シェリルは、護身術エクササイズのDVDを販売するNPOの古参職員。43歳のイケてない独身女性だが、自分流の暮らし方ルール〈システム〉に則った日々はそれなりに快適らしい。だが、その自己完結した世界に、突如終わりがやって来る。上司夫妻の娘で20歳のクリーが、シェリルの家に転がり込んできたのだ。
「シェリルは、ストレスがたまると喉に〈ヒステリー球〉ができるような凝り固まった人で、クリーは衛生観念ゼロで傍若無人な、絵に描いたようなビッチ。水と油のふたりは、最初は女性版『ファイト・クラブ』よろしく激しくぶつかり合います。しかし、フィジカルの権化ともいうべきクリーと同居するうちに、肉体や感情が自己と切り離されていたようなシェリルはそうした“生”の実感を取り戻す。それにつれて、ふたりの関係性もどんどん変わっていくんです」
一見、クリーの強烈さに面食らうが、シェリルも妄想癖において負けてはいない。20以上年上のフィリップへの恋慕、運命の赤ん坊クベルコ ・ボンディとのテレパシーの会話、やがてクリーに対しても妄想の暴走が始まって…。
「妄想って誰でもすると思うんですが、常軌を逸しすぎて人に言えないようなシェリルの妄想の数々にはとりわけ親近感を持ちました(笑)」
シェリルの脳内世界の部分は、訳していてとても楽しかったそう。
「赤の他人同士がつながる、というのは昔からミランダのアートの大きなテーマなんです。小説にせよ、映画にせよ、パフォーマンスにせよ、彼女の作品はつねに『人って、つながるって、生きるって、なんだろう』というところに向かっている気がするんですね。本書でも出会うはずのなかった人たちが出会い、何かが起きる。その先に、残ったものや残らなかったもの、変わったものや変わらなかったものが生まれて、それらを含めて人生は続いていく。そう語りかけられている気がするし、だからこそ最後に大きな感動を呼ぶのだと思います」
『最初の悪い男』 庭仕事が得意なリック、クリーの風変わりな両親カールとスーザン…。シェリルやクリーを取り巻く人々も、それぞれかなりクセが強い! 新潮社 2200円
きしもと・さちこ 翻訳家。ミランダ・ジュライ、リディア・デイヴィスらの作品の邦訳を手がける。エッセイストとしても評価が高く、2007年、『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞を受賞。
※『anan』2018年11月7日号より。写真・土佐麻理子(岸本さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)
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