GRAPEVINE・田中が語る「流行の音楽とは真逆なことをしている」アルバムの魅力

写真・安田光優 取材、文・かわむらあみり — 2021.5.25
【音楽通信】第78回目に登場するのは、多くのミュージシャンからリスペクトされているロックバンド、GRAPEVINE(グレイプバイン)のヴォーカル&ギターの田中和将(たなかかずまさ)さん!

バンドを続けてこられたのは光栄なこと


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田中和将(Vo,Gt)。楽曲作りでの優れたストーリーテリングも注目されている。


【音楽通信】vol. 78

1993年に大阪で結成し、1997年にミニアルバム『覚醒』でデビューしたGRAPEVINE。現在は、ヴォーカル&ギターの田中和将さん、ギターの西川弘剛さん、ドラムの亀井亨さんの3人にサポートメンバー2名を加えて活躍しているロックバンドです。

GRAPEVINEが鳴らすオルタナティブなロックサウンドは、音楽シーンにおいて不動の存在感を放ち続け、多くのミュージシャンからもリスペクトされています。

そんなGRAPEVINEが、2021年5月26日に約2年ぶりのニューアルバム『新しい果実』をリリースされるということで、バンドを代表してヴォーカル&ギターの田中和将さんに、お話をうかがいました。

ーーおさらいとして、まずは田中さんの音楽的なルーツから、教えていただけますか。

兄の影響で音楽を聴き始めました。RCサクセションとTHE STREET SLIDERSという日本のロックバンドがおりまして、兄がこの2組のCDを持っていたのでよく聴いていましたし、ライブビデオも観て触発されて「ギターがほしいな」と思いまして、そこからギターを始めたんです。

でも、歳の離れた兄が聴いていたバンドなので世代が違って、リアルタイムで僕のまわりにはそういったロックを聴いていた人はいなかったんですね。なので、音楽の入り口は、ちょっと古いところから入っています。そこから洋楽志向になって、RCサクセションとTHE STREET SLIDERSのルーツになっている音楽や、ザ・ローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズなどを聴くようになっていきました。

ーー2021年でデビュー24年目となるGRAPEVINEですが、長きにわたり音楽シーンでご活躍されているのはすごいことですね。

バンドを続けてこられて光栄ですけれども、やめどきを失ったというか(笑)。振り返ってみるとこれまでいろいろな波はありましたし、当初4人だったメンバーがひとりやめまして、現在の3人になりましたし。そういうこともありながらも、その都度乗り越えてこられたのは、まわりの方の尽力のおかげです。バンドといっても、バンドだけでは動いていけないので、いろいろな方との出会いだったり、お客さんだったり、みなさんに支えられてきていることは、すごく実感していますね。

ーー2020年から世界的にコロナ禍となり、音楽制作においても状況が変わってきたと思いますが、音楽家として心境の変化はありましたか。

やっぱり、非常に悔しい、もどかしい気持ちがあります。単純にいえば、仕事は減りました。ただ、それは音楽業界に限らず、あまり表立って見えていない職業においても、困っている方もたくさんいますよね。そういうところにもスポットが当たるようになればいいなと思っています。

新作は「世の中を考えるきっかけ」にしてほしい


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ーー2021年5月26日に、ニューアルバム『新しい果実』をリリースされますね。いつごろから制作されていたのですか。

2019年の時点で「次のアルバムをどんなふうにしようか」という話をしていて、年末から2020年の年明けぐらいにかけて曲を作り始めていって、春ぐらいからみんなでスタジオに入って、仕上げていこうと思い描いていました。

でも、2020年になり、1度目の緊急事態宣言が春に出まして「これは集まれない」と。そうしてどんどん予定が後ろ倒しになっていき、昨年は決まっていたライブもほとんどが飛びました。ようやくメンバーが集まれたのは、9月ごろです。それからみんなで曲を作り始めました。それまでは、それぞれ個人で曲を作ってはいたんですが、持ち寄ることができなかったんです。

世の中には、離れていても、データのやりとりをして曲を仕上げるバンドもいると思うんですが、そういうのは個人的に乗り気じゃなくて。やっぱり集まってアレンジしながら作っていくのがバンドですから。顔を合わせて音楽を作っていくほうが、僕の性に合っているんです。

なので、集まるまではもどかしいところもありましたが、集まってからは、非常にやりがいがある仕事なので、非常に楽しく制作できたアルバムになりました。

ーーアルバムの先行配信シングルに、力強いドラムから始まる「Gifted」、ファルセットから始まる印象的な「ねずみ浄土」、明るくポップな「目覚ましはいつも鳴りやまない」の3曲がありますが、これらを選んだ理由はあるのですか。

