怖いけれど超かわいい…? 被害者40人超えの人魚姫

2021.2.11
オネエ系映画ライター・よしひろまさみちさんの映画評。今回は『マーメイド・イン・パリ』です。

怖い人魚物語だけど超かわいいのよ~。

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みなさん、人魚っていうとどういうイメージを持ってるかしら。きっとディズニープリンセスのアリエル姫か、そのベースになったアンデルセン童話の『人魚姫』か、はたまたその童話をベースにした、“世界三大ガッカリ名所”のひとつ、デンマークの人魚姫像あたりが代表的なイメージよね。ノンノン、古くから伝わる人魚って違うのよ。けっこう怖い魔物として伝わる架空の生物で、世界各国に伝説が残ってるの。とくに西欧の伝説では、人魚が美しい歌声で船人たちを惑わせて殺しちゃうとか、人魚が現れると嵐が起きるとか。不吉な話ばっかりなのね。今回紹介する『マーメイド・イン・パリ』で出てくる人魚は、不吉バージョンの人魚と、おとぎ話に出てくる美しくてかわいい人魚をミックスした感じなの。

記録的な長雨で冠水しているパリ。老舗バーで、ウクレレの弾き語りをしているガスパールは、ある夜、傷ついた人魚を見つけて(この時点でありえないんだけど)、彼女を病院に連れていくのね。すると、病院は急患で行列状態。ガスパールが受付でもめている間に、たまたま人魚の近くに居合わせた医師が診察を始めると、彼女は目を覚まして歌を歌い始めるのよ。きたきた、呪いの歌声~! 彼女の歌声を聞いた男性は、催眠状態になって歌声に魅了されちゃうのね。それと同時に、その歌声は男性の命を奪うっていうヤバいやつ。で、医師はほどなくしてオダブツ。ガスパールはそんなことも知らずに「待つくらいなら家に連れて帰るわい!」と、自宅に人魚お連れ込み。彼女を浴槽に入れて、なんとか対処しようとするも、彼女はまた歌いだすのよ。ところがガスパールには歌の効果なし!?

何度歌ってもダメで、人魚根負け、ガスパールきょとん。ガスパール、じつは失恋の痛手から立ち直れてなくて、誰も愛せなくなってるの。だから、他の男性のように人魚の美貌と美声にヤラれることもなく、一緒に暮らせちゃう!

とにかくかわいいお話! 人魚がかわいいのはもちろん、献身的に人魚をケアするガスパールもかわいいし、出てくるインテリアもいちいちかわいいのよ。たとえば、ガスパールが人魚のひまつぶしに、と小型テレビでビデオを見せようとするんだけど、そのテレビ、いったいどこで見つけたの!? ってくらいのレトロなテレビで(しかもビデオは懐かしのVHS)。そのうえ、見せるビデオがこれまたキュートで、人形アニメ風の悲恋モノ。これに感動しちゃう人魚にもキュンとするのよね。映画の冒頭で出てくるアニメーションからしてかわいいもんだから、人を殺める人魚が主人公なのに、グロさゼロ(ちなみに、歌声を聞いた男性陣の死因は「心臓破裂」で、被害者総数は40人以上と、人魚が自白します)。

それと、もう一つ映画好きの方に向けてのかわいいポイントが。回想シーンや妄想シーンが盛りだくさんなんだけど、それらがなんとミュージカル。とくに、ガスパールが勤めるバーの歴史を語る回想シーンでは、ド派手な衣装の群舞とともに、パリのアングラな歴史がサラッと語られてためになるのよ~。ミュージカルがお好きならこのシーンだけでも観る価値があると思うわよ。ファンタジーに没入したい人、ぜひぜひ!

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『マーメイド・イン・パリ』 監督・原作/マチアス・マルジウ 出演/ニコラ・デュヴォシェル、マリリン・リマ、ロッシ・デ・パルマ、ロマーヌ・ボーランジェほか 2月11日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。©2020-Overdrive Productions-Entre Chien et Loup-Sisters and Brother Mitevski Production-EuropaCorp-Proximus

※『anan』2021年2月17日号より。文・よしひろまさみち(オネエ系映画ライター)

(by anan編集部)