木村昴、11年ぶりの『輪るピングドラム』で「監督に褒められた気がして泣きそうに」

2022.4.22
今から11年前にテレビ放送され人気を呼んだアニメ『輪(まわ)るピングドラム』が劇場版になって帰ってきた。高倉冠葉(かんば)を演じた木村昴さんにとって『輪るピングドラム』は声優としての転機となった作品だそう。
kimura

――『輪るピングドラム』の放送から10年が経ち、このたび劇場版が上映されます。この作品は木村さんにとってどんな作品ですか?

2005年に声優デビューして以来、初めてジャイアン以外を演じたのがこの『輪るピングドラム』の高倉冠葉だったんですよ。僕はひょんなことから声優になったので、スキルはゼロ。そんな状態で長い歴史を持つ『ドラえもん』という作品のジャイアンを演じることになり、最初の頃はとにかくジャイアンをやるためだけに頭を使ってたんですよね。そういう6年間を過ごしていたので、良く言えばジャイアンになりきってるし、悪く言えばジャイアンでしかない。そんな時、『輪るピングドラム』のオーディションで、幾原監督に「君ほどへたくそな人に会ったことがない」と言われまして。でも、いい声をしてると。「芝居は練習すればできるとして、お兄ちゃん役はできる?」と聞かれて「できます!」と即答したら、高倉冠葉役に決まって、それから、1話のアフレコまでの3か月間、毎日のように幾原監督が練習に付き合ってくれました。今でこそいろんなキャラクターを演じさせていただくようになりましたけど、そのルーツが『輪るピングドラム』であり、僕の原点ですね。

――11年前のご自身の声を聞いてみていかがでしたか?

若いなと思いました。年齢的なものだけじゃなくて、まだ何もできなかった頃の自分を振り返っている感覚なんですよ。いま聞くと粗いんだけどすごく一生懸命で、卒業アルバムを見ている気分になりましたね。今回の劇場版は、テレビアニメシリーズを知ってる人が観たらびっくりすると思いますよ。おいしいとこ取りのダイジェストにしちゃうとストーリーがつまらなくなるし、ストーリーを重視すると作品の魅力がなくなっちゃう、というところで考えに考えて今回のシナリオを作ったと監督もおっしゃってましたね。だから総集編というより新しく織り直されてリサイクルされた感じです。原料は全部もとのままなんだけど、監督が新しいものに生み直した作品になってます。そういう理由で新録パートもあったんですけど、監督からは「ダメだよ、そんな上手にやっちゃ!」ってダメ出しされました(笑)。「もっとへたくそだったでしょう、この時は」って。はたから見ると監督の要求に応えられてない力不足の声優なんですけど、僕にはずっと褒め言葉に聞こえてて。「うまくなったな」と言われてる気がして、泣きそうになりましたね。

与えられた役割だから、大事にしたいと思いました。

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――木村さんが声優になったきっかけは何ですか?

『ドラえもん』のオーディションがあるということで、当時子役の事務所にいたんですけど、社長にお願いしてそのオーディションを受けさせてもらったんです。子役として現場に行くといろんな芸能人に会うじゃないですか。当時はそれを友達に自慢してちやほやされるのが至福だったので、誰もが知ってる『ドラえもん』のオーディションを受けたぜ! って言いたいだけの、いわば記念受験のつもりだったんですよね。それが思いがけず合格してしまったので、そこから人生が激変しました。僕はそれまでアニメもほとんど見たことがなかったし、漫画も児童館に置いてあった『ドラえもん』を読んだことがあるくらい。声優さんで知ってたのは、僕も子役として出ていた『おはスタ』のやまちゃん(山寺宏一さん)だけでした。それに当時はミュージカルにハマっていて、自分はミュージカル俳優になるんだとばかり思っていたし、同時期にラップミュージックにもハマっていたので、ラッパーとミュージカル俳優を目指していたんです。でも、ジャイアン役をいただいたことで、それをいったん全部諦めないといけなくなったんですよね。しかも、しばらく辛抱すればいいというものでもないですし。今まで目指していたものを全部捨てて、これからはやらなきゃいけないことに人生を捧げないといけないというプレッシャーはすごく感じてましたね。

――今のように声優をやりながら夢を目指すということは当時は考えていなかったんですね。

ジャイアン役って、当時の僕からしたら二足のわらじでできるようなものではなかったんですよ。学業とジャイアンで精一杯、自分のすべてをジャイアンだと思って挑まないと無理だったんですよね。それに、作品に泥を塗るようなことがあってはいけないから、これから自分は同級生たちが経験するであろう甘酸っぱい青春を味わうこともないんだな、とも思いました(笑)。うまく隠し通せる器用な人ならできたのかもしれないけど、僕は少しでも自分の中に引け目があったらジャイアン役をピュアにできなくなると思ったし、本当に全身全霊でジャイアンになろうとしたんですよね。

――そこまで大きなプレッシャーがありながら、辞退しようと思ったことはなかったんですか?

そんな選択肢はなかったですね。これは僕が子役出身だからなのかもしれないですけど、自分から「できません」と言う選択肢は、僕にはまったくありませんでした。それに、あらためて考えたらこの道は同級生たちには絶対に味わえない、もしかしたら地球で自分だけしか味わえない青春だなって思ったら胸アツだし、じゃあがんばろうって思いました。だからやりたくもないことをやらされていたということでは全然なくて、いざ覚悟が決まってからは、『ドラえもん』という作品を後世にきれいに残すという役割を与えられたと思って、それを全うしようという使命感がありました。与えられた役割なのだから、大事にしなきゃという感じでした。

きむら・すばる 1990年6月29日生まれ、ドイツ出身。2005年、中学生当時にアニメ『ドラえもん』のジャイアン役に抜擢され、声優デビュー。『ヒプノシスマイク』では山田一郎役の他、好良瓶太郎名義で作詞も担当。天才劇団バカバッカ主宰、『おはスタ』(テレビ東京系)MCや大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)の以仁王役など、幅広く活躍中。

双子の高倉冠葉と晶馬、妹の陽毬はきょうだい3人暮らし。ある日、陽毬は病に倒れ…。妹を助けるため、兄弟は「ピングドラム」を手に入れようとする。テレビ放送から11年、幾原邦彦監督が手掛けたアニメが再編集され、新録パートを加えて映画化。劇場版『RE:cycle of the PENGUINDRUM[前編]君の列車は生存戦略』は4月29日より全国公開。

※『anan』2022年4月27日号より。写真・玉村敬太 スタイリスト・高山良昭 ヘア&メイク・原田琴実 インタビュー、文・尹 秀姫

(by anan編集部)