手で書くと、言葉の持つ伝える力が倍増する。
手で文字を書く機会がとにかく少なくなった昨今。書かなければ書かないほど下手になってしまい、それによってさらに書くのが楽しくなくなる…。そんなループに陥ってしまった人も少なくないはず。しかし一方で、デジタル時代だからこそ、手書き文字の魅力に注目が集まっているのも事実。美文字の書き方や、文字をデザインして楽しむ〈ハンドレタリング〉のガイドのような書籍が多数出版され、人気が高まっています。
「手書きの魅力とは、そこに書かれた言葉の意味以上の何かが表現できること」
と語るのは、インスタグラムで手書きの文字や美文字のコツを紹介し大人気となった、りささん。
「例えば手紙なら、便箋を選び、下書きするといった下準備をし、さらに相手のことを考えながら手紙をしたためる。その、“相手を思う”という行為が、手書きの文字に力を与え、伝わる力の後押しになるのでは、と思います」
手描きのアート文字・ハンドレタリングの一種で、筆ペンなどを使う〈ブラッシュレタリング〉で、魅力的な作品を生み出しているDanae Letteringさんは、文字のデザインを少し工夫するだけで、言葉の印象がグッと大きくなる、と言います。
「“ありがとうございます”の“す”の最後を少し伸ばして描くことで、強い感謝の気持ちを文字に込めることができますし、さらに文字自体に臨場感が出る。またレタリングの場合、伝えたい内容によって文字のデザインを変えるといった楽しみも。それこそが、手描きならではの楽しさです」
デジタルな文字が溢れる今だからこそ、丁寧かつ素敵な手書き文字の魅力が光るもの。素敵な言葉を誰かに贈りたいときは、相手への思いを手書きの文字に乗せ、届けてみるのはいかがでしょう。
デジタル時代に、なぜ、手書き? 人気の理由を考察してみると…
1、手を動かすこと自体が楽しい! 心がリフレッシュする、という声も。
紙を前にペンを持ち、ただただ手を動かす。Danaeさんにとって、文字を描く行為はストレスリリースの役割もあるのだとか。また同様にりささんも、
「自分の感情を文字に乗せて書き出すのは、人に向けて書くのとは別の楽しさがありますね。嬉しい思い、ちょっと落ち込んだ気持ち…、さまざまな感情を表現するためにつらつらと文字を書く。それによってすごく心がスッキリすることもあるんですよ」
2、インスタグラムには手書き文字アカウントが多数。
今インスタグラムは、手書き文字やハンドレタリングをアップするアカウントが百花繚乱状態。
「私がインスタを始めた’17年頃でも手書き文字アカウントは結構あって、今ほどではありませんが意外と盛り上がっていた記憶が。字って、絵画とかと違い誰でも気軽にトライできるので、SNSで美しい文字を見ることで“私もきれいに書けるかも…”と思う人が増え、さらに盛り上がりを呼んで…となったのでは」(りささん)
3、“完璧な美しさ”よりも、個性のある字こそが、尊い文字。
文字に対してはついつい一般的な美しさを求めがちですが、手書き文字の本当の魅力はそこではないそう。
「私はワークショップのとき、“完璧を目指さないで”と必ず言います。見本のように美しく描ける喜びもありますが、大事なのは“あなたが描く文字は、あなたしか描けない唯一無二のもの”ということ。崩してもいいし、個性もどんどん出していいと思うんです。そうすると、描くという行為が楽しくなります」(Danaeさん)
4、気に入った文字が書けると、もっともっと書きたくなる。
字は、“きれいに書こう”と思っただけで変化が出る。良い意味で、ハードルが低い趣味だとりささんは言う。
「文字は、心構えひとつで結果が出やすいし、さらに“こういう字、書きたかった!”という字を生み出せたときが一番嬉しいし、“こんな字が書けるって、いいじゃない!”と、自分に対して自己肯定感が上がる、そんな手応えもあります(笑)。それが楽しくて、もっともっと書きたい、となってしまう。楽しいループですね」
先生おすすめ! 楽しく書ける道具たち。
お気に入りの文房具があるだけで、文字を書きたくなるから不思議。選び方のコツと合わせて、お二人の推薦アイテムをご紹介。
どのペンを書きやすいと思うかは人それぞれで、自分と相性の良いペンを探すことが大事、というのは、お二人に共通する意見。そのうえで、りささんは、握った感触と、ペン先の滑り方が自分好みかどうかを判断材料にするそう。
「私個人は、ですが、太すぎると手の中でペンが滑ってしまうので、滑らずに持てるかどうかがまず一つ。それから特にボールペンは、ゴロゴロとした触感があるペン先が苦手なので、それは避けます」
一方、筆風のペンを使うことが多いDanaeさんは、ペン先が自分の筆圧と合うかを重要視。
「特に筆風サインペンは、“このくらいの強さでしならせると、この太さの線が描ける”という自分の感覚が、ダイレクトに反映できる硬さのペン先を選びます」
いずれにしても、なにはともあれ試し書きは必須。
「高いペンを買うときは普段よく書く紙を持参し、その紙に試し書きをさせてもらうことも。そのくらい吟味します」(りささん)
りささんおすすめ
筆之助 しっかり仕立て
筆ペンが苦手な人でも、簡単に美しい筆文字が書けることで知られる水性マーキングペン。強い筆圧を吸収し、文字の潰れを防ぐ〈エラストマー芯〉を採用しているので、メリハリのある筆文字がラクに書けます。¥165(トンボ鉛筆 TEL:0120・834198)
万年筆 カスタム74 FKKN‐12SR
「インクの出る量、線の形、細いニブ(ペン先)ゆえの視界の良さ、コスパ、メンテナンスのラクさ…、すべてにおいて最高の万年筆。これが1本目なら素晴らしい万年筆生活になるはず」。¥13,200(パイロットコーポレーション TEL:0120・2・81610)
Danae Letteringさんおすすめ
筆文字サインペン 顔料インキ〈中字〉
Danaeさんがレッスンの際、ハンドレタリング初心者にまずおすすめするのがこちら。「サインペンですが、筆ペンのような線が描ける一本。ペンの穂先に適度なしなりがあって、筆圧によって線の太さを変えられます」。¥165(ぺんてる TEL:0120・12・8133)
ピグマ 03
デザイン業界では〈ミリペン〉の愛称で呼ばれる、玄人好みのペン。「円芯のペン先が細く、まっすぐな線が描けます。筆ペンで描いた大きめのアルファベットのそばに小さく描き足したいときに便利」。¥220(サクラクレパス TEL:06・6910・8818)
りささん 手書き文字と、美しく書くためのコツをインスタグラムに投稿し、話題に。著書に『ふだんの美文字練習ノート』(KADOKAWA)、『美文字で書く素敵な言葉』(マイナビ出版)など。アカウントは@risagraphy
Danae Letteringさん 筆ペンなどで文字を描くブラッシュレタリングを独学で学び、インスタにアップし大人気に。雑誌や書籍、ウェブメディアへの作品提供や、イベント筆耕サービスなども手掛ける。アカウントは@danae.lettering
※『anan』2022年10月5日号より。写真・内山めぐみ
(by anan編集部)