YOASOBI
アニメやSNSを武器にした、ポップカルチャーの寵児。
“小説を音楽にする”をコンセプトとした、コンポーザーAyaseとボーカルikuraによる音楽ユニット・YOASOBI。特定の物語を楽曲として起こしているのでアニメとの相性が良く、TVアニメ『【推しの子】』のOP主題歌「アイドル」が米ビルボードによる米国抜きの世界チャートで1位を獲得するなど、その人気は世界規模に。
「YOASOBI始めます!」彼らを迎え入れる大歓声に応えるようにボーカルikuraが高らかに宣言し、全国ツアー最終公演が始まった。
全国6か所、各会場2DAYSの全公演がソールドアウトしたYOASOBI初の単独アリーナツアー“電光石火”。その追加公演のぴあアリーナMMも、チケットは当然のように完売。ドーム級の収容人数を誇るさいたまスーパーアリーナを2日間ソールドアウトさせているだけあり、「YOASOBIをこの規模の会場で観られるのは最後かも」という予感もあったのかもしれない。ぴあアリーナMMは決して小さな会場ではないが、まるでライブハウスのような熱気、そして不思議と親密な空気が満ちていた。
オープニングを飾ったのは「祝福」。2022年から今年にかけて毎週のようにTwitterトレンドの上位を独占していた、ガンダムシリーズ最新作TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の第1期オープニングテーマとして書き下ろされたシングルだ。続いて彼らのデビュー曲にしてビルボード・ジャパン総合ソングチャートで2020年年間1位を獲得した代表曲「夜に駆ける」。3曲目はNTTドコモ「ahamo」のCMソングに起用されストリーミング累計再生回数1億以上を記録している「三原色」だ。まさしく「ヒット曲連発」という決まり文句に相応しいセットリストだが、結成から4年足らずのミュージシャンがこんな大胆な曲順を組むことができるという事実が、何よりYOASOBIが破格のヒットメイカーであることを物語っている。そして、それは彼らがアルバムではなくシングルリリースを制作活動の中心に置いていることと無縁ではない。TikTokやサブスクのプレイリストを通して楽曲単位で新たな音楽と出合うのが当たり前の現在においては、海外においてもシングル中心が新たなスタンダードであり、YOASOBIはその潮流を掴んだ国内の好例といえる。
さらに、その膨大なヒット曲の数々に新たな彩りが加えられているのも彼らのライブの魅力の一つだ。小説を原作としたことによるそれぞれの楽曲が持つ強い個性。アンコールで満を持して放たれた「アイドル」は、まるで『【推しの子】』を体感しているかのようなステージングで、照明を含むステージ演出がブーストさせる強い相乗効果はYOASOBIのコンセプトならではの輝きだ。
また、ライブならではのサウンドも見逃せない。Ayaseとikuraが楽曲が持つ基本的なイメージを維持しながら、ギター、ベース、キーボード、ドラムを軸とした4人のバンドメンバーが、バンドサウンドという新たな命を楽曲に吹き込んでいくのだ。打ち込みを主体としたサウンドの印象が強いYOASOBIだけに、このライブならではの表現には多くの初見リスナーが驚くことだろう。近年は世界的にラップ/R&Bが人気であることも含め、世界的にライブの“カラオケ”化が進んでいる傾向にある。そんな中、ボカロP出身のAyaseが楽曲制作を一手に引き受けるYOASOBIが、ライブにおいては生演奏を重視することを選んだのは非常に興味深い。
さて、そんな「飛ぶ鳥を落とす勢い」を体現するYOASOBIだが、ステージ上にいる彼らはあくまでも自然体だ。初の全国ツアーが最終日を迎えることを一人のプレイヤーとして名残惜しむAyase。そして、オーディエンスにマイクを渡してコミュニケーションをとるikuraの姿からは、良い意味で“アーティストとしてのエゴ”を感じられない。MCでは、共にステージを作り上げたバンドメンバーや制作スタッフたちを紹介し、彼らがいなくてはこのツアーが成り立っていないことを何度も繰り返す。そしてikuraは、そこにオーディエンスの存在も付け加えた上で「YOASOBIはみんなの夢でできている」と宣言した。楽曲のクオリティはもちろん、この「コミュニティ感」こそが、YOASOBIがこの時代に支持を集める理由の一つなのかもしれない。
YOASOBI ARENA TOUR 2023“電光石火”
6.24.SAT @ぴあアリーナMM
【SET LIST】
01_祝福
02_夜に駆ける
03_三原色
04_セブンティーン
05_ミスター
06_海のまにまに
07_好きだ
08_優しい彗星
09_もしも命が描けたら
10_たぶん
11_ハルジオン
12_ハルカ
13_ツバメ
14_怪物
15_群青
16_アドベンチャー
~アンコール~
17_アイドル
ヨアソビ 2019年結成。「夜に駆ける」でデビュー。YOASOBIとしての活動のほか、Ayaseはソロアーティストとして自身がボーカルを務めた楽曲のリリースや多くのアーティストへの楽曲提供を手掛け、ikuraは幾田りら名義でシンガーソングライターとしても活動している。
※『anan』2023年8月30日号より。写真・Kato Shumpei MASANORI FUJIKAWA 文・照沼健太
(by anan編集部)