
ユニークなキャラクターに愉快なトーク、個性的なジェンダーレスファッション。ドラマや映画のみならず、情報番組でもインパクトを残す坂口涼太郎さんとはどんな人?
“らめ活”とは、坂口涼太郎さんが標榜している言葉。“諦め”の“らめ”だけど、決してネガティブな意味ではなく、ないものねだりを諦め、現実を明らかにして自分自身を受け入れていくというもの。今その“らめ活”が共感を呼んでいます。
── 昨年出版した初エッセイ『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』がすでに5刷重版と大好評です。視点のユニークさもですが、言葉選びが巧みだなと思いました。
坂口涼太郎(以下、坂口) これまで読んだ本や映画、音楽の影響もあると思いますし、いろんな方が書かれた言葉や文章をセリフとして一回体に入れて喋ってきた経験も大きいのかなと思います。あと、“らめ活”はデタラメの“らめ”でもあるんですが、もともとデタラメが好きで、友達同士の間でしか通じないような言葉を遊びで作っていたので、自分の中で言葉はすごく自由なものだと感じていたのもあると思います。
── とくに比喩が独創的で。
坂口 直接話していると、表情や声の大きさ、リアクションでこっちのテンションが伝わりますが、文章では伝わりにくい。だから、どう書いたらそれが伝わるかなって考えていました。ある小説の中で薄いセーターを「玉ねぎの皮のような」と書かれていたのですが、自分が読者として、そういう表現が好きなんです。たまに、誰も使っていなかったような面白い比喩表現が見つかると嬉しいです。
── ということは、今回著書をご自身が朗読するAudibleは、ぴったりのツールなんですね。
坂口 自分の人生で、もし本を出すことがあったら絶対オーディオブックも作りたいと思ってました。どんな人でも読書体験ができたらと思うし、選択肢がひとつでも多いほうがいいと思ったし。自分で読んじゃえばお得ですしね(笑)。
── ご自身が書いたものを自分で朗読するのはいかがでした?
坂口 『AND JUST LIKE THAT...』という『セックス・アンド・ザ・シティ』の新章のドラマで、コラムニストのキャリーが自分の本をオーディオブックにする回があるんです。死別した夫のことを書いた箇所で泣いてしまうシーンを見て、自分はこうならないぞって思ったのに、全然なるんですよね。自分で書いたのに泣いちゃったり笑っちゃったり、すごく恥ずかしい。でも、そんな揺らぎもまたドキュメンタリーのようで、作者自身が読む意味があるんじゃないのかなと。
やらないとわからないから一回やってみるんです

── デタラメ好きは昔から?
坂口 正解とか真実とか、あまり知りたくない子供でした。正解を出しちゃったら話終わりじゃんって思ってましたから。よく団地の入り口で、暗くなるまで友だちと、想像力や妄想力でデタラメに話を広げて楽しんでいました。
── 学校教育では右向け右になりがちですが、周りと違うことをやる性分はどこで育まれたと?
坂口 人と違うことに対しての壁は、いちいち直面していたと思います。そこを肯定できているかと言われたら全然できていなくて、周りに合わせることが苦手で、それをできない自分を、今も悔しいと思ったりします。ただ、そういう自分を認めていかなければ次に進めない。自己肯定じゃなくて自己認識だと言っていますが、昔より自分はこういう人間だと理解しているから、そこはもう諦めて、そういう自分を認めて慣らしていってる。それが“らめ活”です。
── 周りに合わせられずに苦労したこともあるんですね。
坂口 ありますよ。やっぱりコミュニティごとにルールがありますから。でも、そのルールが自分の中で正しいかどうかを考えたときに、納得できないこともあって。そこを追求すると、ルールはルールだからって答えになってしまうことも多い。じゃあなぜそのルールに従わなければならないの、と思うし、それについて対話するのも結構好きなんです。
坂口 でも、それって話し続けなきゃいけない。人間同士どうしても相いれないものもあるし、自分は理解できないけれど、相手が納得してやってるならいいし…ってことだと思うんです。そのためにも、私は一回受け入れてやってみる。やらないと何事も明らかになりませんから。それも“らめ活”なんです。
── そういう坂口さんの気質を培った根底にあるカルチャーって、ご自身ではなんだと思います?
坂口 なんだろう…でも、結構小さいときに見たサーカスかもしれない。サーカスって、それぞれジャグリングとか、バイクとか曲芸とか、いろんなことを諦めながら自分を明らかにしていった先に鍛錬があって、それをドヤッて見せてくれている。私も、サーカスみたいに、面白そうとか見てみたいって思ってもらえるような存在でありたいですし。幼稚園の頃はサーカスの人になりたかったようです。自分の体を使って何かを表現したい人だったんでしょうね。
── だからダンスにハマったのかもしれないですね。
坂口 ダンスで全身を使って表現するのがすごく楽しかったし、自分のカルマみたいなものを発散できるような感じがしたんです。学校で、みんなが正解正解言っててつまらないと思った足で、電車に乗ってダンススタジオに行って、音楽と一緒になって踊ることは、当時の自分の救いでした。
本に「ちゃ舞台の上でおどる」というタイトルをつけたのも、モヤモヤすることがあったら踊っちゃえばいいんじゃないのっていう提案なんです。頭で考えても答えが出ないことって、いま考える必要がなかったり、考えても仕方ないことだと思うんです。そういうときに踊ったり体を動かしてみると、これは明日でいいかとか、明らかになるんですよね。ちなみに「ちゃ舞台」とはちゃぶ台と舞台を掛け合わせたもの。幼い頃から家のちゃぶ台の上で踊っていた私にとって、ちゃぶ台はまさに舞台だったんです。
── 言葉がなく体で表現するダンスの世界にいて、演技という言葉を使った新たな表現をやるようになって、難しさは感じました?