時代的にもうシングルとしてのCDって、あまり出さないじゃないですか。数年前までは、「これがシングルCDになるぞ」となったら、意識する部分もありましたが、近年は配信の時代になって。アルバムの収録曲は満遍なく、その曲ごとに曲を仕上げることだけを考えてやっているので、どれがリード曲になるのかは、後から決まることが多いんです。今回も、この3曲は会社の方が決めていますね。

ーーアルバムでは、どの曲が最初にできた曲なんでしょうか。

厳密にどこを起点とするかは難しいのですが、レコーディングで最初に手をつけたのは「Gifted」なんです。というのは、「Gifted」は亀井くんの曲なのですが、わかりやすくデモテープに「亀井デモ1」「亀井デモ2」というような仮タイトルがついていて。レコーディングの際、「じゃあ、わかりやすく1からやっていこうか」とやり始めました。案外、そういうものなんですよ。最初に手をつけた曲がリード曲になることが多いですね。

ーー収録曲の「阿」は、作詞は田中さんですが、作曲はメンバーのみなさん3名と、サポートメンバーのベースの金戸覚さん、キーボードの高野勲さんの5名で作られていますね。


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近年はみんなで曲を作る機会も増えていまして、セッションでゼロから作る場合はこういうクレジットになります。5人で音を出しながら、アイデアをひろって、ばーっとテープを流しながら、何かしら曲になったりならなかったりを繰り返して、あとでそれを聴いて「ここはおもしろいんじゃないか」「この雰囲気は使えるんじゃないか」とみんなのアイデアを足して作っていくんです。

ーーでは、アルバムタイトルの「新しい果実」の意味も教えてください。

「新しい果実」という言葉は、いろいろなことにかかるしかけられる、想像力が膨らむ言葉かなと思って。先行配信シングルになった「ねずみ浄土」でも、「新たなフルーツ」と歌っている箇所があるんですが、そこにも何十にも意味合いを含ませています。

ーー田中さんご自身では、聴き手に『新しい果実』をどのように聴いてほしいでしょうか。

昨今、どちらかというと、答えが出ている音楽を人々は求めている気がするんです。説明的な、わかりやすく盛り上がれるもの、わかりやすくエモいものなど。でも、この『新しい果実』では、イントロが長かったりとか、そういった流行の音楽とは、けっこう真逆のことをやっていると思うんですよね。

だからこそ、聴き方としては、自分のほうに僕らの音楽を引き寄せて、いろいろな想像をしてみてほしいんです。世の中のことを歌っているので、さまざまな捉え方ができる曲ばかりなんですよ。何かを考えるヒントや、議論のきっかけとして、聴いてもらえればいいなと思いますね。

ーー考察しながら聴くというのも、音楽の新しい聴き方の良さでもありますよね。

それがね、難しいところでもあるんですよ。最近音楽を聴く方のなかには、わからない曲はすぐ飛ばしちゃう人も多いんですよね(笑)。

ーー飛ばさないで聴いてほしいですね(笑)。

物事を見るきっかけだったり、いままでは見えていなかったことを見るきっかけだったり、このアルバムが世の中のことを考えるきっかけになってくれればいいなと思います。

ーー6月から9月までは、全国ツアー「GRAPEVINE tour2021」が、有観客で行われますね。

そうなんです。もともと7、8月はオリンピック開催予定のタイミングなので、以前からその期間は日程をあけてスケジュールを組んでいて。その結果、6月からツアーがスタートして、7月は少しの本数がありますが8月は行わず、最終日の9月15日まで開催します。

当初の予定では、本当はもう少しライブ本数があったんです。ただ、このご時世、小さめのライブハウスは人との距離が近いのでなかなか厳しいかなと。そこでホールや席がある会場に絞っていって、ツアーの本数を減らしたスケジュールとなりました。

ーー今年の4月にも、日比谷野外音楽堂で有観客のワンマンライブをされていましたね。

これは本当に、やれてよかったですね。いろいろな声もあるでしょうし、いろいろな立場の方もいらっしゃるでしょうし、こればっかりは言い切れるものはないんですが、この野音に関してはずっと前から決めていたことだったので、無事に終わって安心しています。

GRAPEVINEはストイックに活動していく


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ーーお話は変わりますが、田中さんの普段のご様子もうかがいたく、ご趣味はなんですか。

あまり趣味はないほうなんですが、音楽も趣味ですし、あとは本を読むこと、映画を観ることですね。

ーー読書家としても知られる田中さんですが、最近読まれた本は。

僕は常に本を読んでいるので、どれを出すべきかなと思いますが、芥川賞をはじめたくさんの賞を獲られている、津村記久子さんという作家さんにこの間、ハマりました。めちゃくちゃ文章が面白かったです。

ーーではもともと、おうちで過ごすことがお好きなのですか。

特別、インドア派ではないんですよ。かといって、スポーツをやっているわけではなく、このご時世なのでなかなか遊びに行くこともなく。どこかに行くときは、個人的に行くよりも、子どもを遊びに連れていくことが多いのですが、いまはそれもありません。なので、日常で何をやっているかというと、仕事をしていないときは、なかば主夫です(笑)。うちは共働きなので、家のことは、夫婦ふたりでやっていますね。

