色気の定義は時代とともに変わるもの。あからさまなボディタッチなど、直接的な行為がアピールにつながることもあれば、それとは反対に、女性らしい慎ましさから滲み出る色気というのもある。
「たとえば歌舞伎などの古典芸能の世界では、遊女の最高位を松の位の太夫と言いますが、このレベルの女性は殿方をもてなし、楽しませるものの、自らに指一本触れさせることはありません。あらゆる芸事をマスターし、高い品格を身につけることで自分自身を磨いていくのです」(藤間さん)
そして、今の時代に本当に必要とされるのも、まさにこうした“中身の伴った色気”だという。
「何より大切なのは、品があって礼儀正しいことです。その第一歩として、自分の所作から見直してみるといいでしょう。礼儀とは自分をアピールするためではなく、相手を心地よくするための作法。一つ一つの所作を丁寧に行うことを心がければ、艶やかな色気を身につけることができるはずです」
挨拶をするときは、一回止まる。
忙しい毎日を過ごしていると、つい疎かになってしまいがちなのが“挨拶”。
「挨拶は、一つ一つのご縁を大切にするためにも、特に心を込めて行いたい所作の一つ。時間に追われていたとしても、必ず一度立ち止まり、相手の目を見て『おはようございます』『お疲れさまです』『こんにちは』と言いましょう。立場の上下に関係なく、自分から積極的に挨拶することも大事。また会いたいと思われることこそ、色気がある証拠です」
方向を指し示すときは、円を描くようにする。
女性らしい上品さを表現するうえで、重要なのが手元の動き。
「たとえば、『こちらへどうぞ』と相手を案内したり、『お召し上がりください』と言って目の前のものを指し示したりするときは、円を描くように手を動かします。直線的な動きよりも、このほうが相手にとって柔らかい印象になるからです。歌舞伎の女形の動きを参考にしてもいいでしょう。奥ゆかしく品の良い所作は、女性に艶を与えてくれます」
大切なものは、胸の高さで持つ。
“物を持つ”という単純な所作でも、他人を大事にできる人かどうかが相手に伝わる。
「自分が大切にしているものは何でも“胸の高さで持つ”ことが肝心です。これは、赤ちゃんを抱っこするときに、胸の中でしっかり抱くのと同じこと。落としてはいけない、大切なものだからこそ、扱い方も慎重になるのです。逆に胸から離れて持つほど、大切さが伝わりづらく、ぞんざいな印象に。物の扱い方には特に気をつけましょう」
肩幅の間で、手を動かす。
所作における、もう一つの重要なポイントは“肩幅の範囲内で動く”ということ。
「たとえば物を渡すとき、相手がやや離れた場所にいるからといって、腕をうんと伸ばして手渡すのは横着ですし、品のいい動きではありません。必ずそばまで近寄り、体を相手側に向けて、自分の肩幅から腕が出ないように手渡すのが理想的。“相手を大切に思っている”というこちらの意思が伝わり、自分自身も大切に扱われるようになるでしょう」
物を拾うときは一度しゃがむ。
落としたものを拾うとき、しゃがむのが面倒だからといって、立ったまま拾うようでは、洗練されているとはいえない。
「立ったまま拾おうとすると、お尻が突き出るので見た目も美しくありません。必ず落ちているものの真横まで行き、膝を曲げて腰を下ろすこと。このとき、背中は曲げずにまっすぐ伸ばすのがポイントです。スカートをはいているときは特に注意が必要。自分が和服を着ていると想像するのもいいでしょう」
物を渡すときは、ちょっと止めてから離す。
「相手に物を手渡すときは、必ず両手を添え、『どうぞ』と差し出します。このとき、手の動きを一瞬止めてから離すと、より心のこもった印象になります。相手の目をしっかり見つめることも大切です。歩きながら雑に渡したり、よそ見をしながら渡すのは、マナー的にも色気の観点から見ても良くありません」
たとえば来客にお茶を出す際や、上司に書類を提出する際に、丁寧な動きを意識するだけで、“違い”が際立ち目を引くように。
おへそを相手に向けて対峙する。
「自分の体の向きには、相手への敬意が込められています。挨拶をするとき、物を渡すときなど、人に対して何かアクションを起こすときは、自分のおへそを必ず相手に向けることが大切。ちなみに、相手と向かい合って座るときも同様です。膝は90度に曲げ、脛は斜めにします。そしてつま先は相手に向けないよう内側に入れるのがポイント。骨盤が前傾気味になるよう、やや前かがみで座るのが美しいとされています」
指先は、きちんと揃える。
普段から人目に触れることが多い指先は、女性らしさがもっとも表れる部位の一つ。
「普段から指先をきちんとケアすることも大切ですが、たとえば人の話を聞くときに指先をきれいに揃えることを意識するだけでも、見え方は変わるものです。また、歌舞伎の世界では、手が小さく見えるほど上品で女性らしいという考え方もあります。揃えた指先は全体を軽く折り曲げ、親指を畳むように内側に入れると、より艶っぽく見えるでしょう」
藤間希穂さん 日本舞踊藤間流師範。舞踊家。3歳より人間国宝・藤間藤子師に師事。現在は自身の稽古場で日本舞踊の教室を開くほか、大学や劇団などで日本舞踊や所作礼儀作法の講師も務める。
※『anan』2019年10月23日号より。イラスト・原田桃子 取材、文・瀬尾麻美
(by anan編集部)
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