血縁関係の枠組みに囚われない、新しい家族のかたち“拡張家族”とは?

ライフスタイル
2021.07.16
どこで、誰と、どんなふうに暮らしていきたいか。“拡張家族”という新しい家族のかたちを実践するコミュニティ〈Cift〉の石山アンジュさんに、新たな家族の関係性についてについてお聞きしました。

新しい家族のかたち“拡張家族”

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概念を共有してから家族関係を築いていく。

――〈Cift〉というコミュニティの特徴を教えてください。

〈Cift〉は、1歳の子どもから60代まで、年代も職種も価値観も性的指向も異なる人たちが共同で暮らしています。料理研究家、弁護士、画家、鍼灸師、ミュージシャン、映画監督、建築家…メンバーの肩書を集めたら、300は超えると思います。みんなのスキルをシェアすれば、このコミュニティで起こるほとんどのことが解決できるのかなと思うほどで。

現在、家族は102人です。拠点は渋谷と京都にあるので、分かれて暮らしているのですが、この拠点以外の場所で暮らしているメンバーもいます。例えば、私も一か月の半分は渋谷にいますが、もう半分は大分で暮らしています。そういうメンバーも増えているので、Googleマップで“家族マップ”を共有し、メンバー同士が滞在できるようにしています。

私はシェアリングエコノミーを専門にしているので、色々なシェアハウスを見てきましたが、ここの一番の特徴は、物件として入居することが目的ではないということ。私たちが考える“家族のビジョン”を共有して、「お互いが家族になれるか」という話し合いを繰り返し、コミュニティに入ってもらうことから始めます。少しずつ関係を築いていくのではなく、他人だった人と家族になるという合意があって関係が始まるんです。暮らしはそのあとに続くもので。

――どのようにビジョンを共有しているのでしょうか。

“家族”といっても、人によって価値観がまったく違いますよね。私は、長い時間軸を共有するものだと思っていますが、血縁関係があったとしても育ってきた環境によって捉え方が異なるメンバーもいる。だから、家族を定義するのではなく“どういう家族を作っていきたいか?”ということから生まれた問いを分かち合い、対話することを大切にしています。今は、暮らしている場所もそれぞれになってきているので、物理的に一緒に過ごすことを超えて、家族でいられるかという実験をしているともいえます。だからこそ、コミュニティに入る前に、しっかり話をして、少しずつ人数や範囲を広げていくことを目指しています。

すごく簡単に言ってしまうと、“人類みな家族”のように、血縁関係などの枠組みに囚われず、家族だと思うことができたら、世界は平和に近づいていくのではないかなと思っていて。一人ひとりが自分の世界を平和にしていって、それを広げていくことができたら、より良い世界にできるのではないかと思っています。その挑戦は、このコミュニティの大きな目的でもあります。

――家族として人間関係を築く上で大事にしていることは?

多様な価値観の人と関わる中で、自分が変わる、変われるという意志を持って接することができるかということ。多くの人は、自分が変わらないことを前提に問題を解決しようとするのですが、それは一時的な解決にしかなりません。意見が違ったとしても、相手を受け入れ、対話することを諦めずに、自分が変わる意志を持って人との関係性を築いていくことが重要ではないかと思います。

――コミュニティで決まりごとはありますか?

毎月1回くらいのペースで開かれる家族会議や、組合費もあります。具体的なお金の使い方は家族会議で決めていきますが、メンバーの誰かが病気になった時のサポート費や食材など、共同で使うものを買ったり、家族で何かプロジェクトをやる時に使うものです。会議では、多数決はとらないと決めています。なるべくルールは作りたくないし、一人ひとりの自発性や主体的な行動を尊重しながら生活が成り立つことを目指しているので。とはいっても、話がまとまらないのは、日常茶飯事です(笑)。それでも、納得いかない人がいたら、その意見に耳を傾けて、どうしたらいいか話し合いを続けています。

――“拡張家族”の面白さはどこに感じていますか?

面倒くさいことばっかりですよ(笑)。でも、私は面倒くさいことにこそ幸せがあると思っていて。東京にいると特に思うのですが、一日中誰とも話さなくても、協同しなくても生きていける。そんな分断と孤立が進んでいる今の時代だからこそ、人と関わりながら、自分ではコントロールできないような価値観も受け入れて葛藤を抱えることが、必要ではないかなと。愛の修行のような…(笑)。決して簡単なことではないけれど、幸せは人とのつながりからしか生まれないと思っているので。

――コロナ禍でみなさんの関係に変化はありましたか?

この一年は、みんなとつながっていることをより強く感じました。私は、東京よりも大分で過ごす時間が増えて、みんなと一緒に過ごす時間は減ってしまったのですが、一緒にいなくても、拡張家族という価値観を共有していることで、自分に何かあった時に助けてくれる人がいると思えたり、味方でいてくれると思う存在を認識できることで十分なんだな、と思いました。しかも、それが102人もいることって、生きていく上ですごく心強くて、豊かなことだから。

◎かくちょう・かぞく…同じ概念を共有し、広げていく家族のかたち。
拡張家族とは、2017年5月に渋谷の複合施設の住居スペースを拠点に始まったコミュニティ〈Cift〉が掲げる、新たな家族の在り方。世代も職種も異なる102人が、この「拡張家族」という概念を共有しながら暮らしている。現在はメンバーの約7割が2拠点~多拠点で暮らしを実践し、コミュニティを個々に拡張中。

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共用部のキッチンに設置されている「どんぶりバンク」。日用消耗品など共同生活に必要な資金は誰でもそこから支出できる。一方、誰かに助けられた時や何かを借りた時などお金を入れるタイミングも自由。

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京都にあるCiftのもう一つの拠点。もともと学生寮だった「京都下鴨修学館」の建物を全面リノベーションし、2020年に完成。敷地内には中庭もある。

石山アンジュさん 社会活動家。シェアリングエコノミーを通じた多様なライフスタイルを提案している。著書に『シェアライフ』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

※『anan』2021年7月21日号より。写真・村上未知 インタビュー、文・菅原良美(akaoni)

(by anan編集部)

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