宮沢氷魚「いま上演する意味がすごくある」 戦場が舞台のふたり芝居に挑む

エンタメ
2020.09.20
「春に出演していた舞台が、当初の予定の4分の1しか公演できずに中止になってしまいました。悔しさと、有り余ったエネルギーとでモヤモヤしている最中に今回の舞台のお話をいただいて…。ここにすべてをぶつけようと気持ちを切り替えました」 穏やかな口調の奥に、宮沢氷魚さんの強い覚悟すら感じる。コロナ禍にある今の時世に立ち上げられたのが、舞台『ボクの穴、彼の穴。』。演じるのは、戦場で塹壕にひとり取り残された兵士の役だ。
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「見えない敵と戦うというのが大きなテーマなんですが、いま上演する意味がすごくある気がするんです。僕らが生きている世界でも、コロナをはじめ災害や人種差別…もっといえばSNSなどでの誹謗中傷とか、正体のわからないものと戦うことが多くなっています。そういうものに対し、どう立ち向かってどう乗り越えたらいいかを考えさせられる作品じゃないかと思います」

孤独のなか死の恐怖に怯え、戦争のマニュアルに書かれた敵の姿を想像し、猜疑心を募らせていく。

「家にいるだけで必要なものは何でも手に入るぶん、孤立するのが簡単な時代です。でも自分の世界に閉じこもることで見えなくなってしまうものも多い。自分の穴から一歩踏み出して、他者を理解しようと歩み寄る姿勢というのが、これまで以上に大事なんじゃないかと思うんです」

出演者はたったふたり。主人公と同じように塹壕にひとり残った敵方の兵士を、2度の共演経験のある大鶴佐助さんが演じる。

「佐助くんは言葉をものすごく大事にする役者さん。セリフのひとつひとつに、書かれている理由があって、それをしっかりと意識して発しているのがわかります。毎日稽古場ですばらしい芝居を届けてくれるので、それにすごく刺激を受けています」

ふたり芝居というハードル以外にも今回は、「これまでとはちょっと違う不安と戦っている」とも。

「装置や小道具が最低限しかなくて、舞台上には僕らだけ。間違いなく、自分の身体なり、言葉や佇まいで劇場の空間を埋める表現が大事になってくる。物語はいきなり戦争の最中から始まるんですが、その緊迫した精神状態とか切迫感とか、家で脚本を読んでいると近づけているように思っていても、稽古場に来ると全然足りていないのがわかるんです。自分の頭の中だけでは、太刀打ちできない世界なんですよね。セリフ自体は簡単な言葉ですが、だからこそ、気持ちをきちんとのせないと薄っぺらく聞こえてしまうんです。言葉をちゃんと自分のものにして、稽古場で生まれる全部を体で感じながら、セリフを発していくことを大事にしたいと思っています」

宮沢さんにとって、これが5作目の舞台出演となる。

「初めて舞台に立つ時に、ある方から『一回舞台に立ったら、たぶん一生やるよ』って言われたんです。その時は、毎日重圧と戦わなきゃいけないのにと半信半疑でしたけど、いまは少しわかってきました。すごくしんどいんですけれど、それに勝る喜びとか感動とか達成感を肌で感じて、自分がすごく充実するんです」

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『ボクの穴、彼の穴。』 戦場の塹壕に取り残された兵士(宮沢)。殺すか殺されるか、穴の中にじっと身を潜める彼は、「戦争のしおり」に書かれたモンスターのような敵の姿を想像し、自らの妄想に恐怖心を煽られていく。敵方の兵士(大鶴)もまた同じ状況とは知らず…。9月17日(木)~23日(水) 池袋・東京芸術劇場 プレイハウス 原作/デビッド・カリ 訳/松尾スズキ(千倉書房より) 翻案・脚本・演出/ノゾエ征爾 出演/宮沢氷魚、大鶴佐助 全席指定8000円(税込み) サンライズプロモーション東京 TEL:0570・00・3337 https://stage.parco.jp/program/bokuana2020/

みやざわ・ひお 1994年4月24日生まれ。アメリカ出身。モデルの傍ら、今年公開の『his』で映画初主演するなど俳優として着実にキャリアを重ねている。公開待機作に映画『騙し絵の牙』。

※『anan』2020年9月23日号より。写真・小笠原真紀 ヘア&メイク・阿部孝介(トラフィック) インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

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