アンアンからニュースを配信します!

“ヤバい場所”のグルメリポート! テレ東ディレクターがカルト教団村で…

2020.5.24
人気番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』が書籍化。番組のディレクターで、同書の著者である上出遼平さんに話を聞きました。

短時間で相手の本質に迫るには、“メシ、見せて”しかなかった。

‘17年、テレビ東京の深夜に特番として放送されたこの番組。世界の“ヤバい場所”で生きる人たちの食事を見せてもらう番組なのだが、いわゆる“グルメレポート”とはまったく異なる深くシビアな内容が、一部のドキュメンタリー好きの間で大評判に。その後その人気は拡大し、これまでに特番が合計8回放送され、ネットフリックスなどで世界にも配信されるヒットコンテンツになった。

「まさかこんなにたくさんの人に見てもらえるとは思わなかったし、さらに本を書かせてもらえるなんて、1ミリも想像していなかったです」

と語るのは、番組のディレクターで、番組と同名の書籍の著者である上出遼平さん。学生時代から一人での山登りや海外旅行が好きで、“そこで得た経験と磨いたスキルを活かして作れる番組はこれしかない”と、番組の企画書を書いたそう。

「過去の経験を通して僕は、人は何かについて“知らない”から、その何かを恐れたり、差別をしたり傷つけるということを、実感を持って学びました。つまり、“知る”ということは本当に大事なことなんです。それを、テレビを通じてできないか、と思ったのが出発点。僕が思う本来のテレビとは、人がなかなか行けない、触れることができない世界を、画面を通じて知らせることができる、窓のようなもの。しかもテレビには、“面白く見せる”というエンタメの技術もある。それを組み合わせて作ったのが、この番組です」

一般的にグルメレポート番組といえば、タレントが素敵な土地でおいしいグルメを紹介…というもの。が、この番組が訪れる場所はまったく違う。これまでのロケ地は、過去の内戦とエボラ出血熱の蔓延で混沌とするリベリア、ロシアのカルト教団の村、フィリピンのゴミの埋め立て地など…。さらに取材スタイルも、ディレクター自らがカメラを持ち“ヤバい場所”に分け入り、その場で取材相手を見つけ「今日のメシ、見せて?」と交渉し、レポートする。ディレクターの目で切り取られる世界は生々しい。しかしなぜか、少しユニークさも感じてしまうのも事実。

「“ドキュメンタリーです!”と作ってしまうと、堅苦しい印象を与えてしまい、見てもらえる可能性が減るかな、と思ったのがまずひとつ。押し付けがましいものは、みんな見たくないですよね。加えて僕は、本来はお笑い番組に憧れがありまして、テレビ番組というエンターテインメントを作っている以上、この番組もバラエティの枠内に置きたかったんです。見てくれは露悪的で下品だけど、中身はピュアで正直な作り、というのが理想でした。番組では“ヤバい”という言葉をよく使うのですが、真面目さとエンタメ的な面白さの両方の雰囲気を表現するのに、その言葉がピッタリだったんです」

ロケ地に加え、登場人物も強烈だ。例えばリベリアでは内戦で人を殺した元少年兵、ケニアではゴミ山に住みゴミを拾って暮らす若者…。正直、平和で満ち足りた日本に住む私たちには、彼らの人生は想像がつかない。でも上出さんのカメラを通して見ると、いつの間にか彼らに共感し、惹かれてしまう。それは“メシ”がテーマだからなのでは、と上出さん。

「予算的にも人員的にも長期間の取材が許されない僕らが、どうすれば、相手の本質に迫り、本当の表情を引き出し、僕ら取材者と心を通い合わせることができるかを考えたときに、“メシ”しかなかったんです。食事は世界共通の、誰もが毎日行うであろう行為であり、何かを体に取り入れる瞬間は、物理的にも精神的にも鎧を脱がざるを得ないというか、非常に無防備。だからこそ思わぬ本音が出てしまう。僕らが“メシを見せてよ”と言うのは、警戒を解くための突破口でもあり、言われたほうは、“俺の食い物に興味あるのか?!”って、ちょっと心を開いてくれる。“ひとくちどう?”って言ってもらえるのは、“許されたんだな”というこのうえない喜びの瞬間です」

3月に発売されたこの本は、過去に放送された4か所の旅を、さらにディープに文字で綴ったもの。映像では描ききれなかった場面に加え、上出さんが感じた衝撃、喜び、そして切なさがあふれる528ページ。

「書くという作業は再び旅をするようなもので、いろんなことが蘇り、楽しく、同時に苦しくもありました。書籍を通じて、僕の旅を“体験”するような没入感を味わってくれたら嬉しいです。この番組は時間がかかるので、新作はまだ先になります。なのでとりあえずは過去作を配信で見ていただけると(笑)」

25

ケニアのゴミ集積所に暮らすジョセフ(『ウルトラハイパーハードボイルド~』1より)。

28

リベリアの元少女兵のラフテー(『ハイパーハードボイルド~』1より)。

29

ロシアのカルト教団村(『ハイパーハードボイルド~』3より)。

26

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』上出遼平 上で紹介した3か所に加え、台湾でマフィアと食事をした旅を綴った一冊。いずれも衝撃的だが、特にケニアのジョセフとの交流には、心を掴まれる。朝日新聞出版 1800円

27

かみで・りょうへい 1989年生まれ、東京都出身。テレビディレクター、プロデューサー。2011年テレビ東京に入社。いくつかの番組のADを経て、‘17年より『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズの企画、演出、撮影、編集を担当。実は人生で初めて通った企画書が、この番組だったそう。

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』 放送は不定期。動画配信サービスParaviでは、最新作『フィリピン「炭焼き村」』を含むシリーズ6作とスペシャル版2作、スピンオフ数作を配信中。また現在Netflix、Amazonプライム・ビデオでも一部を配信。©テレビ東京

※『anan』2020年5月27日号より。撮影(上出さん)・沼田学

(by anan編集部)