
12回の日本一経験を持ち、まさに“常勝軍団”ともいえる福岡ソフトバンクホークス。昨シーズンは4月に12年ぶりの単独最下位を経験しながらも、中堅も若手も全選手が奮迅し、1つずつ着実に勝利を積み重ねて最下位からの逆転Vを勝ち取った選手たちの姿に、多くのファンが胸を打たれた。なぜ彼らは、福岡の、九州の、そして全国のファンを、こんなにも熱い気持ちにさせてくれるのか。数々の熱狂の現場を生み出す本拠地・みずほPayPayドーム福岡の地で、闘志を燃やす5人の選手に迫ります。
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松本裕樹「勝ちにこだわる姿勢はやっぱりみんな強い」

’15年に入団し、今年で12年目を迎える松本裕樹投手。選手歴は長くとも、自身も昨季はまだ20代。そんな彼は、ホークスのピッチャー陣の強みを「若さ」だと分析する。
「昨シーズンは、本当に若い力で勝ったなと思いますね。ブルペンの日本人では、もう自分が最年長ぐらいなんです。30代がいないブルペンって、他のチームを見てもなかなかないんですけど、そんな中でもみんな結果を出してきた。きっと若いからこそ怖いもの知らずで、勢いに乗って投げられている部分もあったんじゃないかなと思います」
’25年は51試合に登板し、防御率1.07、44ホールドポイントという圧倒的な成績で最優秀中継ぎ投手賞を初受賞。リーグ連覇に貢献し、大きな背中を若手たちに見せた。
「本当に一試合一試合、シンプルにバッターと対戦するというところだけに集中して取り組んできたことが結果に繋がったかなと。特に上位で争っているチームなので、賞を狙える機会も多い。その中で、中継ぎでポジションを任せてもらうからには、獲らなきゃいけない賞ですし、獲れてよかったです」
言葉の端々から感じる静かな情熱。それはホークスというチームの“熱さ”について語る時にもにじみ出ていた。
「勝ちにこだわる姿勢はみんなやっぱり強いですね。今まで勝ってきた先輩たちの背中を見て育ってきているので、“勝たなきゃいけない”“勝つべきだ”と誰もが思っている。ダメだった時も“しょうがない”みたいな空気が流れることはないんです。良くなかったら悔しがって、練習して、改善して……。そういう熱い気持ちを、みんなが持っているんですよね。もちろん、勝ち続けないといけないというプレッシャーはありますけど、それを言い訳にすることもないし。勝ち続けるものだと当たり前のように思って、みんな日々練習や試合に取り組んでいると思います」
今年は侍ジャパンメンバーにも選ばれ、東京ドームでは代名詞の“ブチギレストレート”で日本中を沸かせた松本投手。ランナーを出しても冷静にアウトを取って涼しい顔でベンチに戻ってくる──。そんなクールな姿が印象的な右腕が本誌に登場すると聞き、驚いた人も多いのではないか。だが、ご覧の通り、今回の撮影で彼が見せたのは、マウンド上とはまた違う柔らかな顔だった。撮影を終えた本人に感想を尋ねると、「こういう撮影は初めてなので、自分でもどんな写りになっているか想像できないです」
とあくまで淡々。では、ファンに見てほしいポイントは?「見てほしいところ……いや、見ないでほしいです(笑)」
ふっと綻んだ顔に、等身大の茶目っ気が、ちらり覗いた。
Profile
松本裕樹
