そ、そこまでしてくれるのか…! 感謝通り越して心配さえ抱く心尽くしのお店に出会うことが時々あるけれど、9月にオープンしたばかりの和食のお店『imoco』はまさにそれだった。店主の澤畑加世子さんは、やればおいしくなるとわかっている仕事を諦められない人。日本料理の名店での経験も活きているのだろう。感激の土鍋ごはんは、ぱつりと炊かれたツヤツヤの白米が輝いて、お米の研ぎ方からよそい方に至るまで、一つ一つの工程を真摯に積み重ねながらおいしさににじり寄っていく姿勢が窺える。脇を固めるおじゃこや梅干しも、もちろん自家製だ。
極めつきはデザート。もう水菓子(フルーツ)で全然いいのに、と思うのに登場するのはあんみつで、寒天も黒蜜も和三盆のアイスクリームもあんこも何もかもが手作り。丁寧で優しい調和に癒される。「あんみつが大好きなので、いつかあんみつで一番になりたいなって…」と照れ笑いの澤畑さん、私のあんみつ史においても一番の代物であった。それにしても、店を切り盛りするのは彼女お一人。そこへこの膨大な仕込み量だ。どうか無理はしないでね、これからも末長く楽しませてもらいたいので…と、親族のような気持ちで応援したくなる私(初めましてなのに)。これも彼女の人徳なのだろう。志高く、『imoco』の物語は始まったばかりだ。
7500円のコースから、北海道・仙鳳趾の牡蠣の冷製、京都・河北農園の賀茂茄子 利休仕立て、奈良のコシヒカリの土鍋ごはん、牛のしぐれ煮、ちりめん山椒、自家製梅干し、ぬま田海苔、香の物、赤出汁、あんみつ。グラスワインは山梨のグレイス甲州(グラス)¥1,100、日本酒も豊富。そのほか3500円のコースや、アラカルトも。
imoco 東京都世田谷区世田谷1‐15‐6 17:00~22:30(21:30LO) 不定休 詳細はインスタグラム(@imoco22)で。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)など。
※『anan』2023年10月11日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)