ルールを設けず、自由にあっちに行ったりこっちに行ったりすることを楽しみながら作る。
「僕は毎日のようにライブをしているようなミュージシャンではなく、楽曲制作を中心に活動しています。世の中の“音楽”は、例えば映画音楽だったり、様々なメディアのために作られている音楽がほとんど。僕も嬉しいことにそういった類いの音楽を作る機会をいただくことが多いのですが、ふと『昔は自分のために音楽を作ってたじゃないか』と思うことがありました。それで、プロジェクトの合間にセラピー的に音を作っていって、その制作を振り返ると、『これは純粋に自分のための音楽だな』と。僕にとって曲を作ることは日常生活の一部で、自分の音で自分自身を見つめ直すことができます」
生楽器、電子音、フィールド・レコーディングといった多岐にわたる音が聞こえる。その時どきのムードや感情の赴くままに奏でられた音楽に聞こえるが、曲制作の際に設計図は作るのだろうか。
「自分のために作る楽曲の場合は青写真は作りません。一番大切なのは楽曲の命を吹き込む瞬間である一音目。それが曲の核になるので、決まったルールを設けないで、いつも異なるアプローチで作ります。例えば今この部屋に鳴っている“カチカチ”という音が良いなと思ったらそれをリズムにしてみたり、旋律を乗せてみたり。そういうふうにして自由にあっちに行ったりこっちに行ったりすることを楽しみながら作ります」
本作の収録曲もすべて違うアプローチから生まれた曲だという。
「1曲目の『unpeople』はギターをカッティングしながら心臓の音をループさせたところから作り始めて、最終的にニューウェーブっぽい音になったのが面白かった。『Postpone』はとりあえずワインボトルをポンポン叩いてみたところから制作が始まりました」
コーネリアス、KOM_I、ジェフ・パーカー、グレッグ・フォックスといった縁の深いアーティストが多く参加しているが、「コラボレーションは予期せぬ音との出合いを生み出す」と嬉しそうに話す。
「ゲストで参加していただいた方々のことは全員リスペクトしていますし、『こういう球を投げたらこう返ってきた』という感覚にとてもワクワクします。自分だけでは生まれない、想像の上をいくものができることにコラボレーションの喜びがある。蓮沼フィルも僕以外に14人の演奏家がいますが、その方たちを踏まえて旋律を作ります。だから、蓮沼フィルも“みんなで作っている音楽”という認識ですね。フィールド・レコーディングも、『こういう音が録りたい』という目的よりも、『どんな音と出合えるのかな』という発見の気持ちで音を録りに行きます。何せよ予期せぬ出合いを求めている感覚が強いですね」
アルバム『unpeople』。コーネリアス、KOM_I、ジェフ・パーカー、グレッグ・フォックスなど国内外の縁の深いアーティストがゲスト参加。全14曲収録。【CD】¥3,300(Virgin Music Label&Artist Services) 【LP】¥5,500(SHUTAVINYL002)
はすぬま・しゅうた 1983年、東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織し、国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュース等を手掛ける。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
※『anan』2023年10月18日号より。写真・玉村敬太 取材、文・小松香里
(by anan編集部)