収録しながら当時の光景まで蘇り、いろいろな気持ちになりました。
「エッセイを出版させていただいた当時は、家族やエッセイの中に登場する友達など身近な人たちがすごく喜んでくれたのを覚えています。そして本好きとして、自分の名前が表紙にある本が出来上がったことも夢のようでした。“拙著”ですから…って、そう言いながら今でも少し浮かれています(笑)。それが今度は、朗読で配信させていただけるなんて嬉しいです。ただ、改めて声に出して自分の文章を読んでみると、なんだかちょっと恥ずかしいですね」
そうはにかみつつも、収録時の様子をこう振り返った。
「ほろ苦さみたいなものがありながらも、当時の自分の全力を出し尽くして書いたことには間違いないし、逆に今だったらこの表現はできないだろうなとか、収録しながらいいじゃんって思うところもあって。いろいろな気持ちになりました。ちょうど朝ドラ『カムカムエヴリバディ』を撮っていた時期も重なって、煤(すす)だらけのモンペ姿で書いていたな…なんて光景まで蘇りました」
吹き替えや歌手活動などを通して知られている、上白石さんの透明感あふれる声にはすでに定評があるが、朗読ではまた違う魅力も発揮。淡々と読み進めるというスタイルは、耳馴染みがよく、心地いい。
「声だけの場合、そこに含まれる情報量はすごく多いと思うので、お芝居とは違う配慮が必要だと思っています。例えばナレーションのお仕事の場合、どんな番組の映像に乗せるのかとか、それによってどんなテンションが求められているのかを考えるのですが、朗読で意識するのは、個性的になりすぎず、色をつけすぎないように読むこと。作家さんやディレクターさんが書かれたものを読み上げる時、私は原稿の意図をなるべくそのまま伝えるための媒介者であるべきだと思うからです。今回は自分が書いたものではありますが、すでに文章に個性や想いは滲んでいるだろうと思って、なるべく飾りのない声で個性などを削ぎ落とすことを意識しました」
エッセイ集には未収載のコンテンツ「〆切る」が追加され、特別音源として「編集Sさんとのフリートーク」を収録した特典付き版があるのもAudibleならでは。
「エッセイ出版当時も『適当に付き合ってください』なんて言った気がしますが、この朗読も気張らずに、適当にリラックスして聴いていただきたいです。適切という意味も含む“適当”っていい言葉ですよね。自分の手や目を動かさずに、スッと耳に入って出ていくぐらいの“環境音”として楽しんでほしいです。そして私の声はたまに、眠くなる声だと言われることもあって。寝る前に、垂れ流すように聴くという使い方もいいかもしれませんね(笑)」
PROFILE プロフィール
上白石萌音
かみしらいし・もね 1998年1月27 日生まれ、鹿児島県出身。俳優、歌手、作家として活躍中。出演映画『ふしぎ駄菓子屋 銭天堂』は12月13日より、『35年目のラブレター』は2025年3月7日より公開予定。
INFORMATION インフォメーション
『いろいろ』
書き下ろしエッセイや、故郷・鹿児島への小旅行ルポ、フィルムカメラスナップなどを収めた著書『いろいろ』(NHK出版)。特典付き版(聴き放題対象外)はエッセイ集にはない「〆切る」と「編集Sさんとのフリートーク」が追加され、本人の朗読によりAudibleにて配信中。