
様々な立場からエンタメ業界に精通する名の識者が、話題のトピックスや最旬のトレンドをレクチャー。キーワードごとに、その背景にある要因を深掘りし、それを象徴するような最新コンテンツをレコメンド。
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お話を伺った方々
Profile
今祥枝
映画・海外ドラマ評論家。ライター、編集者。米ゴールデングローブ賞の国際投票者を務める。映画・海外ドラマの取材多数。独自の視点からの評論・コラムなどを雑誌やWebで発信中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP)。
西森路代
ライター。国内ドラマや映画に加え、韓国映画に関する執筆も多数。アジアエンタメのルーツは香港。著書に『あらがうドラマ「わたし」とつながる物語』(303BOOKS)、『韓国ノワールその激情と成熟』(Pヴァイン)など。
牛窪恵
世代・トレンド評論家、立教大学大学院客員教授。大手出版社に勤務した後、マーケティング会社インフィニティを設立。近著に『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう(』集英社)など、著作多数。
徳力基彦
noteプロデューサー/ブロガー。ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。『自分の名前で仕事がひろがる「普通」の人のためのSNSの教科書』(朝日新聞出版)など著作多数。
TOPIC1|配信作品を、あえて劇場で。映画館は「体験を分かち合う場所」へ
“身体性”を通じてコアな繋がりを体感
2025年の映画年間興行収入が歴代最高を記録するほど、映画館に新しい潮流が生まれている。「従来の映画館は、まだ世に出ていない最新の作品を観賞しに行く場でしたが、今はすでに放送・配信済みの作品の劇場版や、リバイバル上映、応援上映などが増え、ファン同士が感情を分かち合う場として、“体験価値”が変わってきています」(徳力基彦さん)
その象徴ともいえるのが、2作続けて興行収入400億円を超えた『鬼滅の刃』。本作は、テレビアニメですでに放送されているストーリーの途中を映画化した作品にもかかわらず異例の大ヒットに。
「臨場感溢れる音響空間の中で、作品を愛するファンたちが、好きなコンテンツを一緒に浴びることに価値を見出す人が続出! 生のライブで味わうような“身体性”を感じられる場としての体験価値が高まり、映画館でしか得られない楽しみ方が広まっています」
Netflixで配信開始からわずか1か月で劇場公開!
PICK UP!

『超かぐや姫!』
“歌”で繋がる少女たちの絆の物語を描いたアニメ作品。「配信開始前に、YouTube公式にボカロ楽曲の歌ってみた動画がアップされ話題に。1週間限定で劇場公開されたが、大反響を受けて、上映期間延長や上映館が拡大中」
TOPIC2|公式の宣伝だけでなく、ファンの「熱量」と「衝動」がヒットを創る
ファンダムの活性化が、推しの躍進を支える!
いまや推し活人口は約2600万人といわれ、熱量の高いファンコミュニティ(ファンダム)が、ビジネスモデルそのものの基盤になりつつある。企業や事務所からの発信が主流だった時代から、ファンとの共創が重要視される時代にシフトチェンジしている。
「長らく日本のエンタメ業界は、著作権の観点からファン側の発信を制限してきました。しかし、SNSや口コミなどファンからの投稿が世界中に拡散され、K-POPの快進撃に繋がったことがきっかけとなり、日本でも熱烈なファンの情報発信を上手に活用する流れに。ファン同士の繋がりが深まることでコミュニティの連帯感が生まれ、ファンダムが活性化していきムーブメントが生まれるケースが増えています」(徳力さん)
ファンの熱量が最大化することが、社会現象を巻き起こしたり、世界中にファンを増やすことに繋がり、万バズのチャンスが!
ファンの熱量がヒットを生んだ話題曲「盛れミ」が大バズリ中
PICK UP!

Juice=Juice
ハロー!プロジェクトに所属するJuice=Juiceが昨年10月にリリースした「盛れ!ミ・アモーレ」の勢いが止まらない。「ファンのコールの熱量が半端なく、そのライブ映像がYouTubeで配信され、さらに注目度が上昇中」
TOPIC3|「わざわざ」に宿る愛着。タイパ至上主義の先にある、不便で愛おしい時間
憧れとワクワク感が詰まったアナログ遊び
最近、デジタルネイティブ世代の間で、たまごっちやシール交換などの懐かしカルチャーが人気を集め、「平成レトロ」ブームが巻き起こっている。その理由とは?
「コンテンツの多様化で価値観や趣味・嗜好が分散化したことで、みんなでひとつのことで盛り上がるという共通体験が少なくなり、大衆文化への“憧れ”が背景にあったのでは。懐かしさを共有することに特別感や愛着を感じる人が続出しています」(牛窪恵さん)
また効率化やタイムパフォーマンスが重視される中で、わざわざ手間をかけることへの体験価値が高まっていることも関係している。
「『モノ消費』から『コト消費』、さらに最近は『トキ消費』の時代に。トキ消費とは、ライブやスポーツ観戦などその日その場所その時間でしか体験できない消費行動のこと。そんな儚げで再現性のないアナログ遊びの共有にあえて楽しさやワクワクといった付加価値を感じる人も多いようです」
1996年に誕生した伝説の電子玩具がリバイバル中!
PICK UP!

