皮肉&ユーモアも…女性同士の緩い繋がり描く 松田青子の掌編&短編集

エンタメ
2021.05.30
松田青子さんの新作『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』は掌編&短編が詰まった一冊。 「ばらばらの時期に書いたものですが、読み返してみたら、無意識のうちに同じテーマ性を持ってたんだなと思いました」
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そのテーマ性とは、裏表紙の帯にもある“わたしたちは、会ったことはなくとも、つながっている”。

「女性同士の関係が描かれるフィクションはドロドロしたものになるかアッパーの方向に行くものが多かった気がします。そうではなく、社会に存在しているだけでみんな緩く繋がっていること、その緩い繋がりのグラデーションを書きたかったんだなって気づきました」

確かに、過去に出会った女性の声が聞こえてくる「天使と電子」や、就職試験で同席した女性たちのその後を描く「クレペリン検査はクレペリン検査の夢を見る」、アルバイト先にいた女性を思い出す「桑原さんの赤色」、世代の異なる女性が交流する「向かい合わせの二つの部屋」などは、女性たちの繋がりを感じさせる。

「特に親しくしていなくても“こういう人がいたな”と記憶に残ることはあるし、その時は繋がれなくても、その後に違う形で繋がり直すことはあると思うんです」

ユーモア炸裂の話も。「ゼリーのエース(feat.「細雪」&「台所太平記」)」は液体がゼリー状に固まって女の子になる話。『細雪』『台所太平記』はどちらも谷崎潤一郎作品だ。

「谷崎のこの2作品は、どちらも女性たちが結婚できるかどうかが大問題なんです。よく出てくる“身を固める”も、考えてみれば変な言葉だなって。それで、身を固めるといえばゼリーだろう、と(笑)」

また、「物語」は自分の言動が第三者の勝手な解釈で物語化される嫌悪を皮肉と笑いたっぷりに描く。

「2014年に書いた短編ですが、読み直して今も状況があまり変わらないことがショックでした。ストレートに描くと説教くさくなるので、できる限りふざけてみました」

「この世で一番退屈な赤」は生理について大っぴらに語れない空気への違和感から生まれ、「許さない日」は学校でブルマーを強制されたことへの怒りをぶつけた掌編で、共感する人は多いはず。タイトルを先に思いついた「斧語り」は文字通り斧が語り手で、愛おしくなる一作。表題作も、先にタイトルがあった。

「小さい時から男性優位社会の中で生きてきて、自分も男性の目線で物事を見てしまうことがある。本来の目線を取り戻す過程を書きました」

書き下ろしの「誰のものでもない帽子」は、コロナ禍で幼い娘と二人でホテルに逃げてきた母親の話だ。

「コロナ禍で、女性の育児やDVの問題が増えたことが気になっていて。そばに助けてくれる人がいなくても、SNSの見知らぬ人や、誰かが忘れていった帽子が助けてくれることはある。今はなかなか物理的に人と会えませんが、社会に存在している時点で誰かと繋がっているんだ、と伝われば嬉しいです」

世代も時間も、空間も越えた繋がりを感じさせる本作。越えるといえば、松田さんの『おばちゃんたちのいるところ』は今、国境を越えて海外で評判になっている。

「日本の古典のリメイクなのに書評や感想を読むと“共感する”という言葉が多いんです。海外のイベントで作品を朗読した時も、“私たちの国も同じだよ”と言われて。そこにも繋がりを感じています」

『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』 過去に出会った女性の声が聞こえる「天使と電子」をはじめ、女性たちの緩い繋がりが描かれる作品集。現代社会に潜む違和感を、ユニークな発想で物語世界に落とし込み、共感&痛快感たっぷり。中央公論新社 1650円

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まつだ・あおこ 2013年、デビュー作品集『スタッキング可能』が話題に。’21年に『おばちゃんたちのいるところ』が米国のレイ・ブラッドベリ賞の最終候補になるなど海外でも注目。翻訳、エッセイでも活躍。

※『anan』2021年6月2日号より。写真・土佐麻理子(松田さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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