親の「あなたならできる」は「できないとダメ」? 親の呪いの解き方 #83

文・おおしまりえ — 2020.8.20
あなたの親は、あなたをどんな風に育てましたか? 親が無意識に子どもに求めた生き方を、私たちは時として「呪い」として深く刻み込んでいます。そのひとつが「あなたならできる」という期待の言葉。 でも、できるという期待は裏側に「できない私はダメ」というプレッシャーが含まれています。その言葉の呪い、どうやって解いていけばよいのでしょうか。

【おおしまりえの恋愛道場】vol. 83

「あなたならできる」親からの呪いを抜け出すために知りたいこと

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「あなたならできる」

親からそんな言葉をかけられた経験はありませんか。現在放送中のテレビドラマ『私の家政婦ナギサさん』が話題になっていますが、人気の秘密のひとつが、母親から主人公にかけられた言葉の呪いだといわれています。

あなたならできるというフレーズには、一見すると相手への信頼とポジティブな期待を感じますが、当人からするとそうでもないことも…。例えばここ一番に「あなたならできる」と言われたら、頑張ろうという前向きな気持ちになるものですが、日常的に「あなたならできる」を刷り込まれていると、逆にできない自分を激しく責めてしまうことになります。そして悲しいことに、親の声がけのほとんどは後者であることが多いのです。

親からの信頼と見せかけた過剰な期待は、子どもからすると良くないプレッシャーにしかなりません。では親からの呪いの言葉で自分が染まりきっている方はどうしていけば良いのでしょう。

大切なのは「できる<やりたい」を自分に教える

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実はかくいう筆者も、長くこの「自分ならできる」という言葉に苦しめられていたひとりです。親からその言葉を直接かけられていたわけではないのですが、「大事にされるためには頑張らなくてはいけない」という気持ちが無意識に強くあり、その結果自分に厳しい生き方をしていました。

  • 仕事では「やりたい」よりも「できる」「効率的」を優先。その結果定期的に心が疲れて燃え尽きる
  • 彼に頼めばいいことを全部自分で引き受ける。その結果彼がダメ(気力減退)になっていく

なんてことをよくしていました。よく言えば「合理主義」だったわけですが、合理的に物事を選んだ結果、自分に負担がかかるなんて、悲しすぎますよね。

ではこういう生き方をどう変えていけば良いのかというと、人生は「できる」よりも「やりたい」を基本的には優先して良いものであると、自分に教えてあげることです。

「自分ならできる」の呪いは、どうしても良い結果にフォーカスした選択をしがちです。でも大事なのは、結果が良いか悪いかよりも、後悔しない取り組みをしたかが大事。つまり、大切なのは「やりたい」という意志をなるべく活かしてあげることにあるのです。これをまず、自分の心に深く、マメに教えてあげることが大切です。

「相手の期待に応えない自分は価値がない」をやめていく

「やりたい」を優先していいとはいえ、例えばそれは「働きたくないから今すぐ仕事をやめて良い」といった極端なことを言いたいわけではありません。「仕事を今はやめられないけど、働きたくない自分は許す」という感じ。自分への厳しいジャッジをやめていくイメージです。

「あなたならできる」という言葉の裏で「できない私はダメ」というメッセージを私たちは無意識に読み取っています。その結果、「相手の期待に応えられないと自分には価値がない」という刷り込みに繋がっていきます。ああ怖い。それをやめるためにもポジティブ思考に……と急に逆に振るのは大変なので、もう少し緩く。「できる自分でもいいし、できない自分でもよし」と自分に「オールOK」を緩く出してあげることが大切です。

認知の歪みは文字で直す

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漠然とした苦しさを持って生きていると、「とはいえ、自分にOKを出すって、いつ出せばいいの?」と疑問が残るかもしれません。それはズバリ「感情がネガティブに動いたとき」です!

落ち込んだりイラついたりなんかモヤーとした時は、心がOKを出してほしがっているサインと思いましょう。自分が何に苦しんでいるかわからない時の対処法として以下の出来事を3つの要素にわけて書き出すと心が整理しやすくなります。

  • 行動や出来事(事実)
  • 今の気持ち(感情)
  • 自分の考え(解釈)

例1

仕事で急なスケジュールを詰め込まれた。別件が忙しかったのに無茶を言われ、急にムカついてきたと同時に、急がないといけないのになんだか頭が回らなくなってしまった。

事実
仕事で急なスケジュールを詰め込まれた
別件が忙しいのに無茶を言われた

感情
ムカつく
血の気が引いて頭が回らない(不安)

解釈
こちらの都合も考えない上司は私を雑に考えている
以前間に合わなくて怒られた記憶がある。また間に合わないのではないかと思うと不安になる

こうして考えると、突然騒ぎ立てる感情の理由が一歩引いて見えてきます。こちらの都合を考えない上司とありますが、正しく自分は抗議できていたでしょうか? 以前と同じように本当に失敗してしまう可能性があるのでしょうか。

1つ1つゆっくり捉えられれば「私は抗議できない自分に怒っていたんだ。でも言えない自分でも大丈夫だよ」と、自分に緩くOKが出せると思います。

例2

彼氏とデートの約束していたのに、時間になっても来ないし連絡もつながらない。何かあったのではという不安と、なんで連絡もないのかという怒りで震えてくる。

事実
彼が約束の時間になっても来ない
連絡もつかない

感情
不安
激しい怒り

解釈
彼が事故などのトラブルに巻き込まれたのではないか。
連絡もないなんて、自分は凄く雑に扱われている。自分は無視されるような存在なんだ。

文字にすると、「彼はただ寝坊してるだけでは?」って思いますよね。実際この事例は彼がスマホを忘れて遅刻しただけだったという話。文字に起こして感情が高ぶる原因を突き止めたら「トラブルが自分はとっても心配なんだなー」と緩く受け入れてあげること。また「自分は無視される存在だ」という歪んだ解釈は、少し呼吸を整え「それは自分の極端な考え方で、事実はわからないよ」と心に教えてあげましょう。

少しずつジャッジメントを外してあげることで、無意識の呪いからも開放されていくのです。

人は身近な人の振る舞いや考え方、そしてかけられた言葉をコピーし成長する特性があります。そして身近な人の代表は母親であることが多いもの。親の言葉や親の対応は、私たちが思っている以上に根深く私たちの生き方にトレースされているのです。

とはいえ、人生がいつまでも親のトレースではつまらないですよね。ぜひ自分のクセや苦しさを紐解き、親からの呪いから開放されて、素敵な恋愛や素敵な人生を歩めるように頑張りたいものです。


おおしま りえ/恋愛ジャーナリスト

10代より水商売やプロ雀士などに身を投じ、のべ1万人の男性を接客。本音を見抜く観察眼と、男女のコミュニケーション術を研究し、恋愛ジャーナリストとして活動を開始。私生活では20代で結婚離婚を経験した後、現在「女性自身」「週刊SPA!」など大手メディアを中心にコラムを執筆中。


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