Who's Hot?

〈WHO’S HOT〉俳優・前原滉「1つだけ夢があって、それはこの仕事を死ぬまで続けるっていうことなんです」

エンタメ
2025.01.02

インスタグラムのプロフィール欄で「トライストーンの飛び道具」と名乗る前原滉さん。飛び道具どころか、近年、繊細でリアルな演技にじわじわと注目度が上がっています。

こんなふうに言うと失礼かもしれないが、見た目から強烈な個性や存在感を放つ俳優、ではないかもしれない。でも、ドラマや映画で姿を見かけると、なんだか目が引き寄せられてしまう。その理由を知りたくてインタビューを敢行しました。

――主演映画『ありきたりな言葉じゃなくて』のお話から。オファーを受けての最初の印象は?

ありがたいお話ではあるんですが、最初はお断りさせていただいたんです。自分のそのときの状況的に、何かに引っかかりを感じて、そういう状態でお引き受けするものじゃないなと思ったんです。でもそうしたら、監督さんやプロデューサーさんが熱心に引き留めてくださり、台本を一緒に作っていきたいとも言ってくださって。そこまでおっしゃるならばチャレンジしてみます、という感じです。

――引っかかりというと?

このときのタイミングで主演を背負えないというのは大きかった気がします。あとこれは自分の傲慢な部分なんですけれど、物語が自分の中でうまく消化できなかったというのもありました。でも作品作りから参加させていただけるって、あまり経験できることではないですし、自分がホンから読み取れなかった部分も見えてくるかも、とも思いました。

――実際に作品作りから参加されてみていかがでした?

俳優って…とくに主人公をやる人間が意見を出すことの難しさを感じました。こちらはどうしても主観になってしまうんですけれど、僕の意見が周りの役にも影響しちゃったり、ともするとキャラクターが変わってしまうことにもなりかねない。経験してよかった半面、これを当たり前としてやっていくのは無理だなと思いました。分業っていうのは、いいシステムなんだなと気づけましたし。

――事前にどんなやり取りがおこなわれたんでしょう?

めちゃくちゃ喧嘩した、みたいなことはないんですけれど、監督とはお互い熱量高めでぶつかり合うみたいなことはありました。僕自身の日常で、あまり人に対して何かを強いエネルギーで言うことがないのでよかったです。

――それだけ真摯に役のことを考えていたということですよね。

それはもしかしたら、主役だからというのもあったかもしれません。それまでは、お仕事をいただいたとき、スケジュールが空いていればやらせていただく、というスタンスできたんです。今後も基本的にそこは変わらないとも思いますが、主役ってなると自分が作品を背負うことになるわけで、二つ返事で「やります」、とは思えないかもしれないです。…どっかに、本当に自分でいいんですか? って気持ちもある気がします。

――ちなみに、前原さんはどこにこだわられて、どんなことをおっしゃったんでしょう?

一番長く話したのは、最後の屋上のシーンです。クランクインしてからも話し合いが続いていたので、合計で何時間くらい話したんだろうっていうくらい。台本はすでにできていましたけれど、なんかもっとある気がするって思っちゃったんですね。たとえば最後をどう決着させるか、もしくは決着させないまま終わるのか、じゃあどんな選択肢があるのか…。そこはやっぱり映画の肝になる部分だから、自分の中で納得のできるものにしたくて。見えない箱の中に野球やサッカーやいろんなボールが入っていて、サッカーゴールの前で、正解のボールを探しているみたいな時間だったと思います。

――ドラマの脚本家デビューを目前に控えた主人公・拓也は、キャバクラで知り合ったりえ(小西桜子)との不用意な行動が原因で、社会的信用を失っていく。拓也を演じるのに意識されたことは?

わりとわかりやすいというか、自分とあまり遠くないキャラクターだと思っています。自分にも浅はかな部分はあるし。家族やりえとのやり取りだったり、難しそうだなと思っていたシーンは、共演のみなさんが空気を作ってくださったおかげで、あまり苦労せずにやれたような気がします。

――とくに両親との関係性がとてもリアルに感じましたが、わりと計算して臨まれるタイプですか?

どっちでもないかもしれないです。緻密に計算しているわけでもないけれど、その場の雰囲気で野性的にやってるわけでもない気がします。…ちょっと話が逸れるかもしれないですが、このことに限らず、僕はあまり自分のことをそこまで深く掘ってないのかもしれません。きっと本来、役者って自分のことを深く掘らなきゃいけないと思うんです。これまでの悲しかったことや幸せだったこと、トラウマだったりを引き出しにしていく職業という認識はあるんですが、できてない気がします。

――ではどうやって?

どっちかといえば、頭の片隅にもうひとりの自分がいて、その人間がものすごく周りの人のリアクションを見ながら、ラジコンで操っているみたいな感覚なんです。

――気づいたら役に入り込んでしまっていた、という瞬間は?

あんまりないかもしれない。たぶん自分の中に作品との壁があって、作品に馴染むまでに結構時間がかかるタイプだと思うんです。じつはそれって全部、自分のことを信じきれてないってところに端を発している気がしていて。でもその理由を、脚本だったり環境だったり、朝早いとかに押し付けちゃっているだけというか。

あのときに戻ったら、芸能界に入るかわからない。

――ちなみに、お仕事を選ぶ基準みたいなものはありますか?

