パスピエ「日常に寄り添ったアルバムになった」 コロナ禍で6thアルバム

2020.12.13
2019年に結成10周年を迎え、ひとつの節目を越えたパスピエが、このたび6thアルバム『synonym』を完成させた。「今まで以上に、自分たちの殻を壊せたアルバムだと思います」(露崎)という言葉が頷ける、刺激的なトライアルが光る全11曲。そこには今年のコロナ禍の影響も落とし込まれている。

2020年だから生まれた美しきポップ・アルバム。

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「いつもは制作中でも、ライブとか、外向きになれる時間があるんですけど、今回は状況的に内向き。それが良いほうに作用した気もします。あとは、どういう人が聴いてくれるかを考えるようになった。僕自身も、音楽を料理中に聴くようになったりしたので、日常に寄り添ったアルバムになった気がします」(三澤)

「僕らバンドマンは、必然的にツアーをイメージしながら楽曲を作るんですけど、今回は頭でも楽しめる音楽というところは考えましたね。そして、ひとりに向けて発信するという気持ちも強くなりました」(成田)

卓越した音楽理論やテクニックが土台にありながら、入り口は開け放たれている―今作からは、そんな印象を受ける。そこには、成田ハネダのインスピレーションの源が、多方面にわたっているところも、大きく関わっていそうだ。

「1曲目の『まだら』は、石川淳の小説『荒魂』を読んで作ったんです。あと、CMで流れていた音楽が気になった時に、『Shazam』というアプリはよく使います(笑)。テレビやラジオがめちゃくちゃ好きなんですよ」(成田)

多彩な楽曲の中でも、バランスの妙で耳を惹くのは「Anemone」。音色、歌声、テンポ……様々な要素がひとつでも違ったら、ガラリと印象が変わりそうな、彼らならではの化学変化と精巧さを感じる。

「現代っぽさや自分たちらしさも感じつつ、でも、今までにない聞こえ方だなって。ミックスの後の化け方で、こうなったか! っていう嬉しさが一番ありました」(露崎)

「私の声って、深刻なことやドロッとしたことを歌っても、そっちに行きすぎない。この曲は、歌詞、メロディのバランスが、すごくよかったと思います」(大胡田)

歌詞、構成ともに回文になっている6曲目の「oto」を中心に、対称に広がる曲順も彼ららしい試み。

「最近はサブスクが主流で単曲で聴かれる方が多いと思いつつも、(聴くのを)一周で終わらせたくはないと考えていて。映画は、2時間半でも観る人はいて、しかも何回も観たくなるものもある。そういう気持ちは、今作でも感じてもらいたいですね」(成田)

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初回限定盤には今年2月に行った結成10周年特別公演Blu-ray付き。アルバム『synonym』【初回限定盤(CD+Blu-ray)】¥5,000 【通常盤(CD)】¥2,545(NEHAN RECORDS/UNIVERSAL MUSIC ARTISTS)

左から、露崎義邦(Ba)、成田ハネダ(Key)、大胡田なつき(Vo)、三澤勝洸(G)。2009年に結成。理論や技巧を武器とし、アートワークにもこだわりを見せる。12月25日にはLINE CUBE SHIBUYAにて「one man live“synonium”」を開催。

※『anan』2020年12月16日号より。写真・土佐麻理子 取材、文・高橋美穂

(by anan編集部)