左から望海風斗さん、甲斐翔真さん
――おふたりの初共演は一昨年のミュージカル『next to normal』(以下、『next~』)です。双極性障害を抱える母・ダイアナと、あるいわくを抱えた息子のゲイブという親子の役を演じています。そのときのお互いの印象は覚えていますか?
望海風斗さん(以下、望海):おとなしい若者だなという印象でした。黙々と小さなメモを持ってセットを歩き回っているけれど、そのメモが身長に見合わない小ささで。
甲斐翔真さん(以下、甲斐):ポケットに入る大きさだったんです。…ってメモのサイズはどうでもいいでしょ(笑)。僕の演じたゲイブがすごく動き回る役だったので、セットに慣れておこうと思って。でも他の作品でもわりと舞台上の空気を把握しておきたくて、ウォーミングアップの気持ちでよく歩き回ってます。
望海:私も明日からやろう。
甲斐:やっぱり空間を把握しておくって大事じゃないですか。
望海:一応セットができたら、どういう感じか一回歩いてはみるけれど、あそこまで動かないかな。メモも、私は書くことが多いからもうちょっと大きいサイズだし。
甲斐:…って、またメモの話になってません?
望海:でもそこから印象が少しずつ更新されていて、今は面白い方だなって思っています。閃いたことがあると急にしゃべりだすし。
甲斐:しゃべった内容、たぶん自分でも覚えてないです。でも、望海さんも思ったことをパッと言って終わりますよね。細かいことを気にしてないところとか、空気感に近しいものを感じています。でも本番中に横にいて学ぶことはとても多いです。お客さんの心を掴むテクニックとか観察してます。
望海:嘘!? どういうところ?
甲斐:無意識なんだと思いますが、ちょっとした角度とか間とかフィーリングとか…お客さんの痒いところに手が届く感じです。
望海:でもそれで言ったら、私も学ばせていただいていますよ。
甲斐:僕は何もないですって。
望海:毎日新鮮に舞台の上に立つって、じつはすごく難しいことじゃないですか。でも翔真くんって、敢えて面白いことをやるわけじゃなく、ちゃんと毎回新鮮に面白さを見つけにいってる感じがあって。一緒にやっていると「あーそうだった!」と思わされます。
甲斐:昨日の自分を忘れちゃってるだけだと思います。
望海:でも、それが俳優としては一番理想的な形じゃない?
――ここまでの共演作での相手の印象についてはいかがですか?
望海:それこそ『next~』でのダイアナとゲイブの親子って、すごく特殊な繋がりですよね。前回はコロナ禍で、いろいろ制限がある中での稽古だったので、どうコミュニケーションをとっていったらいいんだろうと思っていたんです。でも、翔真くんのゲイブの悲しみというか孤独感に、私のダイアナと通じ合うものを感じて、そこで親子感を生み出せていた気がするんです。
甲斐:僕、当初は役柄的に、ダイアナというキャラクターを踏まえてゲイブを作った方がいいのかなと考えていたんです。でもやっていて限界を感じてしまって、もうちょっと能動的に役を作っていくことにしたんです。そうしたら自然と悲しみが強くなって、結果的に母親と悲しみを引っ張り合うみたいな関係になれたのかなと。
望海:その感覚は私もやりながら、すごくありましたね。
――その後に初演の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』(以下『ムーラン・ルージュ~』)で恋人同士を演じています。この作品で、望海さんは平原綾香さんとWキャストでナイトクラブの花形スターであるサティーン、甲斐さんは井上芳雄さんとWキャストで若きアメリカ人作曲家のクリスチャン役で出演しています。
望海:Wキャストなので、稽古でも翔真くんと組む機会は限られていたのですが、稽古の最初の頃はふたりで歌いながらもゲイブがよぎる瞬間がありました。
