ヨ・ジング「急に韓国エンタメが盛り上がったわけではなく…」

エンタメ
2021.05.30
子役時代から活躍し、幅広い役柄を演じながら実力派俳優へと成長したヨ・ジング。代表作を更新し続けている若きベテランがその俳優人生と最新作『怪物』を語る。

韓国エンタメ界の若き“怪物”。

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『イルジメ~一枝梅』『太陽を抱く月』の頃から、彼の成長を見守ってきたという韓国ドラマファンも多いのではないだろうか。8歳で俳優デビューして以来、数々の映画やドラマで主人公の少年時代を演じてきたヨ・ジングは確かな演技力を持つ若きベテラン俳優だ。

彼自身は‘13年の映画『ファイ悪魔に育てられた少年』を転機になった作品としてあげ、「演技に対しての欲が出た作品。それまで演技は楽しくて好きなことだったけれど、この映画をきっかけにもっと上手になりたいと思うようになったんです」と振り返る。演技に対する向上心から、大学も演劇映画学科に進学。悩みながら出演作を重ねていたという彼は、王の影武者になる道化師と冷酷な王を一人二役で演じたドラマ『王になった男』で手応えをつかんだ。

「このドラマを通じて得られた感情のために、ここ数年の苦労があったんだなと思える作品でした。自分なりの演技スタイルを作りたくて試行錯誤することも多かったのですが、監督や先輩たちが信じてくれて。こんなふうに演技をすればいいんだなという感覚を身につけて、以前のように演技に対する楽しみが湧いてきたんです」

「早く次の作品がやりたい!」と感じていたときに、オファーを受けたのがドラマ『ホテルデルーナ~月明かりの恋人~』。幽霊が宿泊するホテルで働く青年を演じたこのドラマは韓国でもヒットを記録した。けれども「『王になった男』と『ホテルデルーナ』の2作品だけでは、自分ならではのスタイルを見つけたという確信が持てなかった」と、謙虚な姿勢で語る。 

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ひたむきに演技と向き合ってきた彼が、次なる挑戦の場として選んだのがドラマ『怪物』だ。ジングは田舎町で連続殺人事件の謎を追うエリート警部補、ジュウォンを演じている。

「これまでもスリラーに出演した経験はあるので、またこのジャンルに挑戦できる期待感と、このキャラクターを演じてみたいという欲求が強かったですね。ジュウォンは冷徹というより、人と接するときに偏見を持っていて、社会的ではない人物。正義を探し求めているけれど、善良な人というわけでもありません。このような人物を演じるのは初めてなので、僕を抜擢してくれたことに感謝しています。複雑なキャラクターについて研究したいとも思ったし、スリラーとしてもストーリーと構成がしっかりしている作品ですね」

シン・ハギュン演じるどこか怪しい警察官、ドンシクとのバディものとしての面白さもある。

「ドンシクとジュウォンがパートナーとしてお互いを受け入れて事件を暴いていくところは、ほかのスリラーにもある流れだと思います。でもこのふたりが従来の作品と違うのは、最後まで相手を警戒して、気を許さないところ。韓国の視聴者の方たちも、そこが新鮮だと感じてくれたようです。劇中のキャラクターの役割分担もうまく行われているので、多くの方がほかの登場人物たちに対しても愛情を抱いてくれました」

物語が後半に進むにつれてジュウォンの目の下のクマが濃くなるなど、細部へのこだわりも。

「幼い頃からクマができやすいタイプですが、メイクでより強調したんです。今回は台本も最終話まで完成していたので、序盤から中盤、終盤へと進むにつれて、作品全体のイメージやジュウォンの役割について自分なりにプランを立てて撮影に臨みました。放送が始まってみると、いろいろと僕なりに試してみたものを多くの方が理解して、受け入れてくれたことがすごくうれしかったですね。これからもこういう姿勢で作品に臨みたいと思いましたし、リアルタイムで成長している実感が得られるような特別な経験でした」

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幅広い役柄を演じてきたものの、「俳優としては新しい役に対する渇望が常にある」と語る。

「地球上には多様な職業があって、生きている人たちと同じ数だけいろいろな性格があると思っています。やってみたい役はたくさんありますが、演技を通じてしか経験できないようなことができるユニークな役は、やっぱり魅力的ですよね。たとえばいつか、詐欺師のような悪役を演じてみたいなという気持ちがあります」

幼い頃から堅実に俳優の道を歩んでいる印象があるが、「ものすごく悩んでも解決できなかったりすると、あぁ、もういい! なるようになる! と思って流れに身を任せてしまう一面もあります(笑)」と素顔を明かしてくれた。新しい作品に入るまでの束の間の休日には、料理を作って過ごすことが多いのだという。

「最近はスペイン風のポテトオムレツを作ってみました。材料もシンプルで、簡単に作れる料理ですね(笑)。もともと外に出たくてうずうずするタイプではないし、ロケが多い作品の場合はしばらく戻ってこられないこともあるので、家にいるときはできるだけ休息を取ろうと思っています。僕にとって家は、最高にリラックスできる場所。一度入るとなかなか出られなくなりますね(笑)」

長いキャリアを誇る俳優らしく、韓国エンターテインメントの盛り上がりについても冷静に、けれども熱く語ってくれた。

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「韓国人は周りの視線を気にするので、人よりも新しいものを追い求めて先取りすることによって、自分を差別化したいと思う傾向が強い気がするんです。だから流行の移り変わりも早いですし、僕にもそういう面があると思います。そして韓国人は以前から、芸術に対する関心が高いんですね。急に韓国エンタメが盛り上がったわけではなく、これまで培ってきたものが、今の時代に光を放っているのだと思います。こういう環境を作ってくださった先輩と、絶えず関心を持ってくれる世界の方々に感謝する気持ちを忘れず、“この人が出る作品ならば観たい”という気持ちにさせる俳優を目指して、これからももっと頑張っていきたいです」

ヨ・ジング 1997年8月13日生まれ。韓国出身。2005年に映画『サッド・ムービー』で俳優デビュー。子役として活躍し、映画『ファイ 悪魔に育てられた少年』で数々の新人賞を受賞。おもなドラマ出演作に『絶対彼氏。』など。

※『anan』2021年6月2日号より。写真・Daun Kim(STUDIO DAUN) 取材、文・細谷美香 構成・菅野知子 コーディネーター・Shinhae Song(TANO International)

(by anan編集部)

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