まつもと・ゆうき 1996年4月14日生まれ、神奈川県出身。背番号66。2015年ドラフト1位で入団。'25年8月には通算100ホールドポイントを達成。日本シリーズでは延長11回で登板し胴上げ投手に。'26年、WBCに初出場。
野村勇「準備をしっかりしていたからチャンスを活かせた」

最近、女性人気が急上昇中な様子ですが…と話を振ると「最近という自覚はないですね。元からっす!(笑)」と、冗談とも本気ともつかない顔でニヤリ。そんな野村勇選手は、入団4年目となる昨季、大ブレイクを果たした。惜しくも規定打席には到達しなかったものの、自己最多を大きく上回る126試合に出場、12本塁打、102安打、40打点と数々のキャリアハイを達成。
「(試合の途中から出場する)代走、守備固めからのスタートやったんで、そこからよくここまでいけたなと思います。バッティングが課題だったので、試合に出ていない時から、出られない中でもレベルアップしようといろいろ準備はしていて。そういった準備がしっかりできていたからこそ、チャンスを活かせたんだと思います」
昨季からチームに加わった、メンタルパフォーマンスコーチ・伴元裕氏の存在も進化の一助になったという。
「どういうことに集中している時に一番いい結果が出ているのか、そういった点を一緒に整理してくれて。そこにどれだけ集中できるか、相手ピッチャーのタイプに応じてどう対応していくかなどを考えていきました。自分にとって何が必要で、何が不必要なのかを見極めて、余計なことは考えないようにする。そういう作業を、会話をしながら進めていくような感じですね」
昨シーズンは、“ここぞ”という場面でのヒットやホームランが多かったのも印象的。クライマックスシリーズ(CS)の第1戦で先制のソロ本塁打を放った後、6戦を戦い抜いてのビールかけで「皆さん、僕が序盤にホームラン打ったこと、覚えてないでしょ。日本シリーズでは序盤に打たないで最後に打ちます」と宣言。その言葉通り、阪神タイガースとの日本シリーズ第5戦の延長11回で勝ち越しの決勝弾を放ち、そのまま日本一を決めたという“大予言”もあった。あの、ファンを熱狂の渦に巻き込んだ一発については、“打つ”という予感はあったのだろうか。
「いや、そんな予感はなくて(笑)。CSでは第4戦でも打ったけど、負けたということもあってインパクトが薄かっただろうし、最後は三振で終わってしまったので。だから、『今度は最後に打ちます』って言ったんですけど、流れで適当に言っただけで、すっかり忘れてました。日本シリーズ中、一回も思い出してない(笑)。後から、“そういえば言ってたな”って思ったぐらいです(笑)」
ではここで1つ、実現を視野に入れて今季の目標を熱く宣言するなら?
「言ったらそこまでいかない可能性もあるけど……(笑)。じゃあ、できるだけ打ちます。ホームラン20本以上は打ちたいです!」
野村勇
のむら・いさみ 1996年12月1日生まれ、兵庫県出身。背番号99。2022年ドラフト4位で入団。'23年に負ったケガの影響もあり'24年は不振にあえいだが、走攻守に高い能力を発揮し、'25年は大きく活躍し、優勝に貢献。
柳町達「上の壁の厚さが層の厚さに繋がっている」

柳町達選手にとって、’25年は大躍進の年となった。キャリアハイとなる131試合に出場し、リーグ最高出塁率者賞とベストナインを獲得。そんな中、打率.292は、惜しくもリーグ2位。1位の牧原大成選手とはどんなやり取りをしていた?
