辛い状況が役者として楽しい。その先に待っているのは成長した自分だから。
「彩人が途中で死んでしまうという物語の構成は思いついたとしても、それを実際に作品にするのはかなり勇気のいること。主人公がいなくなったその後を描くという、誰も手を出さないような難しい題材にあえて挑戦した内山監督の作家性に惹かれたし、彩人の遺志を繋いだ物語の展開の描き方が素晴らしいと思いました。題材としては重いし、観ていても演じていても辛いです。でも似たような状況下にあり、声を上げることのできない人たちに寄り添える作品になるのではないかと思って参加を決めました」
台本に余白が多く、解釈していくのは大変な作業だったと振り返るが、だからこそ自分らしさが出せて表現の幅が広がる。「そういう脚本が好きなんです」と語った。
「内山監督は入念に準備をして、ものすごく丁寧に演出される方でした。初日から現場にいる役者も、どの部署のスタッフも、みんなが同じ方向を向いているのがわかりました。ただやるぞ! という熱血さではなく、それぞれが内に秘めている熱い火種が、ひとつの大きな炎になっているような、すごくいい現場で。俳優陣が迷うことなく芝居ができたのも、監督が構築したこの現場でこそ。基本、リハーサルなしで本番に入るんですが、それが生きることも多くて。例えば風間家のリビングの床に卵や物が散乱し、キッチンのシンク中には、積み上げられた皿の上に絵の具のパレットがあり、出しっぱなしの水が床まで流れているシーン。本番で初めてそこに足を踏み入れた時、想像外の光景を目にした僕は感情が溢れ出してしまった。これはリハなしのスタイルが生きたシーンでした。また、説明を好まない監督に対し、それを小道具などで表現する美術部は本当に優秀でした」
今作に限らず、重く深いテーマの作品を望む傾向にあるという。
「精神的にも肉体的にも、ものすごい辛い状況が役者として楽しいんだと思います。その瞬間は辛くても、その先に待っているのはまたワンステップ成長した自分だし、キラキラ輝いている。だからやってよかったな、と思うことが多いんですよね。この映画を観てくださった人が、日々の辛さやつまずきの奥にある何か…希望かもしれないし絶望かもしれないけれど、その先にあるものに気づくきっかけになれば嬉しいです」
『若き見知らぬ者たち』 母親の介護をしながら昼夜働く風間彩人。弟の壮平(福山翔大)は総合格闘技の選手として日々練習に明け暮れている。ある日、暴力事件により死んでしまう彩人。遺された人々の姿を描く。新宿ピカデリーほか全国公開中。©2024 The Young Strangers Film Partners
いそむら・はやと 1992年9月11日生まれ、静岡県出身。主演作はドラマ『演じ屋』シリーズや、『東京の雪男』、映画『ビリーバーズ』ほか多数。出演映画『八犬伝』は10月25日、『劇映画 孤独のグルメ』は2025年1月10日公開。
※『anan』2024年10月23日号より。写真・山越翔太郎 スタイリスト・笠井時夢 ヘア&メイク・佐藤友勝 インタビュー、文・若山あや
(by anan編集部)