料理家・冷水希三子さんが愛用している日用品について語ってくださいました。冷水さんが大切にしている品は祖母から受け継いだ「大きなすり鉢」です。

「普通のごまのおにぎりなのに、自分では握れない」

冷水希三子

この陶製の大きなすり鉢は母方の祖母が使っていたものです。最初に見た記憶は幼稚園児の頃ですが、たぶん私が生まれる前からあったはず。その頃、自宅近くの母の実家にほぼ毎週末遊びに行っていました。そこには、母屋や離れとは別に炊事場のある小屋が建っていて、祖母一人で家族10人くらいの食事をそこで作っていたんです。朝、昼、晩の三食だから、一日のほとんどをそこで過ごしていたと思います。祖母の作るごはんで一番印象に残っているのがおにぎり。このすり鉢で白ごまをすって白いご飯を入れ、まぜて握ります。祖母の料理はいろいろ食べたはずなのに、このおにぎりが一番の思い出の味。ごく普通のごまのおにぎりだけど、あの味は自分では握れないんです。

母も祖母のそうめんの出汁は作れても、おにぎりはできないと言います。今見たら握り方がわかるはずですが、幼かったので残念ながら全然覚えていません。その当時はごく自然に食べていて、今思い出すと美味しかったなと。母によると、祖母はどういうわけか、手に水をつけずにおにぎりを握れる人、と近所に知られていたそうです。その仕組みは謎のままなのですが。それで、あんなふうにシンプルなのに美味しいものが毎日作れる人になりたいと思い、料理の仕事をする中で、持っていた母から譲ってもらいました。

この見た目も気に入っています。ぼってりして、釉薬のかかっているところとかかっていないところがむらになっている感じとか、雑なところも含めて。たぶん当時はどこにでも売っている普通のものだったと思いますが、今はきっと同じものは作れない。作るとしたらもっときれいで工業的な感じのするつくりになるんじゃないでしょうか。普通なのに普通じゃない。置いてあるだけで毎日見ているわけでもないのですが、自分の中では大事なものです。それもあってか、すり鉢はなぜか豊かなイメージを感じるアイテムで、これを含めて約10個も持っています。すり鉢で作ると何となく美味しそうに思えるのは、子どもの頃の記憶のイメージが残っているからのような気がします。

ひやみず・きみこ レストランやカフェの仕事を経て独立。料理に関するコーディネート、スタイリング、レシピ作成をはじめ、料理教室も行っている。『さっと煮サラダ』(グラフィック社)など著書多数。

※『anan』2019年3月6日号より。イラスト・塩川いづみ 取材、文・綿貫あかね

(by anan編集部)

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