ーー素敵ですね。ちなみに、お子さんはおいくつなのですか。

一番上が大学生の女の子で、二番目が高校生の男の子、末っ子が今年から中学生になった男の子です。にぎやかですよ(笑)。でも、コロナ禍になってからは、大学なども今年に入ってからようやく登校するようになっていて。昨年はまるまるリモートでしたから、本当は楽しい時期にそんな状態だったのは、かわいそうだと思いました。

ーーこの状況下ではいろいろな影響がありますね。そんななかでも、おうちでご家族みんなで遊んだりすることはありますか。

もう、子どもたちは大きいので、それぞれ好き勝手にしていますね。まあ、わりとみんなで、ミュージックビデオを観ることはあります。

ーーそれはGRAPEVINEのビデオを?

いえいえ、全然違うんです。うちの子どもたちも音楽好きなんですが、高校生の息子は、最近のヒップホップのおすすめを僕にどんどん教えてくれるんです(笑)。

ーーおお(笑)! 将来、バンドマンになったりするのでは?

バンドというよりは、ヒップホップが好きなので、トラックを作ることに興味を持っていますね。


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ーーGRAPEVINEはロックバンドとして常に向上され、新しい音楽の世界をいつも聴かせてくれます。わたしたちも、常に向上していきたいものですが、田中さんが普段、意識していることはありますか。

自分自身が向上できているかはわかりませんが、ただ、モチベーションが一番大事だとは常に思っています。厳しい状況になっても「これでいいや」と思わない。「もうちょっと、やれることがあるじゃないか」って。自分の枠をはめすぎない、決めつけすぎないのが、大事なのではないかと思いますね。

ーーでは最後に、GRAPEVINEとしての今後のご予定をお聞かせください。

まずはアルバムをみなさんに聴いていただいて、リリースに伴うツアーができれば、今年の半分以上は終わりますね(笑)。僕らは、ストイックに音楽をやって、ライブをやってということを繰り返してきたバンドなんです。音楽的には別の話なんですが、たとえばイベントを立ち上げるというようなメディア的に新しいことを行うタイプのバンドではないので、いまは状況的に難しいこともあるとは思いますが、この先もストイックに活動していこうと思います。

取材後記

深遠なる音世界を描くGRAPEVINEにおいて、胸に迫る艶めいたボーカルを聴かせてくれる田中和将さん。ananwebの取材日はとてもお天気が良いなか、撮影もインタビューも、和やかにご対応くださいました。そんな田中さんをはじめとしたバインのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。


写真・安田光優 取材、文・かわむらあみり

GRAPEVINE PROFILE

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田中和将(Vo,Gt)、 西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)からなるロックバンド。1993年から、大阪で活動開始。バンド名は、アメリカのソウルシンガー、マーヴィン・ゲイの曲「I heard it through the grapevine」から借用している。

自主制作したカセット・テープが注目をあびて、1997年にミニ・アルバム『覚醒』でデビュー。「スロウ」「光について」の2枚のヒットシングルを含む2ndアルバム『Lifetime』(1999)がオリコン3位を獲得。

2017年、デビュー20周年を迎え、15thアルバム『ROADSIDE PROPHET』をリリース。2019年 2月、16thアルバム『ALL THE LIGHT』をリリースし、音楽評論家や専門誌から高い評価を受ける。

2020年 11月、約1年ぶりとなる有観客でのワンマンライブを神奈川県民ホール大ホール、大阪オリックス劇場、東京は中野サンプラザにて開催し、コロナ禍においても全公演のチケットが即ソールドアウト。12月、TRICERATOPS初のトリビュート盤『TRIBUTE TO TRICERATOPS』に参加。

2021年 4月、日比谷野外大音楽堂にて年内初ライブを開催。5月26日、17thアルバム『新しい果実』をリリース。6月12日の福岡・DRUM LOGOSから9月15日の東京・LINE CUBE SHIBUYAまで、全国ツアーを実施。

Information

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New Release
『新しい果実』

(収録曲)
01.ねずみ浄土
02.目覚ましはいつも鳴りやまない
03.Gifted
04.居眠り
05.ぬばたま
06.阿
07.さみだれ
08.josh
09.リヴァイアサン
10.最期にして至上の時

2021年5月26日発売
*収録曲は全形態共通。

(通常盤)
VICL-65501(CD)
¥3,300

(初回限定盤)
VIZL-1895(CD +2LIVE CD)
¥5,500

(スペシャルパッケージ盤)
NZS–837(CD+2LIVE CD)+『新しい果実』Tシャツ(シリアルNo.入り)
¥9,350


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