「マキさんからはずっと『首位打者、俺に獲らせてくれよ』と言われていましたね。『お前はもう最高出塁率は余裕で獲れそうなんだから』って(笑)。『いや、僕だって首位打者も獲りたいですよ』と言い返していましたけど(笑)。本当に惜しかったので、今年こそは狙いたいですね。やっぱりバッターにとって首位打者は最高のタイトルですから」
シーズン中のオフについて尋ねると「福岡にいる時は息子と遊んでいます。今、2歳ですごく可愛くて」と、途端に相好を崩し柔和なパパの顔になった。
「ホームで試合がある時しか会えないので、一緒にいられる時にはちゃんと遊びたいなと思って。それに、家に帰って息子の顔を見たら、その日ミスして落ち込んでいても、暗い気持ちが吹き飛ぶんです。多分、僕は切り替えが早いんでしょうね。若手の頃は結果を出さないと、と焦る気持ちもあって、家に帰っても試合のことを引きずっていたんです。でも、そういう時こそいい結果が出なかったし、思い悩んだところで変わらないなって。だったらもう野球に集中する時は全力で集中して、休む時は全力で休むようにしようと。そのほうが結果も出るようになりましたね」
’25年の開幕は2軍でのスタートながら、近藤健介選手のケガによる離脱に伴い、4月から1軍に昇格。そこからのめざましい活躍で、ホークスというチームの層の厚さを証明した一人となった。
「めちゃめちゃ層が厚いですよね。それこそがソフトバンクホークスの熱さだなと。緊急事態の時にちゃんと準備できている控えがいるからこそ強いんだと思います」
だが、若いメンバーたちがそうして臨戦態勢でいられるのには理由があると、柳町選手は言葉に熱く力を込める。
「僕とか勇さんが取り上げられがちですが、結局は、上にいる人たちがすごいんです。本当に尋常じゃない練習量なんですよ。(今宮)健太さんは試合前に受ける量じゃないっていうぐらいすごいノックを受けているし、(中村)晃さんもどんなに辛い日でも毎日同じルーティンをサボらずやっているし。そうやって先輩たちが練習に臨む姿勢を目の当たりにしていると、僕たちもやらないわけにはいかないじゃないですか(笑)。“練習しろ”なんて言われなくても、そういう姿から伝わってくるものがある。上の壁の厚さが故の、選手層の厚さなんだと思います」
柳町達
やなぎまち・たつる 1997年4月20日生まれ、茨城県出身。背番号32。2020年ドラフト5位で入団。'25年、1軍に定着し巧みなバッティング技術でチームトップの129安打を放つ。監督選抜で初のオールスター出場も。
大津亮介「球速に集中して磨きをかけたい」

昨シーズンを振り返り、「試合数は少なかったですけど、後半、なんとかチームに貢献できたかなと思います」と語る大津亮介投手。先発に転向して2年目となった昨年前半は、開幕以降なかなか調子が上がらず、5月から2軍での調整を余儀なくされた。だが、決して心は折れなかった。
「悔しい気持ちがすごく大きくて。自分に何が足りないかを探して試行錯誤する2か月間でした。1軍に戻ってからは、気持ちの入れ方が変わりましたね。一試合一試合後悔しないように、“もう一球も無駄にできない”と集中するようになって。前半戦とは違う気持ちの強さが出ていたと思います」
確かに、マウンド上での気迫溢れる表情は見る者に鮮烈な印象を残したことだろう。7月に1軍復帰後、後半戦だけで6勝を挙げ防御率1.92と見事な成績を残した右腕。日本シリーズでは、ピッチングのみならず巧みな打撃と俊足も話題になった。高校までは野手メインだったそうで、「飛ばないですけど、ミートには自信あります」と、照れ笑い。来年からのセ・リーグDH制導入により、ピッチャーの打席を見られるのも今季が最後。交流戦、ポストシーズンでの打撃に期待大!?
今号の特集にちなみ“熱狂”しているものを尋ねると、「洋服が大好き」とのこと。柳町選手も「おしゃれ。いつもいろんな服を着てるよね」と認めるファッショニスタだ。
「あんまり人とかぶるような格好をしたくなくて。シンプル系の時もありますし、柄が入った派手めの服装の時もありますし。その日の気分によって、決めています」
今季より背番号を26から19に変更し、新たな気持ちでシーズンに臨む。向上させたいことを尋ねると、「球速です」とキッパリ。
「今年は、いろんなところに目を向けるのではなく、一つのことに集中して磨きをかけたい。去年はストレートが一昨年より1~2km/h遅くなったので、そこが課題ですね。元に戻すというか、1年目の出力を超えられるようにしたいなと思っています」
