抑止力のために、実践的な核兵器を持つことに。
今年2月にアメリカは、「核態勢の見直し」(NPR)を公表しました。これは1994年から行われているもので今回で4回目。オバマ前大統領は「核なき世界」を訴えており、前回の2010年のNPRでは核兵器の役割を低減させると発表しました。これに対し、トランプ大統領は今回、ピンポイントで狙える小規模な使いやすい核、「戦術核」を持つと公表したのです。
これまでアメリカが持っていた核兵器は「戦略核」といい、全土を焦土にしてしまうような、広範囲に効力を示すものでした。それを使用した後の被害規模を思えば、実際問題、容易には使えません。「使うことを前提に持っていなければ、抑止力にはならない」というのがトランプ大統領の主張です。
この背景には、ロシアや中国が軍事力を増し、戦術核を開発してきたことや、北朝鮮の脅威の拡大などもあります。アメリカは核兵器のオプションを増やし、サイバー攻撃や核以外の攻にも対抗して使えるようにしたいと考えたんですね。
アメリカは、冷戦期に比べて、核保有量を85%以上削減してきました。技術の進歩により、小さくても性能のいいものができ、必ずしも大きな核兵器を保有しなくてもよくなったからです。世界で核軍縮が進んだように言われていますが、核の脅威そのものがなくなったわけではないんですね。
今回のNPRの公表も、オバマ政権時代から進めていた核戦略近代化計画に即したもの。トランプ氏がいきなり方針転換をしたように見えますが、表向きは核廃絶を訴えながら、裏で核開発を進めてきたアメリカの、表の顔をなくしただけ、ともいえます。
核を持たない国は核廃絶を訴えます。しかし、核保有国は、積極的に核の不使用を宣言しません。世界から核兵器をなくした場合、どうけん制し合い、世界の均衡を保てばよいのか、ほかの抑止力が見つからないからです。
日本政府は今年のNPRを高く評価すると発表しました。けれども、どのような核も非人道的なものに変わりはありません。武力以外の抑止の方法を、真剣に考えなければいけない時期に来ているのではないでしょうか。
堀 潤 ジャーナリスト。NHKでアナウンサーとして活躍。2012年に市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、その後フリーに。ツイッターは@8bit_HORIJUN
※『anan』2018年4月18日号より。写真・中島慶子 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)
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