
エッセイスタートから40年! 数えきれないほどの特集にも登場いただいてきた林真理子さんと、時代と女性の在り方を客観的に見つめてきた酒井順子さんによる特別対談。創刊から現在まで、「anan」の歩みについて語ってもらいました。
1985年からの連載を通して、ananの歴史を内側から眺めていた林真理子さん。またananの創刊から2016年までの歴史をひもとく連載「ananの嘘」で、時代背景とともに分析し、外側から俯瞰した酒井順子さん。そんなふたりがananを語ります。
「ananのスタイリストが来る店というのが、ひとつの価値でした」(林さん)
林 酒井さんは創刊からのananをエッセイで分析されましたが、1970年代のananは過激なテーマを掲げていましたよね。「ananはチビデブを支持します」とか。
酒井 ファミリー・ヌードもありましたね。
林 コピーライター時代、マガジンハウスの人とお近づきになれるのは、私たちの業界の憧れでした。ブルータスの編集者が来る店、ananのスタイリストが来る店は、それだけで価値があったんです。酒井さんがエッセイに、1980年代のananを「地方から出てきたファッション業界とかマスコミ関係とか美容関係、そういう業界系の人が『これがおしゃれなんだ』と読む雑誌」と書かれていて「私のこと?」って思いましたよ(笑)。
酒井 (笑)。あれは某ファッション関係者の娘さんの発言で。それにしてもananはスタイリストやヘア&メイクとか、女性にいろいろな職業があることを世間に知らしめる役割も果たしましたよね。
林 そう、ブティックの販売員を「ハウスマヌカン」、ファッションメーカーの広報が「プレス」と呼ばれ、憧れの職業になりました。
酒井 まだ女性の職業は限られていた時代でしたが、ananが素敵なカタカナ職業を紹介して女性たちにさまざまな働く道を示したのは、大きな功績だと思います。
林 ハウスマヌカンはただの販売員にあらず。ファッションに携わることに価値があるんだと教えてくれました。
酒井 それにしても当時のハウスマヌカンは怖かったですよね。店に入るのに勇気が要りました(笑)。
林 とくにananに出ている店はハードルが高かったですね。
酒井 1980年代のマガジンハウスのすごさたるや(笑)。
林 ダサい女の子の代表のような私を、ananはよく使ってくれたと思います。ananからお墨付きをもらい「あの人、案外イケてるのかもしれない」と思われ、今の私があるんだと思います。連載だけでなく、田原俊彦さんと対談させていただいたりもしました。誌面に芸能人が多く出るようになったのはちょうどその頃。
酒井 芸能界への接近ですよね。
林 そう。それ以前のananは「メジャーは格好よろしくない」という風潮だった。
酒井 それ以降は芸能ありきの雑誌となり1990年代に突入。1990年代の幕開けといえば、林さんのご結婚でした。
林 いや、その頃書いた『ウエディング日記』(結婚生活を綴った連載エッセイ)は抹殺したい一冊(笑)。でも酒井さんがエッセイに抜き出して書いてくれた私の言葉「結婚したことの最大の幸福は、結婚できないんじゃないかという不幸から逃れられたこと。結婚したことの最大の不幸は、誰と結婚しようかなあと考える楽しみを失ったこと」。これは名言かも(笑)。
酒井 すごい名言です。そしてこの頃のananは「それでも結婚したいですか?」と結婚を軽くディスった数か月後に「結婚したくない女はいない。私の結婚条件」と結婚を肯定する特集。そんな迷走っぷりも、これこそが揺れ動く女心に寄り添っているなあと。そこに林さんの「ウエディング日記」の連載で、読者は自分も大丈夫かもと励まされ、結婚への希望を持てたんじゃないでしょうか。
林 今、また女性作家の翻訳本が世界的に売れているそうなんですが、村田沙耶香さんの『コンビニ人間』の中に“結婚しなきゃいけないという風潮に縛られた自分を解き放つ自分”が描かれていて、それが反響を得たとか。結婚しなくてもいいという風潮はずいぶん前に定着したと思っていましたが。
酒井 風潮にかかわらずマガジンハウスは昔から自分ウケを貫いていましたね。結婚や恋愛の特集もそうだし、1990年代からは占いも。
林 占い師=おばさんだったイメージを、美人手相観(てそうみ)の日笠雅水さんを取り上げ、占い師自体をクローズアップしました。スピリチュアリストの江原啓之さんがブレイクしたのもananだと思います。
「個々が沼オチする時代。時代を盛る器として、次は何を盛る?」(酒井さん)
酒井 ananは週刊誌ならではのスピード感で時代に寄り添い、その時代ごとの気分を美しく盛って「さあ、どうぞ」と読者に差し出す“器”のような存在ですね。
林 素晴らしい表現! 2000年代以降は旬の俳優さんたちが窓辺で振り向くグラビアが多いけど、あれが世の女性たちの妄想を掻き立てているんですよね。でも世はアニメ、最近は圧倒的にグループも人気。ananは時代ごとの「女性の好きなもの」を察知し先回りしてきた雑誌ですが、これだけ世間が多様化すると、それを掴むのも難しいのではないかしら?
酒井 今は個々がバラバラの沼に沈んでいく時代だから。私はオタク色ゼロで推しがないのですが、林さんは好きなものがいっぱい。とても多趣味ですよね。
林 そうですね、今も歌舞伎とか。私はいろいろな才能ある人を見るのが好き。大学の卒業式でも学生たちに「世の中はおもしろいものに溢れているよ。あなたの友だちはネットの中だけじゃないよ」と話しているんです。そこはananと求めているものが同じかと思います。
酒井 たしかに今の若者はネットの中で好きなものと接触しているけど、生の人とのコミュニケーションは不足気味なのかも。そんな時代でも林さんの好奇心とフットワークこそがananを支えてきた気がします。
林 あえて沼に落ちようとは思わないけど、才能ある人を垣間見ていたい気持ちはあります。
酒井 林さんは常に時分の花の近くにいらっしゃる。そしてそれが林さんのパワーになっているんでしょうね。
林 ananのように旬の時代を切り取る雑誌は貴重。今後日本の文化になっていく一冊だと思っています。その自覚を持って続けていってほしい。私も同じ気持ちで連載を続けていきたいと思います。
酒井 まずは雑誌が厳しい時代に55年続いているということが素晴らしい! “器”って空になっても時代の川に浮いていけるものだと思うので、そこに私たちが考えつかないものが盛られていくのを楽しみにしています。心からがんばってほしいと思います。
Information