スマートな体型で「サウナによく行きますが、野球選手らしい体をしていなくて全然気づかれないので、堂々と入ります(笑)」と言う大津投手だが、球速を上げるため肉体改造も考えているそう。今年はみずほPayPayドーム福岡でより進化した彼に出会えそうだ。
「やっぱりトータルして考えると、体を大きくしたほうがパワーアップするんだなと。体自体が強化されますし、それに伴ってスピードも速くなる。うまくいくかはわからないですけど、何もやらないよりはやれることをやったほうがいいかなと思うので。球場に来てくださる皆さんにも『まっすぐが速くなったな』と思ってもらえたら嬉しいです」
Profile
大津亮介
おおつ・りょうすけ 1999年1月13日生まれ、福岡県出身。背番号19。2023年ドラフト2位で入団。多彩な球種で打者を翻弄する右腕。1年目は主にリリーフで46試合に登板。翌年から先発ローテーション入りを果たした。
正木智也「ファンの皆さんの声が力になった」

’25年は、目標としていた開幕スタメンの座を勝ち取るも、直後の4月中旬にケガ。正木智也選手にとって悔しいシーズンとなった。左肩関節亜脱臼という重傷だったが、彼自身、当初は手術するつもりはなかったという。
「手術しないほうが早く戻れるので、したくないなと。でも、小久保(裕紀)監督が電話をくれて『監督としてじゃなく一野球人として言う。今後の野球人生のことを考えたら絶対手術したほうがいい』と言ってくださったんです。その時まで“手術しない”と固く決意していたんですけど、監督の言葉で気持ちが変わって。今となっては、焦って戻らず、手術してよかったなと思います」
自身が離脱している間にチームは躍進。もどかしさを感じつつも、現実から目を逸らすことがないのが彼の強さだろう。
「悔しすぎて最初は1軍の試合を見るのも嫌だったんですけど、勉強のためにと思って見るようにしていました。やっぱりいろんな選手が活躍しているのを見るのは悔しかったですけど、それと同時にこのままじゃ来年この人たちに勝てないなと、切り替えて前を向く原動力になりました」
その後、リハビリを経て、当初の予定より早くクライマックスシリーズ(CS)で1軍に復帰。久々に打席に立った時の心境は?
「半年ぶりでしたし、CSというシーズンとはまた違う雰囲気の中だったので緊張しましたけど、“正木”とコールされた時の歓声を聞いて、スッと落ち着きました。ファンの皆さんの声ってやっぱり力になりますね。リハビリ期間中も、(2軍の施設がある)筑後に毎回来てくださるファンの方がいて、声をかけてくれたりして。ファンの方はまだ見てくれているんだ、応援してくれているんだと肌で感じられて、すごく励みになりました」
その真面目さから「オフは、野球のことを考えないようにしていても、つい考えてしまう」と言う彼に、プライベートで熱中する“野球以外のもの”を尋ねると……。
「リハビリをしている期間中、お笑いのYouTubeをいろいろ見ていて。なかでもハマったのが、さらば青春の光。普通の人には思い付かないような企画をやっていて面白いんです。お二人が事務所で飼っている猫も出てくるんですけど、すごく可愛くて。猫が好きなので、それも目当てで見ていますね」
最後に、今シーズン、みずほPayPayドーム福岡に応援しに来てくれるファンに向けてのアピールポイントを尋ねると、「肌の白さかな(笑)」と冗談交じりにニッコリ。
「筑後は屋外なのでみんな日焼けしてくるんですけど、僕はあまり焼けなかった。今シーズンは(本拠地がドームの)1軍に定着して、より白くいられる一年にしたいですね(笑)」
Profile
正木智也
まさき・ともや 1999年11月5日生まれ、東京都出身。背番号31。2022年ドラフト2位で入団。長打力を武器に、'24年は1軍での出場機会を大きく増やし自己最多の7本塁打を放つ。ケガを乗り越え、再び1軍定着を目指す。
Profile
福岡ソフトバンクホークス
ふくおかソフトバンクホークス 福岡市中央区にあるみずほPayPayドーム福岡を本拠地とする日本プロ野球(NPB)パシフィック・リーグ所属のプロ野球球団。12球団の中で唯一4軍制を導入しており、育成選手から飛躍する選手の登場も度々話題に。これまでに12回の日本一を達成、今シーズンは連覇を目指す。
写真・倉本侑磨(PygmyCompany) スタイリスト・井田信之 ヘア&メイク・矢野目薫、臼木陽子 取材、文・野村文
anan 2494号(2026年5月1日発売)より






















