――近藤さんが次期芸術監督だと聞いた時、正直、驚きました。
僕もびっくりでした(笑)。そもそも芸術監督とは何ぞやってところからで、辞書にも求人情報誌にも載ってないし、それを自分がやるっていうことに違和感があったし。ただ、いま僕がやっている振付とか演出とか、舞台を創るってこと自体、最初はよくわからないままスタートしたわけで、それなら芸術監督もやっていいのかなって。少し前まで、こういう場所に名前が挙がるのって、戦後のモダンダンスを導いた諸先輩たちとか日本舞踊史を研究している大学の先生とかだったりしたと思うんです。でも周りを見ると、長塚圭史がKAAT神奈川芸術劇場の芸術監督になったりしている。自分たちの世代もそこにきているのかなと感じているし、やるべきなのかなと思ったりして。
――お引き受けになる時に、真っ先に考えたことって何ですか?
そうだなぁ…この劇場は、大ホール、小ホール、音楽ホールに映像ホール、大稽古場と練習室が揃っていて、こんな恵まれた場所ってなかなかないんです。言ってみたら、玉手箱みたいな劇場なわけで、この場所でどんなことをして盛り上がれるか考えているとワクワクする。“あつ森”を手に入れたような感覚に近いです。
――蜷川幸雄さんの後を引き継ぐことになるわけですが…。
芸術監督室の本棚に、まだ蜷川さんのものが残っているんです。そこでかつてのインタビューとかを読んだんだけど、これが面白いのよ。芸術監督を引き受けた初期衝動を語っていたりするんだけど、蜷川さんもこの劇場にいろんな夢を抱いていたんだなって。
あそこに行ったら踊りたくなるみたいに根付くといい。
――近藤さんはこれまでもいろんな形で音楽や演劇の分野と交わって活動されてきてますよね。
就任発表でも言ったんですが、ダンスって違う種類のエンターテインメントとクロッシングしやすいジャンルだと思う。いまなんか、SNSでも毎日ダンス関連のものが頻繁に上がる時代になってるし、ダンスが果たせる役割みたいなのはある気がします。
――ダンスに貢献したい、みたいなお気持ちもありますか? 裾野を広げていきたい、みたいな。
いまはあまり焦らないようにとは思っているんだけど、この10年…15年くらい、ダンスを広げるというより実践的にダンスに関わっていくことをやってきたんだよね。連続テレビ小説『てっぱん』のオープニングダンスの振付とか、豊島区のにゅ~盆踊りとか。地方でコンドルズをやらせてもらう時は地元の人が一緒に踊れることを考えたり。それは、もっと多くの人にダンスに関わってほしいっていう僕なりのメッセージなんだけど、それはここでもやらないとおかしいですよね。ただ、焦ってイベントにするんじゃなく、定着するような形にして、あそこに行ったら踊りたくなる、みたいに根付くといいなと思ってます。
――演劇や音楽事業として何か考えていることはありますか?
まだ次期なんで、いまは観察の気持ちの方が強いんだけど…ふざけた名前だけど真面目なダンス公演とか、音楽ホールでゴールデンボンバーみたいに一切楽器を弾かないクラシックの演奏会とか、そういうのを観てみたいですよね。バーチャルみたいなものも僕的には面白いなって思ってるし。
――そういう自由な発想にとって、公共劇場の芸術監督という立場は制約になりませんか? 窮屈さというか…。
ここには優秀なスタッフが揃っているから、そこは大丈夫かなと。まあ実際、今日もこれから知事と会う予定があったり、社会組織の中に入った感は若干ありますよ。当然緊張もするし、ヘタなことは言えないなと思うし。そういう意味での常識は持ち合わせていないといけないけれど、発想することに関しては制約を設けずにいままで通りいこうとは考えています。
こんどう・りょうへい 1968年生まれ、ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。大学在学中にダンスを始め、’96年に男性だけのダンスカンパニー・コンドルズを旗揚げ。全作品の構成、映像、振付を担当。大河ドラマ『いだてん』のダンス指導をはじめ、さまざまな映像作品やCM、MVなどの振付も数多く手がけるほか、ワークショップなどにも精力的。
近藤さんが構成、映像、振付を手がけるコンドルズ埼玉公演2021新作『Free as a Bird』は、6月5日(土)、6日(日)に上演。コンドルズは’06年から、ほぼ毎年初夏の時期に彩の国さいたま芸術劇場で公演を行っており、毎回、この劇場の機構をふんだんに使ったここでしか見られない新作を発表している。
※『anan』2021年6月2日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)