坂口 私が踊っている姿を見た先輩から、「お前、すごく喋りたそうに踊っているな」って言われたことがあるんですが、踊りながらも、めっちゃ喋ってるんですよ。踊っているときも自分の中にはセリフみたいな言葉があって、それを発しているか発していないかの違いなだけで。逆に、お芝居をしているときも、そのときの気分や感情を体で表現しているので、踊っている感覚とあまり差がないです。
── では、言葉を持ったことで、武器が増えた感じ?
坂口 そうかもしれないです。もともとミュージカルをやりたくてダンスに出合っていますし。

── エッセイの中に仕事がなかった時期のことも書かれていますが、焦ったり不安になったりは?
坂口 あったとは思うんですが、そこはあまり重大ではなかったというか。自分はたぶん、若くして売れることはないなと思っていました。すごくきれいな容姿を持っているわけでも、何か特別な才能を持っているわけでもなかったので。ただ、自分が「これが一番オモロいやろ」って表現をやっていたら、いつかそれを「面白いね」と思ってくれる人に出会えて、それが繋がれば何かになれるんじゃないかという根拠のない自信みたいなものはありました。
表現って人生経験が生きてくるものだろうから、暇な今は、いろんなところに行っていろんな経験をする時間にしようと、海外に行ったり、アルバイトをしたりしていました。アルバイトしながら、自分のやりたいお芝居だけやるっていうのでも全然いいと思っていましたし。
── それでもお芝居がしたい、という気持ちは続いたんですね。
坂口 やっぱり私は演劇が好きなんです。お客さんと同じ社会状況を共有した中でやっているというリアルタイム感と、逐一反応があるヒリヒリ感。やっている最中は毎回恐ろしくて、やりたくないって思うけれど、打ち上げでの達成感たるや…。そのためにやっていると言ってもいいくらいです。
── これまででとくに達成感を得られた瞬間はありますか?
坂口 最近もNYで公演してきましたけど、木ノ下歌舞伎の『勧進帳』は、人生を変えてくれたと言っても過言じゃないくらい大切な作品です。あの作品に出合うまで、ひょうきんな役とか奇抜な役が多かったんですが、ひとつの役として深く掘り下げられる役に出合えた感じがしたんです。それまで自分の想像の中で計算してお芝居していたんですが、演出家や主宰の方から自分が想像していた以上の説明を受けてお芝居をしたら涙が止まらなくなってしまって。自分で予想もしていなかったことだったけれど、これでちゃんと終われるなってシーンになったんです。
── 映像に比べて舞台は観られる人の数が圧倒的に少ないですが。
坂口 演劇ってせっかく1か月とか2か月稽古しても10日で終わっちゃうなんて、世界中の人に観てほしいのに…とは思うんですよ。でもその半面、10日しかやっていないのに時間をわざわざ作って足を運んでくれた何百人がいて、一緒の時間を共有できたからいいやとも思うんです。もちろん多くの人に存在を知ってもらえるってすごいことだけれど、数がすべてじゃないですし。ただ、演劇はもっと盛り上がってほしいので、私なりに頑張りたいし、字幕や音声サポートのような、多くの人に裾野を広げることもやっていきたいです。
── ちなみに奇抜なメイクや衣装は、どんな想いからくるもの?
坂口 単純に好きなものを着たいっていうだけですよ。洋服とかメイクのような視覚的なものって、自分はこういうテイストのものが好きです、って名刺みたいなものだと思っています。そこで驚かれたりするのも嫌いじゃないし(笑)、これを好きだと言ってくれる方が集まってくるのもいいですよね。
Profile
坂口涼太郎
さかぐち・りょうたろう 1990年8月15日生まれ、兵庫県出身。中学時代にダンスを始め、森山未來主演・演出の舞台『戦争わんだー』で初舞台。2016年の木ノ下歌舞伎『勧進帳』や映画『ちはやふる』などで注目を集める。3月30日スタートの連続テレビ小説『風、薫る』(NHK)、『有罪、とAIは告げた』(NHK BSP4K、NHK BS)に出演。
information
坂口さん初のエッセイ『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』は、ウェブマガジン「mi-mollet」(https://mi-mollet.com)での連載をまとめたもの。現在好評発売中の書籍(1870円/講談社)のほか、坂口さん自身が朗読を手がけたオーディオブックがAmazonオーディブル(以下、Audible)にて配信中。
写真・和泉琴華 スタイリスト・takashi sekiya ヘア&メイク・小園ゆかり/ YUKARI KOZONO インタビュー、文・望月リサ
anan 2489号(2026年3月25日発売)より



















