日中台の史実と家族サーガを踏まえ、骨太に描かれる、愛と自由と運命。東山彰良さんによる『怪物』をご紹介します。
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「近年、僕は、どうやれば過去に起こった実際の戦争や厄災など大きな出来事を現在の物語に入れ込み、現代とどう関係しているかを語る方法を模索しているところがあります。本書『怪物』では主たる語り手を台湾出身の作家にして僕自身のバックボーンを足がかりにしました」

柏山康平というペンネームを持つ〈わたし〉(本名・柏立仁)は、『怪物』という作品でにわかに注目される存在になる。作中作『怪物』は、柏山が〈二叔父さん〉と呼ぶ従兄の父・王康平から聞かされていた体験談をもとに書かれたという設定。王康平をモデルにした主人公・鹿康平は台湾(中華民国)の〈黒蝙蝠中隊〉にいた元乗組員で、敵襲を受けて大陸で捕まり、あらゆる手段を講じて台湾に帰り着く。その過程で、蘇大方という男とどんな確執が生まれたかが語られていく。その物語パートと並行して、現代を生きる柏山のパートが描かれる。柏山は、藤巻琴里という女性から、彼女の祖父と柏山の二叔父との不思議な縁を知らせる手紙を受け取るが、それは同時に、柏山を取り巻く現実が変容していくきっかけでもあった。

「僕は、臆面もなく愛とか自由とか孤独とかを書くのが好きなんです。常々思っていることですが、人間て自由に生きているように見えても何か目に見えないものに支配されて動かされているのではないか。そんなテーマを、現代と作中作の間で反復したかったんですよね」

物語の柱は、日本と台湾と中国の関係性を遠景とした男たちの物語だろう。しかし、本書でもっとも心惹かれるのは、柏山が溺れていく編集者の椎葉リサとの愛の行方や琴里との関係。そして、鹿が味わう、台湾の婚約者と新しく知り合ったシャオとの関係についての葛藤だ。

「そこで彼らを支配していたのは、あらゆる意味で、やはり愛と自由のせめぎ合いだった気がします。もし生きるか死ぬかの非常事態下にいたら、善なるものが命取りになるかもしれない。だから表に出てこないように、抑え込んでいなければいけないこともある。それでも、みんなの、それこそ悪党の胸の内にも、青い鳥みたいなものがいるのではないかと思ってしまうんですね」

そう語る東山さんの思いが結実した、胸が震えるラストが待っている。

『怪物』 作中作『怪物』の書き出し=〈鹿康平が怪物を撃った〉理由も大きな謎。物語パートと現代パートが浸食し合い、美しいカタルシスへとなだれ込む。新潮社 2860円

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ひがしやま・あきら 1968年、台湾生まれ。2015年、『流』で直木賞、’16年、『罪の終わり』で中央公論文芸賞、’17年出版の『僕が殺した人と僕を殺した人』では、織田作之助賞など3つの賞を受賞。

※『anan』2022年3月16日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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