――実は、編集部の中で、「市川さんってミステリアスな人だよね」という話が出てまして…。
確かに、初めてお会いする方や、こうやって取材とかでお目にかかった方に、「こんなによく笑ってしゃべる方だったんですね」と驚かれることはありますね(笑)。
――あまり私生活を語られているイメージがないので、「いったいどんな人なんだろうか」と…。
あ、でも、“市川実日子”と言われるよりも、何かの作品の役名で言われるほうが、どちらかというと嬉しいかもしれません。作品を見るときに、俳優の素顔などの情報はないほうがワクワクして見られるのでは、と、個人的には思うんですよね。私自身がそうなので。なのでどこかで、“私個人の情報はいらないよね?”と思っているところもあります。とはいえ、特に隠そうとか、知られたくない、とか、思ってないですよ(笑)。
――今日の撮影のときも、カメラマンの方やスタッフとずっと楽しそうに話しながらカメラの前に立っていたのが印象的でした。
ふふ、熟したんです。私はもともと三姉妹の末っ子で、14歳のときにモデルデビューをしたこともあり、昔はどこにいても“一番年下”でした。でも、20代前半のとき、私以外全員年下という現場で、私が自分の年齢を言った途端、フランクにしゃべっていた年下の子たちに、「あ、そうなんですか、すいません!」と、壁みたいなものを作られてしまったことがありまして。もちろん敬意を払ってくれた結果なんですが、ただその瞬間から接し方がわからなくなってしまった…。敬う気持ちは大事なんですが、ものづくりの現場では、そのせいで遠回りになることもある。その経験から、年齢に関係なく、なるべく同じ目線で接することが、自分にとって大事なことだとわかりました。撮影現場での緊張感は大事だけれども、基本的には柔らかさがあったほうがいいのではないかと思っています。…とか言ってますけど、仕事を始めたころ、岩でしたからね、私(笑)。
――岩?! 岩ってなんですか…?
大人が怖くて、カメラが怖くて、話しかけられても、カメラの前でまったく動けなかったんです。岩のごとく(笑)。
――今の市川さんからは、まったく想像がつきません…。
モデルになったばかりのころは、写真を撮られるのが本当に苦手だったんですよ。でも撮影に行くと、カメラマンさん、ヘア&メイクさん、スタイリストさんなど、ものを作るかっこいい大人たちがたくさんいて、それを見るのがとても楽しかった。あの大人たちに会いたいっていうのが、仕事をするモチベーションになっていたんです。初めての映画のときにも、同じように現場でワクワクして。でもあるとき、自分も“かっこいい大人たち”の一員にならなければならないと、意識が変わった瞬間があったんです。恥ずかしいけれど、ちゃんとカメラの前に立てるようにならなきゃいけない、と。私はたぶん、恥ずかしいと思う気持ちが人一倍強かったので。
――その、人前に立つことへの羞恥心は、今も強いのですか?
もちろんですよ! でも、こういう仕事をしている方でも、たぶんみんな恥ずかしさを持ちながら、やっている気がするんですよね。自分が“恥ずかしセンサー”を持っているから、結構分かるんです。「え、もしかして、あなたも、恥ずかしいけどこの仕事やってるんですか?!」って(笑)。
――言葉に出して聞くんですか?
聞いたこと、あるかもしれません(笑)。でもたぶん、なんだろう、仕事をする相手から、そういった気持ちの揺れが感じ取れると、一緒にやっていて安心するところがあるのかな。私はそういう人のほうが、好きかもしれないです。
いちかわ・みかこ 1978年6月13日生まれ、東京都出身。’94年、雑誌『オリーブ』の専属モデルとしてデビューし、’00年、長編映画で女優デビュー。代表作にドラマ『すいか』(’03)、『アンナチュラル』(’18)、『凪のお暇』(’19)。映画では『めがね』(’07)、『シン・ゴジラ』(’16)、『よこがお』(’19)など。現在ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)に出演中。ジャケット¥310,000 セーター¥130,000 ブラウス¥115,000 デニムパンツ¥72,000 ブーツ¥175,000(以上セリーヌ バイ エディ・スリマン/セリーヌジャパン TEL:03・5414・1401) ピアスはスタイリスト私物
『罪の声』 35年前に起きた食品会社を標的とした脅迫事件。未解決のこの事件を、新聞記者・阿久津英士(小栗旬)は追いかけていた。一方テーラーを営む曽根俊也(星野源)は、家族3人で幸せに暮らしていたが、ある日、父の遺品の中に自分の声が入ったテープを見つけ、知らぬ間に事件に関わっていたことを知る。10月30日公開。
※『anan』2020年11月4日号より。写真・東 京佑 スタイリスト・谷崎 彩 ヘア&メイク・草場妙子
(by anan編集部)