
児玉雨子『目立った傷や汚れなし』
児玉雨子さんの『目立った傷や汚れなし』は、転売で小金稼ぎする高揚感を知った主人公の翠(すい)が、女性ばかりの「せどり」サークルに誘われ、深みにハマっていくストーリー。
フリマアプリで売ったり買ったり。消費社会の光と影を描いた風刺小説
「せどり」とは、商品を安く仕入れ、仕入れ値よりも高く売ってコツコツ利ざやを稼ぐビジネスで、実は児玉さん自身も以前はまったく知らなかった世界だったそう。
「せどりでもうけるノウハウを扱った情報商材がYouTubeなどに上がっているのを見て、こんな世界があるんだ、ハマっている人がいるんだと興味が湧いたのが、書いたきっかけでもあります。せどりの人たちって作中のサークルのメンバーにも、真面目で優しい人が多いなとずっと思っていて。フリマアプリなどで商品を送るときにメッセージを添えたり、おまけを入れてくれたりする人もいるみたいで、売り主と買い主にとどまらない個としてのコミュニケーションが一瞬生まれたりするらしいのが面白いなと」
翠は、都内の1LDKに夫婦ふたりで暮らす会社員。夫の拓実は気軽にモノを捨てるが、ブランド服でも高価な鍋でも衝動的に買う癖がある。適応障害で休職中の身なのに「俺のお金からだから」と浪費を続ける夫に翠はもやもやした気持ちを抱き、家計の足しにでもなればと拓実が捨てた衣類をフリマアプリで売る。それがふたりの溝を加速させ…。
「拓実はパワハラの被害者で、その理不尽な社会や組織のツケを払わされるのが妻・翠のような“家庭”というのに違和感がありました。子どもがいない家庭も家庭なわけで、その怒りは少しフェミニズム的かも」
また、せどりサークルのメンバーが各人持っているせどりを巡る思いが、人生哲学めいていて面白い。
「サークルのメンバーたちが本当にわずかな利益のために熱心に仕入れては売る姿や、大量生産と大量消費でゴミを生み出す現代の消費行動に疑問を覚えながらもその流れから抜け出せない翠のジレンマを見て、滑稽に思う人もいると思うけれど、それはいま社会に広がっている『対価を払えば何をしてもいい』みたいな考え方と同根なんじゃないかと。そういう風刺的な意味も込めました」
モノや人の価値はどう決まるのか。なぜ強迫観念のように何か買い続けずにはいられないのか。児玉さんらしいアイロニカルな切り口が光る。
Profile
児玉雨子
こだま・あめこ 1993年、神奈川県生まれ。明治大学大学院文学研究科修士課程修了。アイドルやアニメ主題歌などの作詞を手がける一方、小説も発表。『##NAME##』は芥川賞候補作にも。
information
『目立った傷や汚れなし』
バーコードや緩衝材のぷちぷち、フリマアプリのSOLDアイコンなどでデザインされた装幀が物語の世界観を見事に表現している。河出書房新社 1870円
anan 2478号(2026年1月7日発売)より





















