少しでも応援してくれる方の人生を彩れるきっかけになればいいなと思っています。

── 津田さん自身、エンターテインメントに救われたことがあるんですね。
僕の場合はやっぱり映画ですね。学生時代から名画座に通っていて、その後、ミニシアターブームが来ました。そのときに、まだわけがわからないけれど、いっぱい映画を観て、その中でも、ジム・ジャームッシュが好きでした。それまで観ていたものと、ミニシアターで観たものは、全然違いましたね。何かが起きてはいるけれど、でも何も起こらない映画を観ると、その後に鮮烈な空気や印象が残って、面白い体験でした。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を知ったのが18歳くらい。地元のミニシアターで観ましたが、周りにはそんな友だちはまだいなかったので、ひとりで行っていました。
── そんな経験が今のお仕事につながったんですね。
中学生くらいから、映画の世界に行きたいなとは思っていたんです。
── そんな津田さんが深田監督の映画に出られてよかったなと思ったことは?
非常に映画らしい映画に出させていただいたこともうれしかったですし、深田監督とお会いできたこともうれしかったです。またご縁があったらいいなとも思いますし、また深田監督とお食事にも行って、お話したいですね。
── 俳優をしているうえで、ロールモデルや、こんな風に居たいと思われる存在はありますか?
名優と言われる方々がいますが、その方たちのお芝居のすばらしさを改めて感じることが多いので、一歩でもそんな存在に近づけたらいいなと思っています。
── 津田さんは、現在50代で、今のご自身の在り方をどう感じられていますか?
若い頃にはできなかった表現ができるようになっていることに関してはよかったなと思います。もちろん、若い頃には若い頃の歪なエネルギーなんかもあって、それも面白いと思うんですけどね。でも、今は昔よりも、いい意味で「抜け」た部分が出てきている状態で、そんな風に映画やドラマに向き合えることは、いいことじゃないかなと思っていたりします。
── この先、やってみたいことはありますか?
お芝居に関しては、常に初心者マークを忘れずにやっていくとして、アニメや声の仕事もしっかりと続けていきたいと思っていますし、映画にももっと出ていきたいです。それと、自分で「書いては消し、書いては消し」でやっているプロットというのもあるので、それを早く形にできればいいなと思っています。その作品には、自分は出ないで、作るほうにまわるのかもしれないですが。いろいろ企画を立ち上げてやったりするのは好きなんです。でも、本腰を入れて長編映画を作ってみたいという気持ちはあります。
── ちなみに、最近観て、気になった映画はありますか?
津田 『ブラックドッグ』という映画がよかったですね。中国のゴビ砂漠を舞台にした作品なんですけど、今までに観たことがないタイプの中国映画で、辺境の状況を描いていて、すごくよかったです。

PROFILE
Profile
津田健次郎
つだ・けんじろう 1971年 6月11日生まれ、大阪府出身。声優、俳優を中心に、映像監督や作品プロデュースなど幅広く活躍。声優として、『呪術廻戦』の七海建人、『ゴールデンカムイ』の尾形百之助、『チ。ー地球の運動についてー』のノヴァクなど、数多くの人気キャラクターを演じる。俳優としての主な出演作に、連続テレビ小説「あんぱん」、大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」、日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」などがある。
Information

『恋愛裁判』
人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
出演:齊藤京子、倉悠貴、仲村悠菜、小川未祐、今村美月、桜ひなの、唐田えりか、津田健次郎
企画・脚本・監督:深田晃司 共同脚本:三谷伸太朗
1月23日(金)より全国劇場にて公開。
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