きちんとした言葉遣いは、自分の大きな強みになる。
「正しい言葉遣いには誠実さが感じられます。本当に伝えたいことを言語化できた言葉は美しく、人の心を動かすことができます」
と、言語学者の金田一秀穂さん。なかでも改まった場面では、敬意を表すための敬語の使い方が大切。
「敬語は、スーツやお化粧のようなもの。普段着やすっぴんで、出社したり、お客様をもてなすことはあまりしませんよね。敬語は、相手に対して言葉で敬意を表すことができる最高の手段です。自分の立場をわきまえて、尊敬の気持ちを敬語で示すことで、相手の立場や存在を認めることに繋がります。だからカジュアルな人間関係の中であればカジュアルな言葉遣いでいいけれど、ビジネスやちゃんとした場で人に会う時はスーツを着るように、正しい敬語を身につけておくことが大事なんです」
敬語の間違った使い方をしていると、相手に真意を誤解されてしまったり、逆にかしこまりすぎると壁を作ってしまうこともある。
「上っ面な言葉や間違った敬語を多用すると、薄っぺらい人間に見えてしまい、感謝や謝罪したい気持ちがあっても、受け入れてもらいにくくなることもあります」
特に今はオンライン対話が普及して、直接雰囲気や気配を感じる機会が少ないため、言葉遣いの良し悪しが、その人のイメージに直結しやすくなっているので注意したい。そして日本語は実に豊かなので、様々な敬語の表現方法をマスターして、シチュエーションによって使い分けられるようになると、自分の大きな強みになる!
チコちゃんが考える、敬語との向き合い方とは?
大人の知らないようなこともたくさん知っている、好奇心旺盛なチコちゃん。そんなチコちゃんでも、敬語は難しいと感じることが多いそう。
「尊敬語、謙譲語、丁寧語など、敬語にもいろんな種類があって、使い方に悩んじゃうことがあります。自分に対して敬語を使ってしまう人もいるわよね。最近気になっているのが『させていただきます』の使い方。相手に断りを入れた上ですることに対しては『させていただきます』かもしれないけれど、自分が勝手にすることに対して使うのはちょっと違和感があるわ」
多くの人とコミュニケーションをとるために、敬語は基本のマナー。しかし、間違った言葉遣いをしてしまったら、反省して、学習すればいいとチコちゃん。
「緊張すると余計変な言葉遣いになっちゃったりするわよね。誰でも失敗はあるから、指摘されたら『ごめんなさい』と謝りましょう。それを言い合える関係性を築くことも大切。それに相手の目をちゃんと見て話せば、こちらの誠意は伝わると思うわ。それでも、相手に合わせて美しい日本語を使い分けられる人って素敵ですよね。そのような人の言葉遣いをお手本にしてみたり、敬語の勉強をすれば上手に使い分けられるようになるので、一つ一つ覚えていきたいです」
間違って使っていない!? 言葉の意味を理解しよう。
日常生活でよく耳にするけれど、本来の日本語としては正しくないという敬語の使い方に要注意。「同じ意味の言葉を繰り返し使う『重複表現』や、何となく丁寧だからと使いがちな曖昧な言葉が当てはまります。時代の変化とともに、言葉もどんどん変わってきていますが、一つ一つの単語の意味を理解すれば、間違っていることに気づけるはずです」(金田一さん)
(褒められた時)とんでもございません→とんでもないことでございます
「とんでもない」という形容詞なので、最後の「ない」は「ある/ない」の「ない」とは別物。「『とんでもない』の『ない』を切り離して敬語の『ございません』に置き換えている誤用。だから『とんでもないことです』という表現ならOK」
こちらの方でよろしかったでしょうか?→こちらでよろしいでしょうか?
注文の際によく用いられる、通称“バイト敬語”。「『~の方』は方向や、2つ以上あるもののどれかを指す言葉なので間違い。同じように『よろしかった』も、丁寧な言い回しとして広まりましたが、『よろしい』が自然な言い方です」
(個々のお返事は)差し控えさせていただきます→大変恐縮ですが、お答えしかねます
この場合の「させていただく」は不適切。「『させていただく』は、相手の許可が必要な場合に用いるため、例えば『スケジュールを変更させていただきます』など。自分が差し控える行為には不要なので、後の表現が妥当です」
お体ご自愛ください→ご自愛くださいませ
手紙やビジネスメールで、季節のあいさつと一緒に、相手の体調を気遣う時によく使われる言葉だが、実は重複表現。「『ご自愛』は自分自身の体を大切にするという意味で、最初から目的語が含まれているので、『お体』は不要です」
過剰になりすぎていない!? 気をつけたい二重敬語。
二重敬語とは、ワンフレーズに同じ種類の敬語を二重で使ったものを指す。「過剰敬語とも呼ばれ、より丁寧な方向に持っていこうと、多用されるケースが年々増えているように感じます。本人はマナーだと思って使っているかもしれませんが、間違った使い方だと相手への敬意も伝わりにくくなってしまうので、気をつけましょう」
ご無沙汰させていただいております→ご無沙汰しております
「ご無沙汰する」の表現自体が謙譲語なので、二重敬語にあたる。「語尾だけ言い換えれば適切な表現になります。『させていただいております』は、謙譲語+丁寧語なので二重敬語ではないが、少し回りくどいので避けるべき」
○○部長様はお元気でしたか?→○○部長はお元気でしたか?
役職の後に敬称はつけない。「役職か敬称どちらかに。手紙やメールの場合も同じ。宛名に限っては、役職+殿を用いることもありますが、最近は役職だけでもOK。補足として『殿』は、文書の宛名のみで、文中には使用しないのが一般的」
資料はご覧になられましたか?→資料はご覧になりましたか?
「ご覧」と「なられた」はどちらも尊敬語。「『見る』の尊敬語が『ご覧』で、動詞の『なる』と尊敬の助動詞『られる』が合わさったものが『なられた』なので二重敬語です。別の正しい表現として『見ていただけましたか』も使えます」
△△さんがおっしゃられた通りです→△△さんがおっしゃった通りです
「おっしゃる」と「られる」はどちらも尊敬語。「『言う』の尊敬語の『おっしゃる』に、尊敬の助動詞『~られる』がくっついた形なので誤用」。ほかに「ご指摘の通りです」「ごもっともです」も使えるフレーズとして覚えておこう。
金田一秀穂さん 言語学者、杏林大学外国語学部教授。金田一京助氏、春彦氏に続く、日本語研究の第一人者。『日本語のへそ』(青春出版社)、『金田一秀穂の心地よい日本語』(KADOKAWA)など、著書多数。
チコちゃん 人気番組『チコちゃんに叱られる!』毎週金曜19:57~(NHK総合)でおなじみ、永遠の5歳の女の子。新感覚舞台『チコちゃんに叱られる! on STAGE ~そのとき歴史はチコっと動いた!~』が映画版となり、10月7日より全国ロードショー。©NHK
※『anan』2022年10月5日号より。写真・北尾 渉 取材、文・鈴木恵美
(by anan編集部)