林真理子『美女入門23 わかりますぅ?』
ananの人気連載をまとめた美女入門シリーズも23冊目! 誕生日プレゼントにもらったデンキバリブラシをはじめ、進化系アイテープや神シャンプーの話題など、美の追求に余念のない林さん。

酒井順子『ananの嘘』
1970年創刊からのananの歴史をひもとき、特集を俯瞰しつつ、冷静かつちょっぴり辛口に分析するananのクロニクル&エッセイ。ヒットを飛ばしていたananの特集の舞台裏をのぞいた気分に。
Profile
林真理子
はやし・まりこ 1954年、山梨県生まれ。コピーライターを経て作家活動を始め『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がベストセラーに。1986年『最終便に間に合えば』『京都まで』で第94回直木賞受賞。2022年7月より日本大学理事長。
酒井順子
さかい・じゅんこ 1966年、東京都生まれ。高校在学中に執筆を開始。大学卒業後は広告代理店に勤務し、その後、執筆に専念。『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞を受賞。近著に『松本清張の女たち』(新潮社)など。
anan 2474号(2025年12月3日発売)より
MAGAZINE マガジン

No.2474掲載
創刊55周年記念号
2025年12月03日発売
黒柳徹子さん、林真理子さん、酒井順子さん、江原啓之さん、SixTONES、Snow Man、岡田准一さん、山田涼介さん、timelesz、乃木坂46、劇場版『名探偵コナン』、ちいかわ、なにわ男子、Travis Japan、Aぇ! group、辻村深月さん、湊かなえさん、青山美智子さん、加藤シゲアキさん、稲垣吾郎さん、中島健人さん、Perfume、小島秀夫さん。伝説の連載、村上春樹さんの「村上ラヂオ」も一号限りで復活。創刊55周年記念号だからこそ叶った、超豪華ラインナップ。最強のときめくスターが大集合した、お祝いムードあふれるまさに日本トレンドの歴史書、永久保存版の一冊です。



























