現在放送中のTVアニメ『呪術廻戦』のEDテーマ「more than words」のヒットや、来年4月には横浜アリーナでの公演も決まっている羊文学。その、全楽曲の作詞・作曲を手掛ける塩塚モエカさん。柔らかな印象の彼女の中から生み出されるメロディと言葉は、その佇まいに反して激しく力強い。「少し変われた気がした」と語る12月6日にリリースされたアルバム『12 hugs(like butterflies)』の中に放たれた言葉から窺える、彼女の気持ちの変化に迫ってみた。
Entame

――羊文学の楽曲は塩塚さんが生み出す言葉の世界がとても印象的です。どのようにして言葉たちを紡いでいるのでしょうか。

塩塚モエカさん(以下、塩塚):最初はスマホのメモアプリに書いてるんですけど、それで書き上がっちゃったらそのままいくし、そこでできなかったらレポート用紙に鉛筆とかシャープペンで、書いて消してを繰り返しながら仕上げていきますね。歩きながらスマホで打ち込んだりもするし、ギター持ちながらスマホに打ち込んでいくこともあるし。でも、そこで完結できないものって、途中でだんだん何を書きたいのかわからなくなってきちゃうので、最終的に紙に書くようにしてるんです。

――では、今回のアルバムはどのように作り上げたのでしょうか。

塩塚:アルバムの9曲目「深呼吸」の歌詞は、紙に何回も何回も書き直して仕上げていったんです。でも、3曲目の「Addiction」は、ザックリとラフにまとめたかったので、あえてスマホで書いたんです。今回のアルバムはまちまちだったんです。パソコンでひと通り作ってからスタジオで詰めたりもしたし、弾き語りのデモを持っていってスタジオで合わせた曲もあったし。1曲目の「Hug.m4a」は弾き語りでスタジオで録ったんですけど、メンバーにも聴かせないでレコーディングしたので、メンバーは録り終えてから知ったんです(笑)。マイクとかも交ぜて録音したんですけど、ほぼスマホで録ったままを活かしているので、スマホの拡張子の“m4a”をタイトルにしたんです。

――「Hug.m4a」は今回のアルバムのSE的な位置にある曲だと思いますが、タイトルの意味も含め教えていただけますか。

塩塚:だいたいの曲を録り終わって全体像が見えてきて、並べて聴いたときに、今までのアルバムと少し違う感じがして、何が違うのか分析してみたんです。今までは嫌なことや悩んでいることを「聞いてよ!」って吐き出すような、外に吐き出すパワーが強かったんですけど、今回は、思ったことを自分の中で温めて、考えて、ちょっと認めてあげていこうっていう、内側に向かっていく強い力を覚えたんです。それが、自分をハグしているみたいだなって感じたんです。自分をハグするって意味に繋がる言葉を探していたら、両手を胸の前でクロスして手のひらを左右の肩に置くことを、バタフライハグって言うらしくて、自分をハグして安心させる効果がある心理療法だと知ったんです。私は普段から、無意識に自分の腕とか肘とかを抱きしめる癖があるので、自分が普段からやっていたことと繋がったことに驚いたんですが、まさにこのアルバムの中に詰め込んだ想いにぴったりだなと思って、アルバムタイトルにしたんです。

――不思議なリンクでしたね。

塩塚:そうなんです。自分でもどうして私はいつもこのポーズをしちゃうんだろ? って思ってたんですけど、無意識に自分を安心させるためだったんだなって気づいて、ちょっと腑に落ちたんです。

私も野良犬からちゃんと人間になっていかなくちゃ。

――全曲の歌詞において、弱さの中にも、内側に向いた強さを感じたんですが、前作から今作に至るまでの中で、心情の変化や楽曲制作面での変化はありましたか?

