社会のじかん

「緊急事態条項」に焦点 日本がロックダウンできないワケ

ライフスタイル
2020.06.16
意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「緊急事態条項」です。

迅速な判断を求め自分の権利を放棄しないで。

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5月3日の憲法記念日に安倍総理は、支持層の主催する憲法フォーラムにあてた動画メッセージで、改憲への意欲を示すとともに、「緊急事態条項」の必要性を強く訴えました。憲法改正は、自民党が結成当時から掲げている党是です。改憲したい主な理由について、これまでは憲法9条の自衛隊の明記や、環境保全条項の追加などを主張してきましたが、4月から繰り返し焦点を当てているのが緊急事態条項の創設です。

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、政府は4月に緊急事態宣言を発出。国民に外出の自粛や休業の要請をしました。しかし、あくまでも要請レベルで、日本は海外のようなロックダウンはできません。憲法に緊急事態条項を加えることで、大災害や武力攻撃など国家の秩序が脅かされる状況に陥ったとき、政府などの一部機関に大きな権限を与え、個人の権限を抑制できるようにしたいという考えです。これに対し憲法学者や野党などは、「緊急事態宣言」と「緊急事態条項」は別もので、いま改憲を主張するのは火事場泥棒だと非難しました。

民主主義は多くの人が意見を交わし、ひとつひとつを審議・検証するシステムですから、どうしてもことの決定には時間がかかります。その点、指導者に強い権限を預ければ、物事は迅速に進むでしょう。しかし、その指導者がもしも間違った選択をしてしまったらどうなるか? ナチスドイツや太平洋戦争下の日本政府の悲しい歴史を思い出してみてください。

内閣が力を持ち、内閣主導で議会をコントロールできるようになれば、いくら支持する議員を選挙で選んでも、私たちの声は届かなくなる可能性があります。ですから、ここは慎重にならなければなりません。緊急事態条項を加えるならば、たとえば国民が不適切と判断した総理大臣はリコールできる仕組みを作っておくなど、暴走した場合に歯止めをきかせることができる対策を、あらかじめ用意しておくことが大事なのではないでしょうか。憲法は、私たちが国家をしばるためにあります。「よくわからないから、誰か決めて」と、自分から権利を差し出すようなことは、どうかしないでください。

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堀 潤 ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。3月に監督2作目となる映画『わたしは分断を許さない』が公開された。

※『anan』2020年6月17日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

(by anan編集部)

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