春のある日、奥渋谷のビルの2階にぼんやりと浮かぶカラフルなホイアンランタンを見た。幻みたいだった。導かれるように階段を上がると『ピポンペン』と書いてあって何が何だかわからないが、扉の向こうにアジア惣菜天国が待っていた。
ベトナムの大衆食堂“コムビンザン”を彷彿とさせるショーケースにずらりと並ぶのは、台湾風焼きそばに玉葱焼売に麻婆豆腐にベトナムソーセージ。お弁当に入っていたら我こそが主役! なスターおかずの勢ぞろい(しかもそのいくつかは、植松良枝さんや小堀紀代美さんら名料理研究家さんたちによるレシピなのだ!)に舞い上がって興奮しながら、あれこれ選んでごはんの上にどっさりのせてもらう。炭水化物on炭水化物、米の上に焼きそばなんて夢のよう。
一見わんぱくなボリューム感だが、するする食べられてしまうのは辣白菜(ラーパーツァイ)に潜む花椒や、蓮根なますのカルダモンが爽やかに香るから。食べ進めて味が混ざるたびに、アジアのスパイスやハーブが織り重なり、おいしさが深まっていく。油分や味付けの加減も絶妙で、冷めてもしっかりおいしいのに胃に重たくないのがありがたい。つまりテイクアウトも無敵。デザートにほわんほわんの自家製台湾カステラまで買い込んで(お気に入りはバナナ味)、そのまま代々木公園でピクニックなんてのも最高だ。
写真左・選べるメイン3品+おまかせお惣菜4品¥1,350、右・台湾カステラ1カット¥200~。夜は惣菜の単品オーダーが可能。小皿つまみとベトナムビールな楽しみ方も。手がけるのは、ベトナム料理の『ヨヨナム』、カフェビストロ『mimet』など、代々木公園エリアを中心に魅力的なお店を運営する「puhura」。
ピポンペン 東京都渋谷区神山町40-1 鈴井ビル2F TEL:03・6407・8345 11:30~21:00(4月22日以降は要確認) 不定休
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
※『anan』2021年4月21日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)