攻撃力を高めるより外交、経済政策でリスク回避を。
日本の防衛における今年の大きなトピックは、河野防衛大臣が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の秋田・山口への配備を撤回したことでしょう。撤回の理由は、想定されていた安全が確保できないこと。改修に費用がかかりすぎることなどでした。イージス・アショアは、飛んできたミサイルを撃ち落とすシステムです。いま計画を撤廃することで、防衛のためには敵基地に攻撃する能力のあるミサイルシステムが必要なんじゃないかと、話は思わぬほうに進んでいます。そうなると新しい兵器を買わなくてはいけませんし、攻撃能力を持てば、当然攻撃されるリスクも高まります。こうして、際限なく防衛力の拡張にひきずりこまれてしまうことを「安全保障のジレンマ」といいます。
2020年度の防衛予算は5兆3130億円と過去最大になりました。2010年くらいまでは5兆円程度でしたが、近年一気に跳ね上がっています。理由の一つは、アメリカが防衛費を見直したこと。自国の経済も疲弊しているアメリカは、日本や韓国から軍を撤退し、自分の身は自分で守ってくれという姿勢でいます。これを受け、これまで空母を持たなかった日本も、空母の機能を持たせるために護衛艦いずもを改修したり、母艦に離発着できるオスプレイを配備したり、宇宙やサイバー関連にも防衛費を投入しました。
ただ、安全保障は、軍事力増強だけが方法ではありません。外交政策も大きな歯止めになります。経済的な結びつきを強め、相手国を攻撃すれば自分たちも不利益を被る、という関係を作っておくことはとても有効です。EUが誕生したのも同じ理由です。2つの世界大戦の反省を受け、経済的関係を強めることでEU圏内は戦争を回避してきました。日本も、TPPやRCEPなど、アジア太平洋地域で大きな貿易圏を作り、互いを攻撃しにくくする方法を構築しようとしています。いま新型コロナで、人もモノも行き来しづらくなり、自国第一主義に走りがちです。しかし、各国の連携が薄れれば、リスクも高まります。このなかでどういう防衛協調策があるのか、今後もウォッチしていきたいと思います。
ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開中。
※『anan』2020年9月30日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)