窪田正孝「役者業と私生活は表裏一体」 30代になってわかるようになったこと

2022.10.23
NYタイムズ紙に掲載されたコラムを基にした、アメリカ制作のドラマ『モダンラブ』の東京版『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』。6人の監督による全7話のオムニバス形式のうち、唯一のアニメーション作品である「彼が奏でるふたりの調べ」に出演しているのが窪田正孝さん。仕事でも私生活でも魅力的に映るという、新しい価値観とは。
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約2年ぶりに、アニメの声優に挑戦した窪田正孝さんに、今作「彼が奏でるふたりの調べ」の見どころや『モダンラブ・東京』の魅力、エンターテインメントの力について、伺ってみました。

――オファーを受けた時の感想から教えてください。

以前、パリで開かれた“Japan Expo”に参加させていただいた時に、日本のアニメや作品から生まれたキャラクターが、海外で絶大な人気を得ていることを目の当たりにしていて。そんな、世界に誇れる日本のカルチャーである、アニメ作品に参加できることにやりがいを感じました。大人になり、誰もが一度は振り返るであろう学生時代の記憶の中に、美化したものもあれば、嫌だなとか、恥ずかしいな、といういろんな想いがあると思いますが、そういうものがうまく盛り込まれているラブストーリーだと思います。

――主人公の珠美を演じた黒木華さんとは、別録りをされたそうで。

黒木さんがすでに収録されたところに、重ねて録りました。珠美の声には、可愛らしさの中にちょっと憎らしさを感じて、黒木さんの多彩なお芝居や、耳から脳に直接入ってくるような独特な声が素敵でした。そういうセンスを持っているところがカッコいいです。もし一緒にお芝居をしていたとしたら、何度もテイクを重ねていくうちにリズムが合ってくると思います。でも言葉のニュアンスや掛け合いが、合っているようで合ってない、わずかなズレみたいなものを残した方が、学生時代に抱いていた淡い気持ちがより感じられると思って。今回は、別々の収録でよかった気がします。

――内気でローテンションな凛を演じるのは、難しいものですか?

僕の場合、ずっとアウトプットできるという面白みはあっても、ハイテンションな人物を演じる方が大変かもしれません。役者って、台本に書かれたセリフに感情の起伏をつけて体現をするので、どうしても足す作業から始まるんです。それが醍醐味でもあるのですが。でも、台本が出来上がっている時点で、その人物のバックボーンはすでにちゃんとあって、そこにあまりにも役者が芝居で足しすぎてしまうと、人物像を作り上げすぎてしまうというか、見る人の考える隙間がなくなってしまうと思っていて。言葉や主張が少ない凛は、見る人に人物像を委ねることができたと思うし、僕は凛という役が好きでした。ただ、セリフが少ないぶん、喉を使い慣れていなかったのか、あれ、俺こんな声してたっけ? と自分で思うこともありましたけど(笑)。

――他の作品は見られましたか?

何本か見ました。いい意味で、日本の常識や概念を壊していると感じました。というのも、他人を思いやる配慮やおもてなしのような丁寧な文化が日本のいいところだと思う一方で、経緯を説明しすぎる風潮みたいなものもあって。でも、この作品は、例えば同性のパートナーがいるところから、また、すでに離婚している夫婦から説明なしに物語が始まっていて、自分たちの愛の形はこうですと、最初から提示している。新しい価値観であり、個人的には新たなジャンルに足を踏み入れた作品だと感じて、面白かったです。

――「彼が奏でるふたりの調べ」は、現代に生きる珠美が、ある曲をきっかけに学生時代の苦い恋を思い出す物語です。窪田さんにも、そんな曲はありますか?

昔、兄が聴いていた、EXILEさんの「Style」という曲を僕もずっと聴いていました。今でも、その曲を聴くと、当時住んでいた実家の間取りや、飼っていた猫2匹がガリガリした柱などを思い出します(笑)。

――音楽にはそんな力がありますよね。他にも、エンターテインメントの魅力を感じることは?

日頃からいろんな映画を観るようにしていて、刺激を受けているのですが、エンターテインメントにジャンルはないな、ってずっと思っていて。最近は漆塗りのお椀ができるまでの職人さんの作業工程や、ものすごくこだわって下ごしらえをして作る料理などの動画を見るのも好きです。裏側を知ることで、出来上がったものがより美しく魅力的に感じられるんですよね。自分でもやってみたい、という学びの欲が生まれたりもして、そういう欲は、持ち続けたいとも思うし。表と裏で言えば、役者業と私生活は表裏一体で。片方が豊かなら、もう片方も必ず豊かになることが、30代になってわかるようになりました。人との出会いや繋がりによって生まれる、無限に広がる可能性も、一度知ればすごく面白くて。それでサウナにハマったり、ゴルフを始めたりも。今は、私生活にあるエンターテインメントに興味があるんです。

「彼が奏でるふたりの調べ」
黒木 華×窪田正孝 ほか

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音楽により蘇る青春時代の恋心。
仕事でもプライベートでも行き詰まっていた珠美(声:黒木華)は、ある曲をふと耳にしたことで、15年前の記憶へと戻っていく。高校の体育館でピアノを弾く少年・凛(声:窪田正孝)とは、音楽を通じて仲良くなるが、ある日を境にその関係性は断たれてしまっていた。そんな凛が現在、ミュージシャンになっていることを知り…。監督:山田尚子 脚本:荻上直子

『モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~』 子育ての葛藤や、マッチングアプリでの出会い、セックスレス、シニアラブ、国境を超えた愛など。NYタイムズ紙の人気コラムに投稿された、一般読者の実体験をベースに独自に解釈。現代の東京における多種多様な日常の愛の形を描いた、オムニバスドラマ。映画界で活躍を続ける6人の監督たちが、それぞれの感性で作り上げた、実写6話、アニメーション1話の全7話で構成。10月21日(金)よりPrime Videoで全世界同時独占配信。
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くぼた・まさたか 1988年8月6日生まれ、神奈川県出身。出演映画『ある男』が11月18日公開。出演映画『湯道』、主演映画『スイート・マイホーム』は、2023年公開予定。

ジャケット¥81,400 パンツ¥41,800(共にシュタイン) シャツ¥26,000(アンセムエー) 以上エンケル TEL:03・6812・9897 Tシャツ¥29,700(アクネ ストゥディオズ/アクネ ストゥディオズ アオヤマ TEL:03・6418・9923) シューズ¥72,600(フット・ザ・コーチャー/ギャラリー・オブ・オーセンティック TEL:03・5808・7515)

※『anan』2022年10月22日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・菊池陽之介 ヘア&メイク・菅井征起(GARA inc.) 取材、文・若山あや 構成・野尻和代 撮影協力・バックグラウンズ ファクトリー

(by anan編集部)