世界で愛される是枝裕和監督。新作のNetflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』は、映画ではなく全9話からなる連続ドラマ。
「連ドラを見て育ってきたので、常にやりたいと思っていて、自分の中でのプライオリティは映画よりも高いくらいなんです(笑)。でも、連ドラを作るハードルは高いんですよ。今は、立て続けに事件が起こるものが日本の連ドラの主流なので、僕の作るドラマは視聴率が取れないんです(笑)。でも、最近の韓国ドラマにはゆったりとした作風も出てきて“こういうドラマだったら、僕にもできるんだけどな”と思っていたところに声を掛けてもらい、久しぶりに連ドラを作ることができました」
本作は祇園で舞妓になることを夢見るキヨとすみれを主軸に描かれる。中学を卒業したばかりで故郷の青森を離れ、それぞれが生きる道を選び、進む姿は眩しく、いつまでも見守っていたくなる。
「世界観がしっかりあって、魅力的な人物がいれば、大した事件が起きなくても、その人たちを見ていたいという気持ちになれる。それが、僕が思う連ドラの一番の魅力。『舞妓さん~』では、その魅力を見せられたと思います」
京都、着物、料理と、外国人が真っ先にイメージする日本的な題材を選んだのは、世界市場を見据えたからなのだろうか。
「企画を渡された段階では、日本のエキゾティシズムを売りにした作品になるなら作る意味がないと思いました。でも、実際に花街を取材すると、女性たちが支え、動かしている小さな共同体が300年前から変わらない形で息づいていたことに衝撃を受けたんです。グローバル時代にあって、祇園のあの一角だけは、半径数百メートルという狭い中で、全員の顔が見える形でつながっている。そして、季節ごとに食べるものや着るもの、行く場所も細かく決まっていて、そのリズムに則って人が生きている。そのことに豊かさを感じて、ちゃんと撮ってみたいなと。また、自分が見て育ってきた『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『前略おふくろ様』といった作品も、職人の世界を舞台に、血縁を超えた共同体を描いています。そうした作品へのラブレターにもなるんじゃないかと思い、お受けしました」
本作は、是枝監督がNetflixと初めてタッグを組んだことも話題だが、制作についてはこれまで通りだったと振り返る。
「『世界190以上の国で同時配信の作品ということで、何か変わるのか』という質問をよく受けるんですけど、自慢でも何でもなく僕の映画も190から200くらいの国や地域で公開されているんです。だから何も変わりませんでした。海外を視野に入れてわかりやすくとか、日本人にしか伝わらないだろうからやめておこうということは、この作品でも一切やっていません」
“NEXT”たちとの共同作業で刺激をもらう。
本作での是枝監督の立ち位置は、自ら監督・脚本を務めながら、若手監督3人と共同作業で作り上げていくショーランナー。3人を選ぶにあたり、ワークショップを行ったそう。
「役者のオーディションを兼ねて、6人に演出してもらい、それを僕が見て選びました。相当やりにくかったと思いますよ(笑)」
そうして選んだ3人の魅力は?
「津野愛さんと一緒に作るのは、僕が監修した『十年 Ten Years Japan』から数えて3回目です。最初から、役者に対する演出が非常に丁寧かつ繊細なのは知っていましたが、今回も俳優とちゃんと関係を作れる人だなと。日常の中に生まれる笑いを掬い上げるセンスもあるし、幅の広い演出家です。佐藤(快磨)くんは、喋ると何を言ってるのかわからないんです(笑)。でも、企画書や撮るものは抜群に面白い。8話と続く最終回という責任重大な回を任せたんですが、8話の遊びを取り入れた演出は佐藤くんの持ち味が活きていましたし、9話でドラマ全体をしっかり締める。見事でした。奥山(大史)は、僕が早稲田でやっている映像制作実習にモグリで来てた頃からの付き合い。僕がやった米津玄師さんのMVにもカメラマンとして参加してくれたんですけど、若いのに機材の知識が非常に豊富。映像的なこだわりも一番強かったですね。OPタイトルの演出を任せたんですけど、時間がかかって大変でした(笑)。でも、僕が作るよりもずっとセンス溢れるものが完成しました」
若手監督に対する信頼と愛情溢れる言葉からは、次なる世代を育成しようという想いが窺える。
「才能ある人は勝手に育っていきますし、僕が育てるだなんておこがましいです。ただ、共同作業をするのは、そういう気持ちが半分はあります。もう半分は、若い優れた作り手との共同作業が自分にとってプラスになるから。毎回、いい刺激がもらえるんですよね」
是枝監督から見て、日本の映像界では新しい才能がどんどん芽吹いているのだ。
「ただ、彼ら彼女らの才能に見合った制作ができているかといえば、そうではないような気がします。まず、資金が全然足りません。日本は、国内マーケットがそこそこ充実しているので、海外に行かなくてもいいよねという発想でこの30年きてしまいました。国内マーケットでの興行収入は上限が見え、そこから逆算して制作費が決められます。もう少し海外を視野にしたマーケット戦略ができると、単純に予算が増えるんですけどね。それと人材不足はどの組も危機感を持っています。僕らの世代は、賃金が低くても、寝られずとも、好きだから我慢する時代でした。でも、今はもうそういった価値観は通用しません。新しい世代が働きたいと思える魅力的な世界に変わることができたなら、日本の映像界は再生すると信じています。才能ある人はたくさんいますから」
Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』 舞妓になりたくて、青森から京都にやってきたキヨ(森七菜)とすみれ(出口夏希)。二人と舞妓たちとの温かな交流を、季節の移ろいとともに描く。フードスタイリストの飯島奈美によるおいしそうなまかない料理も魅力。’23 年1月12日よりNetflixにて全世界配信。©小山愛子・小学館/STORY inc.
これえだ・ひろかず 1962年6月6日生まれ、東京都出身。2018年、『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。2022年、初となる韓国映画『ベイビー・ブローカー』が公開された。
シャツブルゾン¥37,400(WEWILL/WEWILL Co.,Ltd TEL:03・6264・4445) シャツ¥30,800(YANTOR info@yantor.jp)
※『anan』2022年12月28日‐2023年1月4日合併号より。写真・Nae.Jay スタイリスト・DAN(kelemmi) ヘア&メイク・中山芽美(e‐mu) 取材、文・小泉咲子
(by anan編集部)