Tamagotchi Paradise(各¥6,380)
発売から1年経たずに1000万個を売り上げ、平成の世に社会現象を巻き起こしたたまごっち。「小さな液晶画面の中で生き物の世話をしながら育成していくという、その手間やエモさにハマる大人たちが続出中!」
TOPIC4|シャイな心も解き放つ俯瞰型イマーシブ体験の最前線
日本人にウケるのは、参加型より俯瞰型?
ユーザーが現実世界から離れ、別世界に入り込んだような感覚を味わえるイマーシブ(没入体験)にも新しいヒットの法則が!
「没入体験には2つのタイプがあり、自分が没入の世界に参加する参加型と、第三者的に俯瞰しながら没入していく俯瞰型に分かれます。日本人は恥ずかしがりゆえに、参加型に抵抗がある方が多い。逆に俯瞰型はハードルが低くて万人受けするので、友人や恋人を誘いやすいようです」(牛窪さん)
そんな中、“俯瞰型”で注目なのが、3月にリニューアルオープンした京都の「太秦映画村」。
「“江戸時代の京へ、迷い込む”をコンセプトにした大人が楽しめるテーマパークに変貌を遂げました。“江戸時代を没入体験”をキーワードに、当時の街並みを忠実に再現した空間で様々な没入体験をすることで、リアルとSNSの両面で楽しめるイマーシブの新たな形態として期待されています」
時代衣装にコスプレすればより世界観に没入できる!
PICK UP!

太秦映画村
約150億円かけ全面リニューアル。時代劇の世界に入り込む感覚のショーや拷問部屋など見どころ満載。「SNSとの相性抜群で、町娘やお姫様などへのコスプレも可能。変身して一員になれば恥じらいは減り、没入感もUP」
TOPIC5|宇宙が静かな心の機微を映し出す? 映像作品における「天体モノ」という新潮流
心の変化を映し出す要素として効果を発揮
近年、宇宙や空といった天体をキーワードにした映画やドラマの公開・放送が相次ぎ、それらの多くが優れた出来栄えだったこともあり、天体モノが密かなブームに。
「たとえば昨年夏公開でロングラン上映した『この夏の星を見る』や、昨年秋放送のNHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』など。天体そのものがテーマでなくても、天文部の話だったり、天体が物語のキーになっている作品は見応えがあり、多くの人の心を掴んでいます。天体モノがヒットの新法則になったのは’24年公開の映画『夜明けのすべて』の成功が大きい。主人公の感情や内面の変化を促す要素のひとつとして、プラネタリウムを上手く用いた素晴らしい作品です」(西森路代さん)
人の心と天体は、なかなか簡単には見えないという共通点があるからこそ、登場人物の繊細な心の動きを描写し、内面を映し出すのに効果的なのかもしれない。
“宇宙食開発”という大きな夢に挑戦する月9ドラマ
PICK UP!

『サバ缶、宇宙へ行く』
「4月クールのフジテレビの月9ドラマも天体モノで期待値が高い!」。奇跡のような実話をもとにしたオリジナルストーリーで、北村匠海さん演じる主人公の新米高校教師が、生徒たちと宇宙食を開発する様子を描く。Ⓒフジテレビ
TOPIC6|隣に立って連帯する姿を描く。女性バディが切り開く、ドラマのいま
女性同士のリアルな物語が共感を呼ぶ!?
男性バディを描いた作品は数あれど、女性同士のバディものは、あるにはあるが数はまだ少なかった。しかし4月の春ドラマは女性バディモノが豊作で、期待大!
「働く女性のリアルにフォーカスした作品は年々増えており、女性バディモノも以前から要望が多かったので、機が熟したといえるでしょう。昨年秋のドラマで、母親業のアウトソーシングをテーマに2人の女性を主人公にした『フェイクマミー』のヒットも記憶に新しく、制作側に女性スタッフが増えたという制作現場の変化も、この流れの後押しに」(西森さん)
目指すは東京都知事。奮闘するふたりがこの春、大きな話題に!
PICK UP!

