あなたならどうする? 究極の倫理ゲームを描くコミック『エチカの時間』

エンタメ
2020.06.23
ある人を助けるために、ほかの人を犠牲にすることは許されるのか。これは「トロッコ問題」という有名な思考実験の命題だが、新型コロナウイルスの感染拡大下、まさにこの問いを突きつけられるような場面が見受けられた。本作『エチカの時間』のタイトルにある「エチカ」とは、倫理のこと。玉井雪雄さんはある種の息苦しさを覚えて、このテーマに行き着いたそう。
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「具体的には、SNSなどで自分の意見を自由に言えるようになって久しいですが、声が大きく、短い文章で“いかにも”なことを言える人の意見が力を持ち、なんとなくの雰囲気で良いこと悪いこと、正しいこと間違っていることが決まってしまうような息苦しさです。じゃあ何が正しいのかと考えたとき、『倫理』という言葉が浮かびました。なぜ人はしていいこと、したら気が咎めることを知っているのか? 頭では悪いことをやっちゃえと思っていても、違和感があったり、夢見が悪かったり、ひどいときは心を病んだりして、普遍的にどこかで判断している。それはなんだろうと思ったのです」

トロッコ問題が発生するのは、なんと渋谷のど真ん中。巨大な鉄球の落下事故を予知し、スクランブル交差点を歩く一般市民250人の死傷者を出すか、鉄球の転がる方向を人的に操作することで工事関係者3人を死亡させるか……。七太郎というやや奔放な次世代AIに倫理を教えるべく、ふたりの男女が究極の選択を迫られる。思考実験の過程は、心の内に潜む“悪”と向き合ったり、忘れたい過去を思い出したりなど、なかなかハードなのだが「で、自分ならどうする?」と常に問われる緊張感がある。ふたりが導き出す答えはもちろん伏せておくが、「トロッコ問題の解決策を頭のいい人や倫理の先生に聞いて取材をしたところ、出た答えに納得がいかず、あらゆるシミュレーションをした」上でのラストであることを付け加えておこう。

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「法律にあるから、上の立場の者が言ってるから、という“思考停止”こそ一番の悪だと思います。この本を読んでも“こういう結論だからこうする”ではなく、“自分ならあのときの経験と感情でこうなったからこうする”と考えることが大事。ですから読み終えたら一度は誰かと話してほしい。人と話すことによって、さらに考えることにつながるので」

『エチカの時間』1、2 Fラン大卒のフリーター日野と、AIのエチカを“育倫”する「エチカ・アカデミー」の劣等生・百上が渋谷で起こるトロッコ問題に挑む、究極の倫理ゲーム。小学館 各591円 ©玉井雪雄/小学館

たまい・ゆきお 主な作品に『OMEGA TRIBE』など。本作は『ビッグコミックスペリオール』で連載中。8月末発売予定の3巻では、新たな案件が始動。

※『anan』2020年6月24日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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