それがなくて。もともと、こういう作品がめちゃくちゃやりたいみたいな興味がさほど強くなくて、なんでもやりたいですっていうスタンスでいます。でも、主演に関しては少し違っていて。作品が完成したとき、「この作品を観てください」ってお客さんに言う役割じゃないですか。そこで少しでも後ろめたい気持ちになるのはしんどい。頑張ったけど結果的に無理でした、ってことならまだ仕方ないけど、気乗りしないまま受けて、やっぱり…ってなりたくないですよね。でも自分の場合、なまじ屁理屈がうまいから、そうやってやる理由もやらない理由も絞り出してるだけで、もしかしたらそんなにこだわりはないかもしれない、とも思うんですよね(笑)。

――前原さんがこれまでにやった役で、これはやってよかったとか、満足した役はありますか?

自分に対しての満足、という意味でいうと一つもないかもしれない。結局作品って、観た方が満足するかどうかですから。ただ、思い出深い作品としてよく挙げさせていただくのは、連続テレビ小説『まんぷく』とか映画『あゝ、荒野』ですね。どちらも何もわからない中、手探りでやらせていただいた作品で、刺激を受けました。

――何が刺激的でした?

『あゝ、荒野』は、現場で役を任せられていると実感した作品だったんです。僕が演じたのは、描かなくても映画としては成立する役で。でも岸善幸監督があえて入れたのは何か意味があってのことなので、そういう役を任されたことが嬉しかったです。いち俳優として僕を信頼していただいたことで、そこに応えたいっていう気持ちを自分から引き出してもらえた現場でした。

――高校生のときに、現事務所であるトライストーンの養成所に入ったそうですが、ご自身の原点にある作品って何だと思います?

俳優になりたいと思ったきっかけは、仙台で母親に連れていってもらって観た舞台『ビロクシー・ブルース』なんですが、原点というと覚えてなくて…。

――でも、お母さんが息子を舞台に連れていくって、エンターテインメントに関心が高いご家庭なのかなと思います。

そうですね。母親が好きなんです。昔っから、仕事から帰ってきてから深夜に寝落ちしながらドラマを見ていたので、その横でなんとなく目にしてはいました。テレビっ子で、高校生のときはバイト代でドラマのDVD-BOXを買ったりしていましたし。

――学生には結構高価ですが、どんな作品を買われたんですか?

当時流行ってた『ROOKIES』ですね。バイトはしていたけど、ファッションとかにめちゃくちゃ興味があるほうでもなかったし。そもそも芸能ってものが好きだったんだと思うんです。でももし今、あのときに戻ったら、芸能界に入るかわからないです。大変な仕事だし、今はそれでごはんを食べられているからいいけれど、そうじゃない可能性もある。そのギャンブルに賭けられるかわからないです。

――俳優を職業に選んでよかったと思うのはどんなときですか?

1つだけ夢があって、それはこの仕事を死ぬまで続けるっていうことなんです。これまでひとつのことを長く続けられたことがなくて、最長でサッカーの9年。今、ようやくそこに追いついたので、これだけ継続できることをやれてよかったなと思います。

――俳優を始めた頃は、きっと主役を目指していたと思いますが?

主役が一番いいもんだって思っていました。なんか高価だから美味しい料理なんだ、みたいな感じです。でも仕事を始めてみると、どの場所でもどの役でも、背負わなきゃいけないものはあって、番手は関係ないんだなと。あと、この世界に入って自分の役割的なものを掴めてきた頃、自分がなるなら面白くてクセ強めの俳優さんかなって思ったんですよ。たとえば『花より男子』なら、1話で「赤札だー!」って叫ぶ役。

――メインのF4には憧れたりしなかったんですか?

高校生のときにドラマがすごく流行って、女子はF4で誰が好きかって話をしてましたけど、俺ら仲のいい男子の間ではあのシーンを真似して遊んでましたし、そういうほうが面白いじゃないですか。今、どの役をやりたいか聞かれたら、あの役を選ぶと思います。

PROFILE プロフィール

前原 滉

まえはら・こう 1992年11月20日生まれ、宮城県出身。2015年にデビュー。ドラマ『あなたの番です』や連続テレビ小説『らんまん』などで注目を集める。’21年に『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』で映画初主演。1月クールのドラマ『119エマージェンシーコール』、3月放送予定のドラマ『水平線のうた』への出演が決まっている。

INFORMATION インフォメーション

前原滉さん主演の映画『ありきたりな言葉じゃなくて』は現在公開中。藤田拓也(前原)は、ドラマ脚本家としてデビューの道を掴む。しかし夢が叶う目前、偶然キャバクラで出会ったりえ(小西桜子)から、強引に襲われたと疑いをかけられ、そのせいで社会的信用を失って…。脚本・監督/渡邉崇 原案・脚本/栗田智也

ジャケット¥60,500 ニット¥36,300(共にボブ/タキヒヨー TEL:03・5829・5671) その他はスタイリスト私物

写真・北村圭介 スタイリスト・津野真吾(impiger) ヘア&メイク・伏屋陽子(ESPER) インタビュー、文・望月リサ

anan 2428号(2024年12月25日発売)より

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