『銀河の一票』
とある出来事で政界を追い出された政治家秘書が、政治素人のスナックのママをスカウトし「選挙参謀」として都知事選に挑む選挙エンターテインメント。「黒木華さんと野呂佳代さんの圧倒的バディ感が大きな見どころ」Ⓒカンテレ
column
コンテンツ多様化時代。新人脚本家の発掘&活躍が目覚ましい
新人脚本家を育てるシステムが次々と導入され、新しいヒットドラマを生み出すために各放送局が尽力中。「NHKでは、海外ドラマの手法を取り入れて、複数の脚本家が“ライターズルーム”に集い、共同執筆するという流れが加速しています。この方式が民放局にも広がっており、『フェイクマミー』もTBSが展開するライターズルームから生まれた初の作品。次世代を担う若手脚本家の意欲作にも注目して!」
TOPIC7|物語の深層を最高峰のディテールで。世界を魅了する“日本の手仕事”
IPコンテンツと技術の融合が日本の強み
海外ファンが多い『今際の国のアリス』『SHOGUN将軍』など、世界的に評価されている日本の実写作品にはどんな共通点が?
「後者は海外資本で製作された作品なので、日本の実写作品とはいえないのですが、ただ侍やフジヤマ、桜や四季から渋谷の交差点といった、日本の文化やランドマーク、精神性など、日本のIPを上手く活かして作品に反映している作品は、海外ウケしやすい傾向として挙げられます」(今祥枝さん)
さらに日本の映像技術が、世界レベルに追いついてきたことも大きな要因のひとつだそう。
「映像業界の進化を牽引しているのが、TBSがグローバル市場に向けたコンテンツの企画開発や製作を行うために設立した『THE SEVEN』。『今際の国のアリス』シーズン2から製作を手掛けたことでも知られ、スケールの大きな映像の迫力、独創的な表現力は世界トップレベルです」
TBS、U-NEXT、THESEVENの3社が組む超大型プロジェクト
PICK UP!

『ちるらん新撰組鎮魂歌』
幕末最強のサムライたち「新撰組」を斬新で大胆な解釈で描いた漫画を実写化。「3月末にTBS系で2夜連続放送されたスペシャルドラマはかつてないスケールで話題に」。U-NEXTでその後を描くドラマシリーズが配信中。
TOPIC8|いま世界で活躍する俳優に求められる、「日本人の佇まい」を正しく伝える技術
日本の文化や精神性を丁寧に表現する立役者
動画配信サービスの世界的な普及により、海外でも圧倒的な支持を集める日本の俳優が増加。
「海外に熱狂的なファンが多い俳優は、ハリウッドで活躍している真田広之さん、浅野忠信さん、アンナ・サワイさんなど。そして最近、韓国作品にも出演して一目置かれるようになった笠松将さんの活躍も目覚ましいです」(今さん)
日本人俳優が海外作品のキーパーソンになるには、ある共通点が。
「それが『Authenticity(真正性、本物らしさ)』。真田広之さんがよく使う言葉なんですが、日本人らしさをしっかりと重んじて、文化や精神性を正しく伝える技量を持ち、翻訳者としての役割を果たせる人が、今の海外作品で評価されています。また演技力においても決して大げさではなく、感情表現は非常に物静かだけれども身体能力が高く、日本人らしい佇まいを確立している人材が海外では求められています」
笠松将さんがキーパーソンを演じている韓国ドラマ
PICK UP!

『復讐代行人3~模範タクシー〜』
イ・ジェフンさんが主演する、韓国の人気アクションドラマシリーズ。「シーズン3の第1・2話の舞台が日本の福岡で、笠松将さんがヒール役でゲスト出演しました。凄まじい存在感を放って、韓国でも注目の存在に!」
TOPIC9|国際共同製作には、国境も上下関係もない。対等な視線で綴る、真のグローバル・エンタメの時代へ
世界中の視聴者を熱狂させる可能性が
各国のテレビ局と制作スタッフが分担し、一つの作品を作り上げていく国際共同製作にも新しいチャンスの波が広がっている。
「この製作スタイルは昔からあり、膨大な製作費をかけて壮大なスケールで描かれるため大作になりやすいといわれてきました。ただ従来の作品はどちらかの国に偏り、対等に描かれているものが多くはなかった。しかし最近は、WOWOWの作品を筆頭に、双方の利点をフルに活かし、お互いの国の良い面を発見できるような、真のグローバルエンタメ作品が増えてきています」(今さん)
英語が共通言語として使われる場合が多いが、各国の言語も自然な形で共存している点も魅力。
「国際共同製作は、海外ルートに乗せやすく、世界攻略という可能性を秘めているのも大きな利点。Netflixで日本のTOHOスタジオと韓国がタッグを組んだ『ガス人間』も今年の注目作です」
日本とフィンランドを舞台に、描かれるクライムサスペンス
PICK UP!

日本×フィンランド共同製作ドラマ『連続ドラマWBLOOD&SWEAT』
杏さんと、フィンランドの国民的俳優のヤスペル・ペーコネンさんがダブル主演。2人の刑事が連続猟奇殺人事件の真相に迫る物語。
「双方の文化と景色がしっかりと映し出されていて、理想的な仕上がりで見応えあり」
anan 2493号(2026年4月22日発売)より


















