世界の頂に立った21歳は、重圧をどう捉えて戦ったのか。心の内を探ります。
「“柔道は痛いよ” って。最初は父に止められました。でも、兄たちが楽しそうにしている姿を見て、5歳の私は絶対にやりたかったんです。父はピアノを勧めたけれど私には全然合わなくて。やっぱり夢中になったのが柔道でしたね。それに意外と痛くないんですよ。ぜひ、やってみてください(笑)」
そう言いながら見せた茶目っ気たっぷりの笑顔にこちらも頬が緩む。兄が2人いる三兄妹。自身を、「負けず嫌いで末っ子らしいわがままな部分も多い。また、兄たちが怒られていたことは、するべきではないと自分なりに学んだので、要領はいいほうかも」と分析する。柔道界はおろか日本中の期待を背負い、見事獲得した念願の金メダル。しかも、それには「日本柔道史上初」という後世に残る偉大な冠が2つもつく。
「オリンピックは他の大会よりも特別な雰囲気で、責任をより感じましたが、よく言われる魔物は棲んでいなかったです。私、基本的に試合では、みなさんが思うほどのプレッシャーを感じないんです。やるべきこと、覚悟は決まっているので、〝自分が一番強い〞と思うようにして挑んでいます」揺るがない決意。経験や自信がそれを作っているのだろうと漠然と思いながらも、なぜそこまで強くいられるのだろうか。その答えは、続く言葉で明確になった。
「重圧は日々の練習で感じていますから。自分は追われる立場であり、負けられない。常に追い詰められながら、これまで鍛錬してきたんです。不安はひとつずつ練習で取り除いていくしかありません。そうやって淡々と準備をして、最高のコンディションで試合に臨むわけです。だから、試合の日は試合のことだけを考えればいい。練習よりしんどくないんですよ」
では、そんな思いをしてまで柔道を続ける理由とは…?
「まずは勝つ喜びを味わいたいから。気持ちが弱くなった時もありましたが、その最高の感情を知ってからは、苦しみに耐えないといけないと思うようになったんです。また、自分はまだまだ足りないので、もっと強くなりたいという気持ちがあるのもひとつ。そして何より、支えてくれる方、応援してくれる方の喜ぶ顔を見たい。みんなの笑顔こそが、私の一番の原動力なのかもしれません」
“自分のため” に、“大切な誰かを想う気持ち” が加わると1だったパワーは何倍にも膨らむのだ。阿部選手から溢れ出る輝きが、そう教えてくれている。
あべ・うた 2000年生まれ、兵庫県出身。日本体育大学在学中。“一本を取りにいく”攻めの柔道が強み。得意技は内股、袖釣込腰。兄は同オリンピック男子柔道66 ㎏級金メダルの阿部一二三選手。
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※『anan』2021年10月13日号より。写真・髙橋マナミ スタイリスト・藤長祥平 ヘア&メイク・paku☆chan(Three PEACE) 取材、文・伊藤順子
(by anan編集部)