皆川猿時「今52歳なんですけど、この何年かでシリアスな役をやることへの照れが、少しなくなってきた」

エンタメ
2023.10.14
登場するだけでなんだか面白い。だけど、連続テレビ小説『あまちゃん』では何気なく発したひと言でぐっと胸を掴まれたり、舞台『流山ブルーバード』でパンツ一丁で佇む姿でじーんとさせたり、インパクトだけではない後味を残してくれる。ならば、皆川猿時さんという人自身は、一体どんな人なのだろう。
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――まずは目前に控える舞台『ドクター皆川~手術成功5秒前~』について伺います。作・演出の細川徹さんとはこれまで何作も舞台をご一緒に作られていますが、前作が『3年B組皆川先生~2.5時幻目~』でした。タイトルにご自身の名前が冠されるというのは、どんなお気持ちですか?

細川さんが作・演出を担当、僕と荒川(良々)くんがメインを務めるこのシリーズで、毎回僕は荒川くんにヒドい目に遭わされます。前回から“皆川”がタイトルについて、ヒドい目に遭うのが誰なのか、わかりやすくなったんじゃないかと思います。

――それは皆川さん的には…?

もちろん光栄です(笑)。毎回、体力的にはキツい部分もあるんですけど、細川さんの作品独特のお客さんの盛り上がりというのがあって、それは他の舞台では味わえないものなんですよね。僕らオジさんやオバさんのつたない歌や踊りにも、お客さんが拍手をしてくれるんです。あれって、お客さんに気を遣わせちゃってるんですかね(笑)。でも、幸せだなって。

――稽古が始まったそうですが、どんな雰囲気なんでしょう?

昨日は、台本をちょこっと読んでから、ちょこっと立ってみて、その後は雑談でしたね(笑)。

――その雑談は作品に関する?

関係あったりなかったり(笑)。まあでも、細川さんの稽古場ってみっちりやる雰囲気じゃないんですよね。ある程度ノリと勢いでガーッと作って、熱々のものをそのままお客さんにお出しする、みたいな作り方だから。こっちとしてもそんなに真面目に稽古されてもな…と(笑)。じゃあ1か月も稽古期間がいるのかと言われたら、やっぱりキャスト同士の関係性を作っていく上では必要だと思います。そのための雑談ってことなんでしょうかね。今回初参加の牧島(輝/ひかる)くんと金川(紗耶)さんは戸惑ってると思いますけど。

――松尾スズキさんや宮藤官九郎さんの作品をやられるときも、笑いの鮮度みたいなことは意識されていらっしゃるんでしょうか。

宮藤さんは笑いに関してこだわるけど、余白を作るというか、あえて全部を決めようとはしません。面白い台本が最初からカチッとあって、より面白くなるようにガッツリ稽古するので、やってる方は途中で何が面白いのかわからなくなるっていう(笑)。松尾さんは僕なんかには想像もつかない明確なビジョンがあって、笑いに関しても迷いがない気がします。笑いと気持ち悪さが隣り合わせというか、演じる上では、ある程度の生っぽさが必要な感じがします。

――以前は、登場の仕方から面白いコメディリリーフ的なポジションが多かったですが、近年はドラマでもシリアスな役どころを演じることも増えています。

今52歳なんですけど、この何年かでシリアスな役をやることへの照れが、少しなくなってきました。自分としては、コミカルな方が気持ち的に楽なんですが、いろんな作品に関わったおかげで、シリアスなものにも面白い要素がいっぱいあることに気づいたんです。すごく遅いんですけど。

――もともと面白いことがやりたくて、大人計画に?

もともとお客さんとして大人計画を観ていたんです。今ほどお笑いが盛り上がってなくて、小劇場の勢いがすごかった時期だったと思います。そんな中で松尾さんの作品は、尖ってて面白くてカッコよくて、いっぱい笑いました。

――松尾さんの描くような笑いがお好きだったんですか?

僕は福島県いわき市出身で、テレビの笑いしか知らなかったんです。それまで見てきたドリフとかひょうきん族とはまったく違う種類の笑いを松尾さんがやっていて、カルチャーショックを受けました。見ちゃいけないものを遠目で見る面白さってあるじゃないですか。遠目で見るような内容のものを、大人計画が下北沢の劇場で、目の前でやってたんです(笑)。衝撃でしたし、正直、感動しました。

――入ってみてどうでした?

面白くて笑えるものをやりたくて入ったけれど、何が面白いのか自分ではよくわかってなくて(笑)。まあでも、よくわかってないくせに遠慮しないタイプだったので、怒られてもいいやって気持ちで、自分がやりたいように思いっきりやってました。それで松尾さんや宮藤さんが笑ってくれたら、オッケー! だろうと。もちろん、そんなに笑ってもらえないし、冷めた目で見られたり(笑)。

――そこから、すごい勢いで人気劇団になっていったわけですが。

でも、自分はまだまだっていうか。ちょっとはウケるようになってきましたけど、もっとウケてもいいんじゃないのって(笑)。

――その頃から、松尾さんが劇団公演のチラシに皆川さんの顔を使ったり、宮藤さんのドラマで印象的な役を演じることも増えました。

こんな男をね、本当にありがたいことですよ。ありがとうございます(笑)。『あまちゃん』は、ほとんど舞台の感じのままやってたんです、声量も含めて。映像ではトゥーマッチではあるけれど、宮藤さんのホンだし思いっきりやってみたら、たまたまうまくいったというか、初めてお茶の間にウケたんじゃないですかね。

――ご自身としても、その芝居がお茶の間にウケるかどうか挑戦だったわけですか?

いやいや、そんなつもりはなくて。たまに距離感がおかしい人っているじゃないですか。この距離でそんなでっかい声を出すかね? みたいな。面白そうだからでっかい声でやってみただけなんです。別の現場でも同じような芝居を試してみたけど、全然うまくいかなかったことも何度かありました。『ビター・ブラッド』というドラマのときにエゴサーチしたら、「あいつのは芝居じゃなく、ただ騒いでいるだけだ」って書かれていて、なるほどなるほど、ですよねって(笑)。

――エゴサーチ、するんですか!?

たまにしてます。作品もそうですけど、自分がどう思われてるのか気にはなります(笑)。

――傷つくこともありますよね。

あんまり傷つかないというか…知らんがなって。こちとら、松尾さんや宮藤から直接ヒドい言葉をいっぱい言われてきてますから(笑)。なんでしょうね、鈍感になっているのかもしれません。

みながわ・さるとき 1971年2月1日生まれ、福島県出身。大人計画に所属し、連続テレビ小説『あまちゃん』などで印象的な役柄を演じ評価を受けた。劇団公演をはじめとした舞台のほか、ドラマ・映画・CMなど多数出演。近作に舞台『もうがまんできない』、ドラマ『やわ男とカタ子』など。出演するドラマ『季節のない街』がDisney+で配信中。

舞台『ドクター皆川~手術成功5秒前~』は、10月12日(木)~29日(日)本多劇場にて上演。また10月21日18:00~の回は生配信も(~25日23:59までアーカイブあり)。作・演出は細川徹さん、共演は荒川良々さんほか。今回は、2.5次元舞台などでも活躍する牧島輝さん、乃木坂46の金川紗耶さんも参加。大人計画 TEL:03・3327・4312(平日11:00~19:00)

※『anan』2023年10月18日号より。写真・高橋マナミ インタビュー、文・望月リサ

(by anan編集部)

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