北村一輝さん

ギラッと光る目、ニヤッと笑う口元。“悪い男”の役がよく似合う、北村一輝さん。実はその素顔は、映画づくりが大好きで、そしてめちゃくちゃハッピーな人でした。


スクリーンや画面の中で、眼光鋭く迫力ある演技を見せてくれる、俳優の北村一輝さん。2月27日より公開の映画『木挽町のあだ討ち』でも、罪人の過去を持ち、江戸でゴロツキに成り果てた男・作兵衛を演じ、色悪の魅力を振りまいています。

── 話題の小説が映画化されるということでとても注目されている作品ですが、出演依頼が来たときはどう思われましたか?

北村一輝(以下、北村) びっくりしました。というのは、もともと原作を読んでいましたが、あまりにおもしろかったのでこれは100%映画になるだろうと思ったし、その中でも作兵衛は本当に魅力的なキャラクターでしたので、「これを演(や)れる人、いいなぁ」と思っていまして、本当に。そうしたら、僕のところに話が来て…。

実は森田座という芝居小屋を束ねる篠田役を演っている渡辺謙さんも作兵衛を演りたかったみたいで、本読みのときにずーーっと僕の耳元で「作兵衛演りたい、作兵衛演りたい」と言っていたくらい。おかげで全然、本読みに集中できませんでした(笑)。でもそのくらい滅多にない魅力的な役。事務所のスタッフから「『木挽町のあだ討ち』って知ってる?」と言われて驚いて、「知ってる知ってる! え、何の役?!」と食い気味に聞いてしまいました。演じることが決まったときは、ものすごく嬉しかったです。

── 物語は、タイトルにもあるように“仇討ち”がテーマ。映画は、白い雪が舞い散る中で長尾謙杜さん演じる菊之助に、作兵衛が首を討ち取られるという印象的なシーンから始まります。ニヤリと笑う作兵衛の表情には悪が漂いますが、彼がどんな人なのか、教えていただけますか?

北村 最初の場面での彼は、チンピラ風情で、ちょっと粋なあんちゃんのような、そんな雰囲気ですよね。この映画に限らずですが、僕は台本をいただいたら何回も何回も読むんです。すると、5回目、10回目、30回目、50回目とどんどん見えるものが変わってきて、さらにそれだけ読んでいると日常の中でも事あるごとに役柄のことを考えるわけです。ごはん食べながらも「あのシーンの作兵衛は…」って。

今回そんな作業を繰り返す中で見えてきたのは、作兵衛のエンジンは、“家臣であった”ということで、その忠義の下に動いている人間なんだ、ということ。その男が江戸に出てきてどんな思いをしながらここまでたどり着いたのか。大変だったと思うし、彼が背負った重さや感じた辛さを表現したい、と思いました。

こんなに気持ち良い作品は、役者人生の中でも稀有

── ネタバレになるのであまり言えませんが、作兵衛だけでなく、登場人物みんなが入れ子のようにいろんなものを抱えていて、その多重構造感に唸らされる物語であり、演出でした。

北村 そうですよね。僕も出来上がった映画を観て感動しましたもん。さすがだな、すごいなと。なんだかアベンジャーズのような、ドジャースみたいな(笑)。これぞ大人のチームワークという感じ。

あの、僕は自分が出た作品を観ると、ほとんど、99%くらい後悔するんです。こうすればよかったとか、そういう演出になるんだったらあのパターンの演技もやっておけばよかった、とか。もちろん今回もそれがないわけではないですが、でも観終わったあとにこんなに心地よい気持ちになれる作品も珍しいので、改めてこの作品の一員になれたことが本当に嬉しいです。

── なんだか、とても幸せそうにこの映画のお話をなさるんですね。

北村 はい。ここまで心地よい気持ちで観られる作品を作れるのは、役者人生の中でもめったにないことだと思うんですよ。たぶん、一生に1~2回くらいしかないんじゃないかな。

── そういう作品づくりが叶うためには、どんなピースが必要なんですか?

北村 映画というと、俳優のイメージが強いかもしれませんが、それは単純に僕らが矢面に立っているからであり、作品全体で見れば役者なんてほんの一部。セットや街を作る技術、照明、カメラ、音、演出など、いろんなことをするプロがいてくれてるから、僕らの芝居が良く見えるんです。プロのヘアメイクさんにメイクをしてもらうと、「あら、きれいになったね!」と思うでしょ? それと一緒。いくら今回のキャストが揃ったとしても、ここで照明も何もなくお芝居をしているだけだったら、本当にただの寸劇にしか見えないと思います。

今回はどのスタッフも特に志の高い方ばかりで、現場もとても楽しかった。そういう積み重ねがあったからこそ、いい作品になったんだと思います。さっき僕が「ドジャースみたい」と言ったのはそこで、全員が自分の仕事に集中し、実力を発揮できた、という意味ですね。

── つまり、現場の雰囲気もとても良かった、と。

北村 はい、めちゃくちゃ楽しかったです。役者のみなさんもそれぞれすごい準備をしてくるわけで、現場に入る前からすごく楽しみだったんですが、いざ芝居をすると、「うわ、こう来たか、すげぇ!」とか「こんな言い方するのか、なるほどねぇ…」とか、すべてが刺激的で。しかも謙さんなんて、もう立ってるだけで、なんならシルエットだけでカッコいい。「うわ、世界のケン・ワタナベだ~!!」となっちゃいますよ。あんまり見ると自分の演技に集中できなくなるから、見ないようにしたりしてました(笑)。

演じるその時間よりも、準備の時間が楽しいんです

── 今回の映画も“芝居”がテーマの一つです。1990年に俳優デビューし経験を積み重ねてこられました。今の北村さんにとって、芝居のおもしろさとはなんですか?

