甲斐翔真×古屋敬多
――甲斐さんは’20年の『RENT』からロジャー役を続投。古屋さんは今回が初参加です。それぞれ稽古場で、周りとどのような関係性を築かれていらっしゃいますか?
古屋敬多:今回の公演は、ほとんどの方が’20年にも出演されていた方々なので、みんな打ち解けていて、カンパニーとしてすでにでき上がっている感じがあって。僕はもともとシャイなところがあるので、その中に入っていくのに必死で…。
甲斐翔真:全然そうは見えないですよ。
古屋:頑張って自分から近づいてこうとはしてる(笑)。でもこの作品に関わっている方々みんな、すごく愛が深い人ばかりだよね。それは『RENT』っていう作品の力なのかなとも思ってるんだけど。
甲斐:たぶん本来は僕の方が人見知りだと思うんですけど、普段からのお互いの距離感が影響する作品な気がするんですよね。お互いを信頼して弱みを見せ合って、想いを共有することで、2幕最初の全員で歌う「Seasons of Love」のパワーが無限に広がっていく感じがするというか。だからこの現場では、意識的に人との距離を詰めていくようにしてるんです。
古屋:話しかけやすい雰囲気がありますよね。柔らかいというか。でもこの現場ではみんな、おのおのがありのままの自分でいる感じがします。
甲斐:へんに気を遣わない(笑)。
古屋:それも自然に受け入れて愛で包みたいと思えるのは、この作品だからなんだろうと思っています。
――ロジャーは、HIVに感染したことを悲観した恋人が自ら命を絶って以来、部屋に引きこもって人との交流を断っているキャラクターです。おふたりはこの役をどう考えて演じようと思われていますか?
甲斐:ロジャー自身も感染者で、彼女の死とは無関係ではないわけで、後追いすることを考えたりもしたと思うんです。ただ、引きこもって半年が経ったとき、なぜロジャーがギターを手に取ったのかをすごく考えていて。きっとこの最悪の人生を自分なりに清算する何か…今生きていることに納得できる何かが欲しくて、それが彼には曲だったのかなって。それが作れたら、この人生がプラスにはならなくとも、プラマイゼロにはできるかもしれない。ロジャーにとって今重要なのは曲を作って栄光を手にすることで、誰かとの会話も新しい女性も、ましてや新しい世界なんて必要ないと思っているのかなと考えています。今のところは。
古屋:ロジャー自身はどん底にいて心を閉ざしているけれど、人の生きようとする力ってとてつもないものがあると思うんですよ。追い込まれているからこそ湧き上がってくるエネルギーみたいなものがあって、それが彼にまたギターを手に取らせてくれたのかなって。
甲斐:あと、当時はまだエイズが不治の病とされていたと思うと、自分の余命も考えていただろうからね。薬はあるけれど、まだ周りでどんどん仲間が死んでいってるわけで。
古屋:うん。いつ終わりがくるかわからない中での、切迫した感じとかをリアルに演じていきたいですね。
甲斐:だからミミが現れる場面とか、ロジャーからしたら、せっかくいいメロディが思いつきそうなのに邪魔するなよって気持ちなのかなって。
古屋:うん。他人を受け入れる心の余裕はないんだろうなって思う。
――マークをはじめ仲間たちは、心を閉ざしたロジャーを見守りつつ、ときに外に引っ張り出そうとします。
甲斐:舞台が世紀末のニューヨークだっていうのもあると思います。人種差別もLGBTQも、当時は今よりずっとシビアだっただろうし、ましてやエイズはもっと恐れられていたはずで。そんなシビアな時代に、お金もなく、共に夢を追っている仲間同士だからこそ、より強固に結びついたと思うんです。きっとその中には、かつてはルームメイトだったベニーや、死んだ恋人のエイプリルもいたんだろうし。
古屋:家族みたいな関係だよね。
甲斐:ニューヨークって東京と同じで、みんな夢を追って故郷から出てきているボヘミアンで、家族が近くにいないからこそ仲間同士が助け合うみたいなこともあっただろうし。
古屋:今、ロジャーとして生きながら思うのは、人を救うのは人なんだなってこと。心配して連絡してくる家族もだけど、近くで愛情を注いでくれる仲間たちの存在が本当に力になるんですよね。そこにはロジャーと恋人になるミミや、死んだエイプリルとの過去の幸せな記憶もあると思っていて。結局、人を救うのって他者の愛なのかなって。
――あらためて『RENT』という作品の魅力を伺えますか?
甲斐:『RENT』って、やっている僕らも毎回感動しながらやってるんです。もちろんお客さんがそう感じてくれることを目指しているんだけど、キャスト同士がお互いに高め合って生まれる感動が本物だからこそ、伝わるものがあるのかなって。
古屋:すごく生々しい作品で、演じるこちらも丸裸の感情でエネルギーをぶつけていかないと太刀打ちできない。でもだからこそ観た方には何か届くものがあると思っています。
ミュージカル『RENT』 古いロフトで暮らす映像作家のマークとミュージシャンのロジャーは、家賃を滞納し、電気も暖房も止められてしまった。そんな中、仲間のコリンズからNYに戻ってきたと連絡が入る。3月8日(水)~4月2日(日) 日比谷・シアタークリエ 脚本・作詞・音楽/ジョナサン・ラーソン 演出/マイケル・グライフ 日本版リステージ/アンディ・セニョールJr. 東宝テレザーブ TEL:03・3201・7777 https://www.tohostage.com/rent2023/
(写真右)かい・しょうま 1997年11月14日生まれ、東京都出身。2016年に『仮面ライダーエグゼイド』でデビュー。’20年に『デスノート THE MUSICAL』でミュージカルデビューし、以降、『ロミオとジュリエット』や『エリザベート』などの大作に出演。今夏に『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』が控える。
すべてスタイリスト私物
(写真左)ふるや・けいた 1988年6月13日生まれ、福岡県出身。2002年にダンスボーカルユニット・Leadでデビュー。アーティスト活動と並行して、ドラマ『Deep Love』『アロハ・ソムリエ』などに出演するほか、舞台でも活躍。ミュージカル『プリシラ』、W主演ミュージカル『イノサンmusicale』などがある。
カットソー¥7,150 ライダース¥198,000(共にLewis Leathers Japan TEL:03・6438・9215) シャツ¥65,990 パンツ¥200,000(共にSPiKe TEL:03・6407・0123)
※『anan』2023年3月8日号より。写真・宮崎健太郎 スタイリスト・岡本健太郎(甲斐さん) 横田勝広(YKP/古屋さん) ヘア&メイク・高田俊介(古屋さん) ☆MIZUHO☆(Vitamins/甲斐さん) 撮影協力・BACKGROUNDS FACTORY EASE
(by anan編集部)