塩塚:23歳で大学を出て、4年くらいミュージシャンとしてやってみて、わかってきたことも増えてきたし、学生時代にライブハウスでライブをしてた頃とは変化してきた感覚はあって。対バン相手に対して絶対に負けない! って闘志を燃やしていた野良育ちからスタートしたので、いろんな人たちと関わってお仕事として音楽をやっていくという現実は180度違うものだったんです。音楽を作って人前でライブをすること自体は同じなんだけど、まわりがどんどん変化していく中で、私も野良犬からちゃんと人間になっていかなくちゃいけないんだって思うようになったんです。昨年リリースしたアルバム『our hope』がちょっとポップな仕上がりだったので、今回は音楽的にももうちょっといろんなことにトライしたいという方向性で作り始めて。完成したのを振り返ってみると、これまでとはまた違う作品になりました。

――なるほど。

塩塚:さかのぼると、私が10代のときに人生で初めて作った曲は学校に行きたくないって曲だったんです(笑)。それを「魔法」っていうタイトルで書いて、アイツがムカつくんだよ! っていう曲には「春」ってタイトルを付けたんです。19歳頃に書いた曲たちは、ムカつくとか自分は何が正しいと思うってことばかりを書いてたんですよね。でも、「春」を最初にEPでリリースしたとき(2017年リリース『トンネルを抜けたら』)、それだと自分が幸せになれないから、前向きな気持ちを元に曲作りをしてみようっていろいろ挑戦してみたんですけど、そんなに前向きな気持ちが人生の中でなかったこともあり、等身大の自分で向き合ってきたんです。でも、学校を卒業したり一人暮らしをしたりといった環境の変化の中で、自分の内面に向き合うようになって、そこから少し変われた気がしたんです。

――セルフラブ的な変化は、今回のアルバムのテーマでもあるバタフライハグに繋がる部分ですね。

塩塚:今もムカつくっていう気持ちで曲を書いたりもするんですけど、書き方は確実に変化を感じますね。今までは自分の中身を見ることを全くしてこなかったけど、アーユルヴェーダに興味を持って、たまたま服部みれいさんの本を読んだんです。そしたら、そこに自分を大事にしていくための知識がたくさん書かれていたんです。“白湯(さゆ)を飲め”とか“足を温めろ”っていうシンプルなことが書いてあるんですけど、日々の行動から自分を大切にしていけることを知ったんです。自分の気持ちを一つ変えることで、周りはどういうふうに変化するんだろう? って観察するのが、すごく楽しくなって。

――まさに白湯のようなイメージですよね、羊文学の曲と歌詞って。

塩塚:ありがとうございます! (自分専用のタンブラーを見せて)これ。今も白湯を飲んでます(笑)。

――今作はやっと自分の心としっかり対峙できた感じなんですね。

塩塚:はい。今まで自分がやってきたこととか、自分の思っている世界が、ちょっとどこかズレている感じがあったんですけど、今回のアルバムは自分と一致してると感じるんです。私、自分のこと、何もない人間だって思っているんですよ。趣味も特にないし。このフォントは嫌だ! とか、仕事上の小さなこだわりはあるんですけど、私生活の中でのこだわりは特になくて。テレビもついてたら見るし、音楽もかかっていたら聴くし、みたいな感じなんです。だけど、お腹の奥の方に、ブレないキラキラみたいなものを自分は持ってると思っていて。このアルバムも深いところでじんわり広がって安心できる感じに出来上がったなって思ったんです。言葉もいろんな気持ちもたくさん詰まっているんだけど、今までみたいに人に押し付けようというテンションではなく、表面的な強さが大きく広がっていく感じではないけど、聴いてるとお腹の中が温まるような感じで。でも、一曲一曲は重すぎずわりと短くてサラッとしていて、すごくいいバランスになったなって。演奏してる自分と歌う自分が、初めてちゃんと一致したんです。

放送中のTVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」のEDテーマ「more than words」等が収録されたニューアルバム『12hugs(like butterflies)』が発売中。12月14日に東京で、25日に大阪で、クリスマスライブ「まほうがつかえる2023」を開催。2024年4月21日には、「羊文学 LIVE 2024“III”」を横浜アリーナにて開催が決定している。

しおつか・もえか 東京都出身。オルタナティブロックバンド羊文学のギター&ボーカル。全楽曲の作詞・作曲を担当。2011年に羊文学として活動を始め、’17年に現在の体制となる。ソロとしては、モデルや文章執筆、俳優として映画やドラマに出演するなど多方面で活躍している。整体にハマり中。

※『anan』2023年12月20日号より。写真・表 萌々花 スタイリスト・Remi Kawasaki ヘア&メイク・kika インタビュー、文・武市尚子

(by anan編集部)

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