望海風斗「共演者の方々と心を通わせて、お芝居をみんなで作り上げていく作業が好き」

エンタメ
2023.06.23
宝塚歌劇団在団中から、深く豊かな声と表現力を兼ね備えた歌の実力は、観客を圧倒するものがあった。しかし、一昨年に退団し、舞台にコンサートにと作品を重ねるごとに声に艶が増し、美しさに磨きがかかる望海風斗さんの姿を拝見していると、持って生まれた才のみならず、確かに重ねた研鑽に裏打ちされたものだということを実感する。
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――今年、読売演劇大賞で優秀女優賞を受賞、そして先頃、菊田一夫演劇賞の受賞も発表されました。

私自身が一番驚いています。今年は初舞台を踏んで20年目の節目の年。そのタイミングに大きな賞をいただいて、ここまで頑張ってきてよかったなということと、これまで出会ってくださった方々、関わってくださった方々への感謝の気持ちでいっぱいです。

――そして次の作品は、日本初演となる大作『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』です。出演が決まった時はいかがでした?

じつはオーディションだったんです。宝塚を退団してあまり経っていない頃で、オーディションというもの自体が自分にとって大きな経験になるだろうという気持ちで受けたんです。でも受けたからにはやはり出たいですし、決まった時は素直に嬉しかったです。

――オーディションだったんですね。宝塚でトップスターまで務められていて、オーディションを受けるってすごいですね。

外の世界のことも、オーディションというものも、あまりよくわかっていなかったのがよかったんだと思います。とにかく与えられた課題をこなすことに必死でしたから。原作の映画を何度も観て、ニコール・キッドマンのサティーンを研究するんだけれど、女性を演じる自分がしっくりこないし、使ったことのない語尾にも戸惑って…。でも、おかげでオーディションまでに自分が乗り越えるべき課題がはっきりしたし、明確なゴールがあったから頑張れたとも思います。その後の女性の役に違和感なく入っていけたのは、あの経験が最初にあったからですね。

――オーディションへの恐れ、みたいなものはなかったんですか?

とにかくわからないことだらけなので、これが世に言うオーディションというものなんだって感覚で、当たって砕けろ精神。この世界でやっていこうと思うなら、ここをまずは乗り越えないとって。

――退団当初から、舞台に軸足を置こうと思われていたんですか?

そうですね。退団を決めた時は、先のことを何も考えていなかったんです。辞めてからゆっくり考えればいいやって思っていたんですよね。でもコロナ禍になり、舞台が止まって考える時間ができた時に、やっぱり舞台に立ちたいと思ったし、そこでファンの方とお会いすることが、何より好きなんだって自覚したんです。

――現在の事務所の先輩は映像作品で活躍されている方が多いですが、映像より舞台だったんですね。

入る前にお話しさせていただいている時から、舞台と歌はやりたいですということはお伝えしていました。その上でお世話になろうと思ったのは、自分が想像していなかったようなことにもチャレンジできると思ったからです。

――ラジオ『望海風斗のサウンドイマジン』や、Spotifyで配信された『望海風斗のほろ酔いアワー』のような声のお仕事も、そのひとつなのかなと思いますが。

それに関しては、思っていた以上に反響が大きくて嬉しいです。姿が見えないからこそ、楽しんでもらえるようにどうしゃべるのがいいのか、日々勉強しています。

――ラジオの中で話されていて意外だったのが、退団後に結構焦りを感じていたとおっしゃっていたことでした。作品選びから、出演された舞台のクオリティまで含めて、ファンの期待以上のものを見せてくださっているだけに…。

宝塚歌劇団の、入団1年目から順を追って育てていって、トップになるまでにちゃんと準備ができているシステムが、私にとってすごく居心地がよかったんだなと思いました。退団して、女性の役の経験がない状態で、この世界でずっとやられてきた方々ばかりのカンパニーの中に飛び込むわけです。準備ができてない私がちゃんと入れるのかなって、焦っていたんですね。女性を演じるには足りないものがいっぱいあるのはわかるんです。それでボイストレーニングに通っても、気持ちが焦っているから、自分は15段目くらいのことをやりたいのに、1段目から教わることにジレンマを感じてしまう。早くそこに行きたいのに、なかなか辿り着けない自分に、焦りが募った時期がありました。

――でもその一方、宝塚で17年培った力を実感することもあると思いますが、とくに感じるのは?

舞台をやり切る力と集中力。そして、その日のお客様のエネルギーをどう今日の芝居に活かして動かしていくかでしょうか。あと、男役の、あの照明や衣装、セットに負けないエネルギーみたいなものをバーンって瞬間的に放つ力というのは、今に活かされているんじゃないかと思います。

――退団から約2年経ち、ご自身に向いているとか、好きな作品や役の方向性が見えてきた頃なのかなと思うのですが?

やっぱりミュージカルが好きですけれど、その中でもお芝居がちゃんとメインである作品が好きなのかなというのは、いろいろ経験して思いました。歌うことは好きですが、役として歌うとか、ストーリーがあって紡がれる楽曲がとくに好きですし、共演者の方々と心を通わせて、お芝居をみんなで作り上げていく作業が好き。そういう意味で今回の『ムーラン~』は、やりたいこと好きなことがすべて揃っているなと思います。

――とくに実感できた作品というのはありますか?

どの作品も楽しかったですが、強く印象に残っているのは昨年の『Next to Normal』です。こういうことがやりたかったんだなと発見できた作品でしたし、やっていて「生きているな」と感じる瞬間が多かったです。退団して1年というタイミングに出合った作品だったのも大きかったと思います。まだ自分が何者かわからない中、初めましての方たちとたった6人で作っていかなきゃいけないという状況でしたから。

――演じたのは双極性障害を患っている母親という難役でした。

当時は、これが正解なのかなと思うことがいっぱいあり、本当に悩みました。それでも毎日稽古場に流れるヒリヒリとした緊張感も、キャスト全員で力を合わせていく感じも楽しかったです。

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『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』は、6月29日(木)~8月31日(木)、日比谷・帝国劇場にて上演(6月24~28日はプレビュー公演)。1899年のパリ、絢爛豪華なショーで観客を集めるナイトクラブ、ムーラン・ルージュ。その花形スターであるサティーンを望海さんと平原綾香さんがWキャストで演じる。東宝テレザーブ TEL:03・3201・7777

のぞみ・ふうと 神奈川県出身。2003年に宝塚歌劇団に入団し、花組に配属。当初から実力派の男役として知られ、’14年に雪組に組替え。’17年にトップスターに就任し絶大な人気を誇った。’21年の退団後は、『ガイズ&ドールズ』『ドリームガールズ』などミュージカルを中心に活躍。今年、読売演劇大賞優秀女優賞、菊田一夫演劇賞受賞。

ジャケット¥238,700 タンクトップ¥58,300 パンツ¥236,500(以上ファビアナ フィリッピ/アオイ TEL:03・3239・0341) ネックレス¥65,000 ピアス¥33,000 パールとシルバーのリング¥62,000 ゴールドリング¥39,000(以上ブランイリス トーキョー TEL:03・6434・0210) 靴はスタイリスト私物

※『anan』2023年6月28日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・早川和美 ヘア&メイク・Yuto インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

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