ひとり温泉×永井千晴
「一生これをやるんだろうなと思う」
これまでに、国内外合わせて500以上の温泉に入湯。湯の良さを噛み締めるのが好き、と言う永井千晴さん。“ひとり温泉”に目覚めたのは、学生時代のとあるアルバイト経験がきっかけだそう。
「バイトをしていた会社が立ち上げた温泉メディアで、記事を書くことになったんです。東京から西に向かい軽自動車を運転し、温泉に入っては記事を書く…ということをしていたところ、神奈川、静岡…と進んでいき、三重県に入ったところで、それまでサラサラだった泉質に、突然とろみが出てきた。まるで美容液のような泉質にびっくりし、こんなに違いがあるのか…と大感動。以来、温泉が大好きになりました」
みんなで温泉へ…というと、どちらかというと“普段しゃべれないことをゆっくり語り合おう”的な、コミュニケーションがメインになりがち。そういった環境だと、いわゆる“温泉オタク”の永井さんは、正直、あまり湯に集中できないのだとか。
「私はじっくり何時間でもお湯や宿と対峙したいのですが、誰かがいるとそうはいかない。結果、人と行ったときの温泉は、泉質に関して自分がどう感じたか、あまり思い出せないことが多いんです。大好きな温泉だからこそ、そこで何をどう思ったか、どう感じたか…という“自分の感想”に集中したい。そう考えると、ひとりで行くのが一番いいんです」
あの温泉が気になる! と思ったら、すぐに調べ、ササッと予約し、自分のタイミングで出かける。自分のしたいことを自ら取捨選択し、行動に移す。すべて自己責任だからこそ、喜びはもちろん、失敗による苦い思いも味わい深い。
「仕事を終えて、車に乗って温泉宿まで行き、お茶を飲み、ビールを飲み、ゆっくりお湯に浸かる。そんなとき、“私はこれを、きっとこの先30年くらい…というか、一生繰り返すだろうな”と思う瞬間が、これまでに何度もありました。温泉が気持ちがいいということもありますが、一生ひとりで楽しめる趣味を手に入れたということ自体の喜びを噛み締めるのが幸せなんです」
自分を幸せにする方法を知っているということは、人生を生きる上で永井さんの大きな支えになっているのだそう。
「どちらかというと私は人付き合いが得意なほうではなく、また夫もかなり年上なので、孤独なおばあちゃんになるのかな、と思うことがたまにあります(笑)。想像すると悲しいし苦しいですが、でも、“私はこうすると楽しい気持ちになれる”という方法を知っているから、ある意味怖くない。人生を戦う武器を手に入れた、そんな気持ちになれるんです」
入った温泉について、ブログやツイッターで発信をしていたところ、それがきっかけで温泉に関する書籍を出版することに。ひとりで始めた趣味で、思いもよらぬ方向の扉を開くことにもなりました。
「ひとり温泉の経験を重ねる中で、ますます“私がどう思ったか”という“自分の声”に矢印が向くようになっている気がします。私は忖度なく、100%の優しさをもって自分に接したい。“他者が見る私”も大事ですが、まずは一番身近にいる自分が、私を大切に思い、肯定してあげることのほうが大事だと思います。そう言うと、めっちゃ自己愛が強い人みたいですが(笑)、でも究極、私が楽しかったらいいじゃないですか。人に気を使ってその喜びが減っちゃうなら、気兼ねなくひとりでその楽しさを満喫したいです」
ひとりで入湯、幸せ満喫。ソロ活ってエコ、と笑う永井さん。
「わがままかなぁとも思うんですが、ひとりなら誰にも迷惑をかけないし(笑)。人を気にしないって、やってみると心地いいですよ」
こんな資格も取った!
「温泉ソムリエの試験に合格するともらえる冊子は、温泉巡りのバイブル。頼りになります」
温泉街の散策も、楽し。
山形県大蔵村にある肘折温泉。こぢんまりとしていて風情のある温泉街は、散策も楽しい。
都民の駆け込み寺!?
湯河原にある、ひとり客歓迎の湯宿「オーベルジュ湯楽」。とにかくごはんが美味しく、癒される…。
食事もひとりで大満喫。
稚内から1時間ほどのところにある豊富温泉。3月にひとりでジンギスカンを頬張った思い出…。
たまには自撮りも…。
温泉目覚めの地・三重県の、榊原温泉にて。この幸せそうな表情、充実のソロ活感が伝わります。
ながい・ちはる 学生時代、温泉メディアライターとして全国の温泉を取材し、温泉に目覚める。著書に『女ひとり温泉をサイコーにする53の方法』(幻冬舎)が。Twitterは@onsen_nagachi
※『anan』2023年2月22日号より。
(by anan編集部)