北村 う~ん…、わかんないねぇ…。でも、おもしろいのは事実。僕は考えることと、作ることが好きだから、実際に演じるまでの準備をしているときが一番おもしろくて楽しい気がします。もちろん大変ではありますよ。役のことばかり考えるわけだから夜中に何度も目が覚めるし、あれこれ数えられないほどシミュレーションするし。でもその過程がすごく楽しい。ほら、あれですよ、デートの前にいろいろと計画を立てるでしょ? で、現場に行くとだいたい考えたとおりにはならなくて、失敗したりするんだけど(笑)。考えたプランで「よし、行くぞ!」と芝居をしたのに、監督に「全然違うよ、バカ!」とか言われたこともたくさんあったし。でもその経験が今の自分を作っている部分も大きいし。あとは、映画が好きというのは大きいかな。

── 映画がお好きという、その理由はなんですか?

北村 スクリーンに映し出されている映像の後ろにはどれだけのことがあるんだろう、というのもあるし、一方で作品がたくさんの人に観てもらえて、どんどん広がっていくということもある。この作品だって、どれだけの人が観てくれるんだろうと思うとワクワクするし、それこそ何がどうなるかわからない。そこに大きなロマンがあるというか。

映画は完成したら終わりじゃない、永遠に続いていく。何年か後に、例えば50年後とかにこの作品を観た人が、「こんなすごい映画があったの?!」と思ってくれるかもしれない。僕ら自身も古い作品を観て感動することがあるけれど、映画を作ることでそういう感動の一部になれているのかも、と思うと、本当に嬉しいです。もちろん舞台もドラマもやりますが、やはり映画はちょっと特別な気持ちがありますね。

── 今回の作兵衛や、配信作品の『地面師たち』で演じた役など、北村さんは“ちょっと怖そうな役”が多い印象があるのですが、インスタにアップしているお写真や今日お話ししている雰囲気から想像するに、結構ハッピーな雰囲気の方ですか?

北村 うん、普段、めちゃくちゃハッピーですよ。でも「普段から怖い人かも…」って思われているとしたら、それは役者としては勝ちかな、とも思います(笑)。

── その、ハッピーな感じでいたい、というのは、昔からなのでしょうか?

北村 いや、40歳くらいになってからかなぁ。成功の形はさまざまですが、僕が素敵だなと思う人は、日常から常にハッピーで、余裕がある人が多い印象があって。「あの人と一緒にいると、心地いいよね」と思われる人でありたいし、自分もそういう人と一緒にいたい。

例えば車に乗っていて急いでいても、横断歩道で待っている人がいたら、あたりまえだけどきちんと停まるとか、ちょっとしたことにも「ありがとう」と言うとか。特に僕らの世代の男、そういうこと言えなかったり、できなかったりする人が多いんです。ちょっと顔が知られているからとか、芸能人だから、みたいなことは全然考えない。仕事でも、プライベートでも、僕は全員に対してフラットでありたいです。ほら、大谷(翔平)さんもゴミを拾ったりするっていうじゃないですか。

── さきほど「作品づくりはチームワーク」という話をされていましたが、全員がフラットであるとすると、北村さんは役者としてそのチームの中でどう存在していたいと思いますか?

北村 作品ごとにチームカラーは異なるわけで、一つ一つのチームの中でどこかに自分のポジションを見つけて、そのチームに合った働きができる役者になりたいですね。もちろんいい役をいただけたら嬉しいけれど、そうじゃなくて、送りバントもできるし、犠牲フライも打てる、もちろんホームランも飛ばせるような。

── あの、目標は大谷翔平さんだったりされますか?

北村 無理です無理です。実力はもとより、まず人間性の部分が足りないですから(笑)。というかこれ、活字になったら怖いなぁ(苦笑)。

Profile

北村一輝

きたむら・かずき 1969年7月17日生まれ、大阪府出身。1990年に俳優デビューし、『日本黒社会 LEY LINES』(1999年)でキネマ旬報日本映画新人男優賞を受賞。代表作にNHK大河ドラマ『天地人』、連続テレビ小説『スカーレット』や、映画『猫侍』『沈黙のパレード』、配信作品『地面師たち』ほか。映画『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』が3月13日公開。

『木挽町のあだ討ち』

江戸・木挽町にある芝居小屋「森田座」前で、千秋楽がはねた直後、仇討ちが起きた。その1年半後、この伝説となった仇討ちに腑に落ちない点を抱えた男が森田座を訪れ、事件の真相が明らかに。『木挽町のあだ討ち』は、直木賞・山本周五郎賞をダブルで受賞した時代小説の映画化。主演は柄本佑、共演に渡辺謙、長尾謙杜ら。2月27日より全国公開。kobikicho-movie.jp

写真・宇佐美直人 スタイリスト・高塩崇宏 ヘア&メイク・安井朋美(FACE-T) インタビュー、文・河野友紀

anan 2484号(2026年2月18日発売)より
Check!

No.2484掲載

発表! 2026年春、ananモテコスメ大賞

2026年02月18日発売

心浮き立つ春の新色やこの季節の肌にぴったりの注目スキンケアが盛りだくさんの一冊です。タレントの谷まりあさん、俳優の宮﨑優さん、兵頭功海さん、NEXZのYUさん、Juice=Juiceの江端妃咲さんをはじめ、美容賢者たちが旬のコスメをお試ししてくれました。

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