甲斐:僕は作品ごとに全然違うスイッチが入るので、『ムーラン・ルージュ~』が始まってからはもうサティーンとしてしか見てなかったです。僕は毎回舞台でいかに本物でいるかっていうところを目指しているんですが、サティーンもつねに本物として舞台にいてくださるので、クリスチャンとしては毎回グッとくるところが変わるんですよね。それは再演中の今も同じで、そこがやっていて楽しいところです。
望海:それは私もそう。一瞬で恋に落ちる日もあれば、彼の言葉にだんだん気持ちがほぐされていく日もあるし。あと私は、翔真くんのクリスチャンの計算のないまっすぐさが毎回心に刺さるかな。
――そして、ミュージカル『イザボー』では再び親子役。フランスの歴史上“最悪の王妃”と呼ばれもっとも嫌われた王妃・イザボーの生き様を描いた作品ですが、望海さんがイザボーを、甲斐さんは、母から愛情を受けることなく育ったシャルル7世役でした。
望海:親子だけれどあまり交わらなかったんですよね。
甲斐:イザボーは孤独な役ですもんね。でも最後の方にようやく目を合わせて、親子が心から会話する場面はやっていて楽しかったです。この瞬間のため、そこまで2時間以上を積み上げてきたんじゃないかと思うくらい。
望海:私はその前の「あなたは息子じゃない」と言ってシャルルを傷つけるシーンが大好きだったんだよね。翔真くんのショックを受ける顔が日々違うから、ここからどう最後の心を通わせるシーンにいくのかなっていうのが、密かな楽しみでした。
――そこから上演中の『ムーラン・ルージュ~』を経て、次に『next~』の再演も控えています。
望海:『イザボー』のときは、親子なのに心が通ったような通ってないような関係性だったので、今、『ムーラン・ルージュ~』に戻ってきて、ストレートに愛を捧げてくれることにありがたみを感じるようになりました(笑)。
甲斐:課題は次の『next~』の再演ですよね。初演のときに結構頑張って、やるべきことはすべてやったような気がするので、次はどうしようとなってます。
望海:それがある意味楽しみでもあります。初演のときは宝塚歌劇団を退団してすぐだったこともあり、必死だったんですよね。そのヒリヒリ感が作品にいい形で作用したのかなと思っていて。今回は作品をより理解して臨めるぶん、さらに深まる部分があるだろうし、もっとその瞬間に生まれた感覚を大事に演じたいです。
甲斐:『ムーラン・ルージュ〜』もですが初演で自分が作った役を信用できれば、再演でどんな球が来ても受けられるし、投げられるんです。それがまたできればすごいところまで行けるんじゃないかと思っています。
ミュージカル『next to normal』 12月6日(金)~30日(月) 日比谷・シアタークリエ 音楽/トム・キット 脚本・歌詞/ブライアン・ヨーキー 演出/上田一豪 出演/望海風斗、甲斐翔真、渡辺大輔、小向なる、吉高志音、中河内雅貴 チケットは秋に一般前売り開始。2025年には福岡、兵庫で公演あり。https://www.tohostage.com/ntn/
のぞみ・ふうと 1983年10月19日生まれ、神奈川県出身。宝塚歌劇団雪組トップスターを務め、2021年の退団後はミュージカルを中心に活躍。8月28日にメジャー1stアルバム『笑顔の場所』をリリース。
ジャケット¥550,000 パンツ¥154,000 チュールスカート¥187,000(以上ファビアナフィリッピ/アオイ TEL:03・3239・0341) バングル¥62,700(カスカ/カスカ イストリア TEL:03・6452・3196) その他はスタイリスト私物
かい・しょうま 1997年11月14日生まれ、東京都出身。2020年の『デスノート THEMUSICAL』で初舞台にして初主演。『RENT』『エリザベート』などに出演。来年『キンキーブーツ』での主演も控える。
衣装はすべてスタイリスト私物
※『anan』2024年8月28日号より。写真・彦坂栄治(まきうらオフィス) スタイリスト・井阪 恵(dynamic/望海さん) 山本隆司(style3/甲斐さん) ヘア&メイク・岡田知子(TRON/望海さん) 木内真奈美(Otie/甲斐さん) 構成、取材、文・望月リサ
(by anan編集部)